今月の音遊人
今月の音遊人:清塚信也さん「音楽はあやふやで不安定な世界。だからこそ、インテリジェンスを感じることもあります」
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鳥山雄司、神保彰、和泉宏隆からなるスーパーユニット「PYRAMID」。“今な感じ”の音づくりを追求したニューアルバムリリース/PYRAMIDインタビュー
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2018.10.17
名曲『世界遺産』のテーマ曲などで知られ、数多くのアーティストのプロデュースも手がけるギタリスト・音楽プロデューサーの鳥山雄司。CASIOPEAをはじめとするユニットでドラムを担当し、超絶ドラマーと称される神保彰。T-SQUAREを16年にわたって支え、脱退後も数多くの名曲と美しいピアノで聴き手を魅了する和泉宏隆。
それぞれ第一線を走り続ける3人で構成されるスーパーユニットPYRAMIDの4枚目のアルバム『PYRAMID4』が2018年9月5日にリリースされた。前オリジナルアルバムから実に7年。ファン待望のニューアルバムは、鳥山が「攻める感じ」と語る極上の音を存分に味わわせてくれる。
もともとは慶應義塾高校、大学時代のバンド仲間だった3人。2005年、「昔に戻ってインストをやらない?」という鳥山の連絡で集まったメンバーは、その場で六本木のピットインをブッキング。慶應を逆さにしたO!Kay Boysと名乗って、本格的な活動に入った。
「『O!Kay Boys』という名前はことのほか評判が悪く、『PYRAMID』に改名したんですが(笑)。高校時代から一緒にやっていた仲間がみんなプロになって、未だにそれぞれの活動を続けている。なおかつ、そのメンバーがこうやって集まれるのは小さな奇跡だと思います」
“言いだしっぺ”である鳥山は、PYRAMIDというユニットについてそう語る。
「頭も体も柔軟で、スポンジのようにいろいろなことを吸収する10代の時間を一緒に過ごしてきたからこそ、出せる何かがあると思うんです」(神保)
「鳥山くんがコントロールタワーですからね。この人は昔から、“音楽は快楽だ”みたいな、ともかく気持ちのいい音づくりをします」(和泉)
ふたりがそう話すように、PYRAMIDは大人のインストゥルメンタル・ミュージックを構築し、聴き手の耳と心を美しく心地よいサウンドで満たしてきた。
今回リリースされた『PYRAMID 4』には、卓越したソング・ライターでもある3人がそれぞれ書き下ろした新曲とカバー曲、全11曲が収録されている。
「80年代初頭の、半分打ち込みを使ったようなインストがリバイバルしているので、そのあたりをうまく取り入れられればという思いがありました。リアルタイムでやってきたことを30年後の今、もう一度やってみたら面白いんじゃないかって」(鳥山)
とはいえ、単に“あのころ”を再現しているのではないことは言うまでもない。
「日本にも面白い若いミュージシャンがたくさん出てきている一方、旧態然としている層とはすごい格差がありますよね。僕たちは年齢的に考えると“旧態”な方ですが、そっちにいるのはつまらない。10代から音楽をやっていたオジサンたちがノスタルジックで当時の音楽をやっているのではなくて、一応未来を考えている音楽であることを伝えたいという思いはありました」(鳥山)
今作品では制作過程も一変。レコーディングは、前3作までの“せーの!”の一発録から全員バラバラの別録りに。
「僕はどちらかというと、みんなで顔を合わせて録ることによる化学反応を大切にしてきました。だから、今回は半信半疑ではあったのですが、鳥山くんのビジョンやプロデューサー、アレンジャーとしての力量が半端なくすごくて。ラフミックスの段階ですごい化学反応が起きていて、イメージとまったく違うものが出来上がってきたんです。そういった制作過程も刺激的でしたし、こういう人がやるとバラバラに録っても化学反応が起きるというのはすごい発見でした」(神保)
「たとえば『Sweet Relationship』では、なんでもいいから弾いてと言われて(笑)完成形を聴いて、本当にびっくりしました」(和泉)
制作にあたっては、鳥山から神保に「今な感じのヨレたドラミングを」というリクエストもあったそう。
「僕もそういうのは気になって研究はしていたのですが、発表の場がなかったんです。たとえばCASIOPEAで、あえてヨレたドラミングをするわけにはいかないですから(笑)。今回PYRAMIDで、研究が活かされて嬉しかったです」(神保)
さらに、今回のアルバムでは、データ演奏のタイミングのズレを補正するクオンタイズを100%使用している曲はないという。
「機械でヨレたビートを生み出し、独自に取り入れたJ.ディラという人がいます。そのヨレっぷりは、でたらめじゃなくてロジカルなんです。そこで生まれるうねりのようなものが、ダンスビートの根本にあるのだろうという結論に達しつつあって。そうした音づくりも意識したので、今回は今までの作品とはちょっと違うかもしれませんね」(鳥山)
カバー曲ではThe Brother Johnsonの「I’ll Be Good to You」、再チャレンジに挑んだLee Ritenour & Gentle Thoughtsの「Captain Caribe」、Earth, Wind & Fireの「Runnin’」と3人が大きな影響を受けた楽曲を取り上げ、確かな技術とアレンジで現代に蘇らせた。
豪華ゲストにも注目だ。前作に続く葉加瀬太郎のほか、実力派ヴォーカリストの有坂美香やHanah Spring、ドラマー、プロデューサー、シンガーとしてマルチに活躍するmabanuaと若手も参加。
「彼らは我々とは5つぐらいジェネレーションが違います。面白いし、発想力があるし、すごい刺激になりますね」(鳥山)
加えて、マスタリングはイギリスの著名エンジニアで鳥山ともつながりがあり、アメリカ人以外では初となるグラミー賞を受賞したティム・ヤング。推し曲がないほど、バランスのいい一枚に仕上がった。
「新しいし懐かしい、心地いいし刺激的。相反する要素が混在する面白い作品。そして、とてもストーリー性のあるアルバムになったと思います。インタールードの入り方も、それが終わって次の曲に行く流れも絶妙。最近では、アルバムを通して聴く機会は少なくなっていますが、ぜひ通しで聴いてほしいです」
とても充実した気持ちだと神保は話す。一方、今はCDよりもストリーミングに興味があるという鳥山もこう胸を張る。
「ストリーミングでも満足していただける音になっているはずです。そのアップデート感みたいなものも感じていただければ」
作品でメロディアスな美しいピアノを響かせた和泉も笑顔を見せる。
「オジサンたちの叫びを聴いてくれという感じでしょうか(笑)。今もなんだかんだで一日一回は聴いていますが、音づくりの秘密とか新しい発見がまだまだありますね。そして、本当に細かいニュアンスがすばらしいと思います」
3人のスーパープレイ、そして進化し続けるスーパーユニットの“今”を、ぜひ堪能してほしい。
『PYRAMID4』
HUCD-10266
発売元:SUPER RAW/株式会社ハッツアンリミテッド
価格:3,000円(税抜)