今月の音遊人
今月の音遊人:小林愛実さん「理想の音を追い求め、一音一音紡いでいます」
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ブリティッシュ・ロックの神ドラマー、ビル・ブルーフォードの1970年代の2作品がリミックス再発
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2020.1.15
tagged: ドラマー, 音楽ライターの眼, ビル・ブルーフォード
ビル・ブルーフォードが1970年代後半に発表した名盤アルバム2タイトル『フィールズ・グッド・トゥ・ミー』『ワン・オブ・ア・カインド』が2019年11月、紙ジャケット仕様で日本盤リイシューされた。
イエス、キング・クリムゾン、ジェネシス(ライヴ・メンバーとして)、UKなど、イギリスのプログレッシヴ・ロックを代表するバンドを渡り歩き、またロックとジャズの垣根を超えた孤高のスタイルで活動してきた神ドラマーのビルが1978年に発表したソロ・アルバムが『フィールズ・グッド・トゥ・ミー』だった。アラン・ホールズワース(ギター)、ジェフ・バーリン(ベース)、デイヴ・スチュワート(キーボード)、アネット・ピーコック(ヴォーカル)が参加した同作はソロ名義ながら各ミュージシャンの超絶プレイをフィーチュア、“バンド感”を放っていた(ビル自身も自伝でこのラインアップを“私のグループ”と呼んでいる)。
ビルとアランは同作発表後にジョン・ウェットン、エディ・ジョブソンとUKを結成。『憂国の四士』(1978)を発表する。だが、よりメインストリームな音楽性を志向するジョンとアランが決裂。ビルはアランと行動を共にし、さらにジェフとデイヴを呼び戻して、ブルーフォード(バンド名義)としての『ワン・オブ・ア・カインド』(1979)をリリースした。このアルバムはアネットが不参加、ほぼ全編インストゥルメンタルになったことで、テクニカルかつスリリングなプレイの応酬を堪能することが出来る。
アランが脱退、ジョン・クラークを後任ギタリストに迎えてブルーフォードは『ザ・ブルーフォード・テープス』(1979) 、『グラデュアリー・ゴーイング・トルネード』(1980)を発表するが、ビルがキング・クリムゾンの再結成に加わったことで幕を下ろすことになった。
今回、日本盤リリースされる『フィールズ・グッド・トゥ・ミー』と『ワン・オブ・ア・カインド』は、2017年に海外で発売された6CD+2DVDボックス・セット『Seems Like A Lifetime Ago 1978-1980』に収録された両アルバムを単体リリースしたものだ。オリジナル・マスターからのリミックスを担当したのはキング・クリムゾンの一員であるジャッコ・ジャクジク。彼はキング・クリムゾンやエマーソン・レイク&パーマー、アナセマ、ムーディ・ブルースなどのリミックス/リマスターなども手がけており、今回もオリジナルを尊重しながら、新鮮なサウンドへと生まれ変わらせている。40年以上これらのアルバムを聴き続けてきたオールド・ファンもいるだろうが、このパートが前面に出たり、あのパートが引っ込んだり、印象が異なるのが面白い。
今回のリミックスで『フィールズ・グッド・トゥ・ミー』収録曲の多くが若干長くなっているのが嬉しいが、そのハイライトといえるのが「アイザー・エンド・オブ・オーガスト」だ。オリジナル盤で5分27秒と表示されているのが今回は6分6秒となっており、アランの唯一無二のギターが長く入っている。
一方『ワン・オブ・ア・カインド』の方は大きな変化は見つからなかった(さらに聴き込めば新しい発見があるかも?)。今回は「ファイヴG」の別テイクがボーナス収録されており、違いを楽しむことが出来るが、ギターが入っていないのが残念だ。
2005年の再発時に『ワン・オブ・ア・カインド』にボーナス収録されていた「マナクルズ(ライヴ)」はボックス『Seems Like A Lifetime Ago 1978-1980』では『ザ・ブルーフォード・テープス』の方に移されたので、今回の単体再発には収録されていない。
ちなみに今回の日本盤CDの帯には“2019年リミックス”とあるが、実際にはボックス『Seems Like A Lifetime Ago 1978-1980』と同様の2017年リミックスで、発売元“マーキー/ベル・アンティーク”レーベルの直営店“World Disque”店長のブログで訂正が出されている。
そのため、ボックスを既に押さえているファンにはさほど嬉しくないかも知れないが、2千セット限定のボックスは既に完売して久しいし、名盤と呼ばれる初期2作を容易に聴くことが出来るのは有り難い。なお2枚のアルバムは海外でも2019年、それぞれCD+DVDの2枚組フォーマットで発売されている。
2009年に引退宣言、ライヴとレコーディングから撤退したビルだが、近年では過去作品の再発(未発表音源の発掘を含む)などの作業で、相変わらず音楽に深く関わっている。彼はそんな状態を、イーグルス「ホテル・カリフォルニア」の歌詞にある「いつでもチェックアウトは出来るけど、去ることは出来ない」という一節に例えている。
1949年に生まれ、70歳を迎えたビルは自らのキャリアの整理を行っているようにも見える。だが、今回リリースされた2作で聴くことが出来るドラムスは、永遠の輝きを放つものだ。
『ビル・ブルーフォード:フィールズ・グッド・トゥ・ミー〜リミックスト・エディション』
発売元:マーキー/ベル・アンティーク
価格:3,143円(税抜)
詳細はこちら
『ブルーフォード:ワン・オブ・ア・カインド〜イクスパンディド&リミックスト・エディション』
発売元:マーキー/ベル・アンティーク
価格:3,143円(税抜)
詳細はこちら
山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に850以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
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文/ 山崎智之
tagged: ドラマー, 音楽ライターの眼, ビル・ブルーフォード
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