今月の音遊人
今月の音遊人:大石昌良さん「僕がアニソンと出会ったのは必然だったんだと思います」
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1960〜70年代のイタリア映画音楽は、時代を超えて世界中のファンを魅了してきた。
エンニオ・モリコーネやニーノ・ロータは巨匠の名をほしいままにしてきたし、ホラー映画のファンだったらゴブリンの音楽が頭に浮かぶだろう。アルマンド・トロヴァヨーリによる『黄金の七人』シリーズの音楽は1990年代、渋谷系の流行と共に再評価された。リズ・オルトラーニによる『世界残酷物語』のテーマ曲「モア」はアカデミー賞候補となったし、『続・荒野の用心棒』のテーマ「ジャンゴ」を書いたルイス・バカロフ、一連のジェス・フランコ映画でお馴染みのブルーノ・ニコライなどはコアなファン層を誇っている。
そんな豊潤なる映画音楽の調べを現代に受け継ぐのが“イタリアン・シネマチック・ファンク”バンド、カリブロ35だ。
“35口径弾”を意味するこのバンドは、プロデューサーのトマッソ・コリーヴァを中心に2007年、ミラノで結成された。これまでミューズ、フランツ・フェルディナンド、ジーザス&メリー・チェインなどのプロデュース/ミックスを手がけてきた彼の趣味が全開、ファンキーでサスペンスフル、そしてどこか懐かしいサウンドで魅せてくれる。
(ちなみに彼らのバンド名は1972年の映画『ミラノ・カリブロ9』から取ったものと言われている。クエンティン・タランティーノが「イタリア史上最高のノワール映画!」と絶賛したこの映画の音楽は、ルイス・バカロフとイタリアン・ロック・バンド、オザンナが共演したことでも有名だ)
2008年のデビュー・シングル「Tutta Donna」が好事家のハートを捉えて、いきなりラジオ・ヒット。アメリカではDr.ドレーやジェイ・Zが自らのトラックでサンプリングするなど、世界的な注目を集めている。日本でも第4作『すべての裏切り者へ (Traditori Di Tutti)』(2013)と第5作『宇宙大脱出! (S.P.A.C.E.)』(2015)が発売され、クラブ・ミュージックから映画音楽のファンまで、幅広い層から支持を得た。
ライヴ・アルバム『CLBR35 Live From S.P.A.C.E.』(2016)とデビュー10周年を記念した『Decade』(2018)は日本盤CDこそ発売されなかったが、本国イタリアをはじめ世界各地でヒット。そんな勢いに乗って発表されたニュー・アルバムが『モーメンタム』だ。
レトロでファンキーでダンサブルでシネマチックなサウンドは過去作と同様だが、本作では1990年代のクラブ・ミュージック的の要素を取り込んでいる。
「グローリー・フェイク・ネイション」ではダブのビート、「オートマータ」ではトリップホップ的なサウンド、「サンダーストームス・アンド・データ」ではドラムン・ベースに通じるビートなど、1990年代に“最先端”だったサウンドが今となっては懐かしい。かつて渋谷のレコード/CDショップ街に足しげく通っていた日本の音楽ファンが涙しそうな音を聴くことが出来るのが『モーメンタム』なのだ。
なお本作ではARPオデッセイ、フェンダー・ローズ、ウーリッツァー・エレクトリック・ピアノ、メロトロンなどのヴィンテージな楽器も使われており、オーガニックな音へのこだわりを感じさせる。
アルバム発売を記念してミラノで行われたライヴには3千人の観衆が集まるなど、本国イタリアではさらに人気がヒートアップ。現代に蘇ったポリツィオテスキ(刑事もの)映画サウンドトラックといえる本作は、2020年だからこそ新鮮な響きを伴っている。古いから新しい、音楽の“35口径弾”がハートを撃ち抜く。
『モーメンタム』
発売元:BSMF R Recods
発売日:2020年3月27日
料金:2,400円(税抜)
詳細はこちら
山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,000以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
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