今月の音遊人
今月の音遊人:宇崎竜童さん「ライブで演奏しているとき、もうひとりの宇崎竜童がとなりでダメ出しをするんです」
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一曲聞いて、ああ、なんていい声だろうと惚けた。胸をギュッとわしづかみする切なさと、フンワリ柔らかさをあわせ持つ声。日常という茫漠とした時間を見つめながら、決して到着しない旅をし続ける声。その持ち主は竹友あつき。神奈川県に住む十七歳だ。
中学を卒業した日に音楽プロデューサーに「頭の中に曲が沢山あるのですが、どうしたら良いのか分からずにいます」とツイッターで話しかけ、半年で七十曲を書いて送った。次々作品が生まれて形にできる、十七歳の怖いもの知らずのすばらしき才よ! 歌詞はごく普通の高校生が普通な故に感じる戸惑いが描かれ、自らギターを弾いてロックする。もう少し不完全な音で彩られていたら……なんて贅沢は言うまい、全七曲のデビュー盤『 17歳』だ。
その竹友が「背伸びしたりせず、ありのままの想いを歌にします」と話すのを読んだ。悪くはないけど、十七歳の背伸びも聴きたい。サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』の十六歳の主人公ホールデンは、「お金っていやだよね。どう転んでも結局、気が重くなっちまうだけなんだ」なんて風に始終大人びた台詞を吐き、読んで何度となくドキッとさせられた。そりゃ、これを発表した当時のサリンジャーは三十二歳だけど、背伸びする十代の言葉は年長者に刺激をくれる。
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竹友と同じ十七歳で、ニュージーランドのエキゾチックな美少女ロードは、〈ロイヤルズ〉という曲(アルバム『ピュア・ヒロイン』に収録)で「グレイグーズ(セレブ御用達シャンパン)もマイバッハ(超高級車)も、アンタたちが夢中になるものに興味ないわ」と、世界経済を牛耳る一パーセントの人間の狂騒を鼻で笑った。感覚がホールデン少年っぽい。しかも九週間全米ナンバーワンになったことも、『ライ麦畑~』が一九五一年出版時に熱狂的支持を受けたことに通じる。欧米では背伸びする十代の表現が愛されるのに、翻って今の日本では、大人は若さにこだわり成熟を拒み、子どもは不安定な社会の中で大人になるのを怖がっているように見える。竹友にはそれをヒョイと飛び越えてほしいなぁ。
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ところで、十代のアイドルこそ背伸びを通り越し、成熟した存在じゃないか? と常々思う。十代の自我を封じ込めて満面の笑顔を貫き、周囲を照らす。イギリスの十八~九歳の四人組バンド、ザ・ヴァンプスのデビュー・アルバム『ミート・ザ・ヴァンプス』の、鬱屈なんて入り込む隙のない歌声に改めてそう思った。サイモン&ガーファンクルの〈愛しのセシリア〉をサンプリングした曲の爽やかさには、ポール・サイモンもショック受けるだろう。自分には、こりゃできないわって。