今月の音遊人
今月の音遊人:マキタスポーツさん「オトネタ作りも、音楽に関わるようになったのも、佐野元春さんに出会ったことから始まっています」
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ドイツの正攻法のデュオで、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタの神髄を味わう
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2021.6.21
tagged: ベートーヴェン, フランク・ペーター・ツィンマーマン, マルティン・ヘルムヒェン, 音楽ライターの眼
ベートーヴェンの生誕250年のメモリアルイヤーに当たる2020年、ヴァイオリニストのフランク・ペーター・ツィンマーマンとピアニストのマルティン・ヘルムヒェンがベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ全曲録音の第2弾を録音した。
今回は第5番『春』、第6番、第7番の登場。ドイツを代表する実力派であるふたりのデュオは、虚飾を配した正攻法。ベートーヴェンのソナタの内奥にひたすら迫っていく圧倒的な説得力に満ちた演奏で、ツィンマーマンの柔軟性あふれる歌謡的な旋律のうたわせ方に、ヘルムヒェンの知的で内省的で繊細なニュアンスに富むピアノが自然に和していく。ここでは各曲の内容を紹介してみたい。
まず、CDは人気の高い第5番『春』で開幕する。『春』という副題は作曲者の命名ではないが、この作品のもっている明るく浮き立つような気分にふさわしい。その理由としては、当時ジュリエッタ・グイッチャルディという女性に恋をしていて、その気分が反映しているからだといわれている。
第1楽章は通常の気難し屋のベートーヴェンではなく、上機嫌で陽気な青年の健康的な顔が見えてくる。
第2楽章は主題が次々に転調されて気分を変えていく様子が春のうつろいを連想させる。
第3楽章は短く洒脱な楽章で、愛らしさとロマンをただよわせる。
第4楽章は3つの主題が組み合わされたロンド・フィナーレ。明るく幕を閉じる。
次いで第6番。作品30の3曲(第6番、第7番、第8番)のヴァイオリン・ソナタは、ロシア皇帝アレクサンドル1世に献呈された。この3曲のなかでは第6番がもっとも演奏される機会に恵まれず、ヴァイオリン・ソナタの全曲演奏会以外にはほとんど登場してこない。
しかし、第1楽章のリリカルで落ち着いた情緒をもつ第1主題、シンコペーションが特徴的な第2主題など、ベートーヴェンらしさが横溢している。特にピアノに華やかなフレーズが多用されているのが目立つ。
第2楽章の小さなロンドは、叙情的な旋律が両楽器によって奏でられ、第3楽章では、当初ベートーヴェンはタランテラを用いたフィナーレを構想していたが、それは『クロイツェル』ソナタの第3楽章へと移され、ここでは簡潔な主題と6つの変奏曲が書かれた。
ベートーヴェンのソナタのなかで、『クロイツェル』『春』に次いで人気の高い第7番は、作品30のなかでも傑出した作品となっている。「ハイリゲンシュタットの遺書」が書かれたのは1802年の秋であり、やがて「傑作の森」といわれる名作を生み出すことにつながっていく時期に作曲されている。
各楽章の主題は非常に明確で、親しみやすい。第1楽章はピアノの重々しい響きで始まる主題は緊迫感を備え、劇的な音楽を形作っていく。第2楽章はヴァイオリンの流麗な響きと、装飾性に彩られたピアノが闊達な動きを見せる。第3楽章は付点リズムがメヌエット風の舞踏を表現し、ヴァイオリンとピアノが快活な表情を織成していくスケルツォ楽章。第4楽章は再び緊張した響きが全編を覆い、ふたつの主題とふたつのエピソードが交錯しながらブレストのコーダへと突き進む。
こうした内容を踏まえ、ツィンマーマンとヘルムヒェンの濃密なデュオを堪能したい。
『ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ集Vol.2』
発売元:キングインターナショナル
発売日:2021年5月11日
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伊熊 よし子〔いくま・よしこ〕
音楽ジャーナリスト、音楽評論家。東京音楽大学卒業。レコード会社、ピアノ専門誌「ショパン」編集長を経て、フリーに。クラシック音楽をより幅広い人々に聴いてほしいとの考えから、音楽専門誌だけでなく、新聞、一般誌、情報誌、WEBなどにも記事を執筆。著書に「クラシック貴人変人」(エー・ジー出版)、「ヴェンゲーロフの奇跡 百年にひとりのヴァイオリニスト」(共同通信社)、「ショパンに愛されたピアニスト ダン・タイ・ソン物語」(ヤマハミュージックメディア)、「魂のチェリスト ミッシャ・マイスキー《わが真実》」(小学館)、「イラストオペラブック トゥーランドット」(ショパン)、「北欧の音の詩人 グリーグを愛す」(ショパン)など。2010年のショパン生誕200年を記念し、2月に「図説 ショパン」(河出書房新社)を出版。近著「伊熊よし子のおいしい音楽案内 パリに魅せられ、グラナダに酔う」(PHP新書 電子書籍有り)、「リトル・ピアニスト 牛田智大」(扶桑社)、「クラシックはおいしい アーティスト・レシピ」(芸術新聞社)、「たどりつく力 フジコ・ヘミング」(幻冬舎)。共著多数。
伊熊よし子の ークラシックはおいしいー