今月の音遊人
今月の音遊人:五嶋みどりさん「私にとって音楽とは、常に真摯に向き合うものです」
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軽快で愉快、そして感動!拍手喝采のクラシック音楽映画『オーケストラ!』
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2014.9.19
tagged: クラシック, 映画, チャイコフスキー, ヴァイオリン協奏曲, ブダペスト交響楽団, サラ・ネムタヌ, オーケストラ!, ロシア
ロシアのボリショイ劇場で清掃夫をしているアンドレイは、かつては天才指揮者として名を成した男だ。30年前、旧政府のユダヤ人排斥政策に従わなかったためにその座を追われ、以降はうらぶれた人生を送ってきた。
ある日彼は、パリのシャトレ座で楽団のキャンセルが出て、その穴埋めを探しているという情報を知り、かつての仲間を集めてボリショイ交響楽団になりすまし、音楽会への復帰を企む。
救急車の運転手、ポルノ映画の効果音制作、蚤の市業者など、さまざまな職業に就いていた元楽団員たちを訪ね、渡航の手配を進め、劇場側と嘘で固めた交渉をしていく展開は、大いに笑わせる。ロシアの人が観たら怒るんじゃないのと思うほど、「酒好き」「貪欲」といったイメージが、これでもかとデフォルメされているのだ。
パリに着いた飛行機から、ウォッカの空き瓶を抱えた楽団員たちが、真っ赤な顔でロシア民謡を大合唱しながら降りてくるシーンは腰が砕けた。お楽しみを奪ってはいけないのでこれ以上は書かないが、そうした遊びがあちこちに散りばめられているので、ちょっとした会話も聞き逃さないでほしい。
とはいえ、この映画は単なるコメディではない。笑いの裏で、もうひとつのずしりとしたストーリーが密やかに進んでいて、圧巻のラストシーンで結実する。
そこで響き渡るのが、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲だ。シャトレ座の全面協力で撮影されたこのシーンの演奏は、ブダペスト交響楽団、ヴァイオリンのソリストはフランス国立管弦楽団のコンサートミストレス サラ・ネムタヌが担当している。
本国フランスでは、マイケル・ジャクソンの『THIS IS IT』を抑えてオープニング興行収入ナンバーワンを獲得し、この作品の上映後、チャイコフスキーのCDが異例のヒットを記録した事実からも、どれだけの人に受け入れられたかがうかがえるだろう。
クラシック音楽をテーマにした映画は、重厚に創られたものが多いが、『オーケストラ!』は、軽快で愉快。それでいて、ラストでは大きな感動を味わえ、音楽も本式なものを堪能できるおすすめの一本だ。
『オーケストラ!』
監督:ラデュ・ミヘイレアニュ
出演:アレクセイ・グシュコブ、メラニー・ロラン、フランソワ・ベルレアン、ドミトリー・ナザロフ、ミュウ=ミュウ
2009年 フランス作品