今月の音遊人
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メトロポリタン歌劇場の130年のドラマを詳細に描き出した著作が登場
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2019.6.5
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「METライブビューイング」で日本のファンにもすっかりおなじみとなったニューヨークのメトロポリタン歌劇場は、長い歴史と伝統を誇る世界最高峰のオペラハウスのひとつ。
ニューヨークを訪れるクラシック・ファンの多くが憧憬と敬愛の念をもってここを訪れ、その華麗で美しい外観と内装に心を動かされ、オペラの演目、出演者、キャスト、スタッフが一丸となって作り上げる上質な舞台に深い感銘を受ける。
このオペラハウスは「MET」という愛称で親しまれ、毎シーズンの新演出を含む演目、指揮者、歌手などに世界中が注目。常に話題を提供している。
そんなメトロポリタン歌劇場のオペラを長年にわたって聴き続け、歌劇場の変遷を身近に感じ、アメリカ社会と政治、それらを囲む激動の世界を眺め続けてきたのが、ニューヨーク大学名誉教授のチャールズ・M・アフロン(1935年生まれ)とニューヨーク市立大学名誉教授のミレッラ・J・アフロンのご夫妻である。ふたりが著した『メトロポリタン歌劇場――歴史と政治がつくるグランドオペラ』(みすず書房)は、500ページを超す大作で、訳者は東京女子大学名誉教授の佐藤宏子氏である。
内容は、第1章「桟敷の問題」、第2章「文化の中心地」、第3章「オペラ戦争」、第4章「現代性」、第5章「苦難の時代」、第6章「戦争の重圧」、第7章「ビジネスとしてのオペラ」、第8章「過渡期」、第9章「絶対的なマエストロ」、第10章「支援とペレストロイカ」、第11章「新しいメディアの時代」と題された11章で構成されている。
オペラハウスの経営陣、指揮者や歌手をはじめとするキャスト、オーケストラ、芸術監督、さまざまなスタッフ、そして聴衆が織りなすオペラハウスの130年のドラマがここには凝縮している。
オペラは、その時代における社会や政治、人々の考えや意識、必要性や可能性などを模索しながら歩みを続けてきた総合芸術である。著者はあらゆる角度からそれらを分析・研究・考察し、現代社会のなかでオペラという芸術がいかにあるべきか、どのような役割を果たせるのか、真の芸術が人々にもたらすものとは何か、と膨大な資料をもとに多角的な面において文を綴り、読者に語りかけ、問題提議を行い、読者にともにこの問題について考えるよう促している。
この本を読んでからメトロポリタン歌劇場に足を運ぶと、おそらくこれまで感じてきたオペラとはひと味異なる歴史と伝統に思いを馳せ、よりオペラが深く楽しめるに違いない。
伊熊 よし子〔いくま・よしこ〕
音楽ジャーナリスト、音楽評論家。東京音楽大学卒業。レコード会社、ピアノ専門誌「ショパン」編集長を経て、フリーに。クラシック音楽をより幅広い人々に聴いてほしいとの考えから、音楽専門誌だけでなく、新聞、一般誌、情報誌、WEBなどにも記事を執筆。著書に「クラシック貴人変人」(エー・ジー出版)、「ヴェンゲーロフの奇跡 百年にひとりのヴァイオリニスト」(共同通信社)、「ショパンに愛されたピアニスト ダン・タイ・ソン物語」(ヤマハミュージックメディア)、「魂のチェリスト ミッシャ・マイスキー《わが真実》」(小学館)、「イラストオペラブック トゥーランドット」(ショパン)、「北欧の音の詩人 グリーグを愛す」(ショパン)など。2010年のショパン生誕200年を記念し、2月に「図説 ショパン」(河出書房新社)を出版。近著「伊熊よし子のおいしい音楽案内 パリに魅せられ、グラナダに酔う」(PHP新書 電子書籍有り)、「リトル・ピアニスト 牛田智大」(扶桑社)、「クラシックはおいしい アーティスト・レシピ」(芸術新聞社)、「たどりつく力 フジコ・ヘミング」(幻冬舎)。共著多数。
伊熊よし子の ークラシックはおいしいー