今月の音遊人
今月の音遊人:亀田誠治さん「音楽は『人と人をつなぐ魔法』。いまこそ、その力が発揮されるべきだと思います」
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新作『プリマ・デル・トラモント』が各種ジャズ・チャートの1位に輝くなど、日本でのデビューから18年を経た現在、シーンに確固たる地位を築いた感のある山中千尋。
2005年のメジャー・デビューを記念したコンヴェンションで“噂の速弾き”を目撃して以来、圧倒的な疾走感によって生み出される異次元的な浮遊感をもたらす希有な才能に注目し続けてきた、というのがボクの彼女に対する“距離感”だったりする。
“圧倒的な疾走感”をもたらす要因として、彼女の出自である「桐朋女子高等学校音楽科ピアノ科を経て桐朋学園大学音楽学部(ピアノ専攻)を卒業」が大きく関係しているのではないかと感じながらも、そう指摘すると“ジャズ・ピアニスト”として邁進する彼女のイメージがブレるので、あえて目をつぶるようにしていた自分がいたかもしれない。
ところが、当の本人が2013年にリリースした『モルト・カンタービレ』でクラシック曲をジャズに料理してしまうということを始めてしまったものだから、つぶった目も開かないわけにはいかないというもんだ。
とはいえ、彼女のアルバム制作は1作ごとにテーマの独立性が強く、当時は一過性であることも否めないと静観──いや、正直に言えば見逃してしまっていたのだが、2018年リリースの『ユートピア』で再びクラシック曲というテーマに挑んだことで、山中千尋がクラシック曲をカヴァーとしてではなく、本気でジャズの俎上(そじょう)に載せてしまおうと考えていることが“見えてきた”というわけ。
振り返れば、山中千尋は『モルト・カンタービレ』の1曲目にカプースチン作「前奏曲作品40の1(8つの演奏会用エチュードから)」を据えている。それはボクがあえてこの一連の原稿でカプースチンを取り上げるのを「いまごろ?」と見透かしていたようなものなんだけど、言い訳をすれば、その「前奏曲作品40の1」の出来があまりにも“ジャズだった”もので、興味がカプースチンに向かなかったのだ(たぶん)。
しかし、『ユートピア』の2曲目、「乙女の祈り」を耳にしたとき、そこには明らかに「前奏曲作品40の1」の影が感じられ、彼女が確信的にカプースチン的なアプローチを用いながらクラシック曲をジャズへと“転化”させようとしていることに気付かされた。
「乙女の祈り」をカプースチン的なアプローチで弾くというアイデアの組み合わせを考えた場合、そのなかに“ジャズ”という意識はかなり薄いのではないかという意見があってももっともだろう。
だからこそ、そのアンバランスさを作品の域にまで高めてしまった彼女の手腕に、また注目せざるをえなくなってしまうのだ。
富澤えいち〔とみざわ・えいち〕
ジャズ評論家。1960年東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる生活を続ける。2004年に著書『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)を上梓。カルチャーセンターのジャズ講座やCSラジオのパーソナリティーを担当するほか、テレビやラジオへの出演など活字以外にも活動の場を広げる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。『井上陽水FILE FROM 1969』(TOKYO FM出版)収録の2003年のインタビュー記事のように取材対象の間口も広い。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。
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