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ブラームス国際コンクール、日本人初優勝のバイオリニスト中村太地が3大Bに挑む

ブラームスが避暑地としてこよなく愛し、交響曲第2番、ヴァイオリン協奏曲、ヴァイオリン・ソナタ第1番「雨の歌」などを作曲したオーストリアのヴェルター湖畔の街ペルチャッハ。マーラーも作曲小屋を構えたこの風光明媚な街で、毎年9月上旬に開催されるのがヨハネス・ブラームス国際コンクールである。そのヴァイオリン部門で、2017年に優勝の栄冠に輝いたのが中村太地だ。

「実は、2015年にはじめてこのコンクールを受け、そのときは第3位でした。僕はブラームスが大好きで、ウィーンに留学しているわけですから、ぜひこのコンクールを受けたいと思ったのです。はじめてペルチャッハを訪れたときは、まさにブラームスの見た景色を自分も眺めることができ、感慨深かったですね」

中村太地はこれまで国内外の著名なヴァイオリニストに師事し、国際コンクールでも上位入賞を遂げ、2009年からはウィーン国立音楽大学で名教授として知られるミヒャエル・フリッシェンシュラーガーに師事している。

「いまは先生から借りた楽器、1828年製J.B.ヴィオーム(フランス)を使用しています。これはサイズが大きめで、明るくはっきりした音が特徴です。7年前にはじめて弾いたときは、かなり大きいためちょっととまどいましたが、いまは慣れて自分の音が出せるようになりました。コンクールもこの楽器で受けています」

ブラームス国際コンクールは、第1次予選と第2次予選が教会で行われ、本選だけホールに移る。

「課題曲に関してはブラームスの作品以外も含まれ、J.S.バッハ、パガニーニ、シューマンなどが入っています。2015年の本選ではブラームスのヴァイオリン協奏曲を弾きましたが、2017年はチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を選びました。このときはウクライナのオーケストラとの共演でしたが、とてもいいオーケストラでのびのびと演奏できました」

現在師事しているフリッシェンシュラーガーのレッスンは基本に忠実で、音階のレッスンも多いという。先生はユーディ・メニューインに教えを受けている。

「ですから、メニューインのレッスンを踏襲している面もあります。僕は以前からメニューインのビデオを見ていたため、こうした基本に忠実なレッスン方法は理解しているつもりです。先生はビブラートのかけ方、イントネーションのもっていき方、リズム感など、非常にこまかく指導してくれます。当初はイントネーションがどうしてもアジア人特有の方法になってしまい、それは語学が関係しているといわれ、ドイツ語を一生懸命学びました」

そんな中村太地が、J.S.バッハのヴァイオリンとハープシコードのためのソナタ第4番ハ短調BWV1017、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第9番「クロイツェル」、ブラームスのヴァイオリン・ソナタ第1番「雨の歌」という3大Bプロジェクトと題したリサイタルを行う。共演は、世界中のヴァイオリニストとの共演が多く、ヴァイオリニストを知り尽くしているピアニストの江口玲である。

「江口さんは僕の憧れであり、尊敬するピアニスト。ギル・シャハムとの演奏を何度も聴いています。共演が本当に楽しみです」

憧れといえば、長年憧憬の念を抱いていたヴァイオリニスト、オーギュスタン・デュメイにもベルギーのエリザベート王妃音楽大学で師事することができた。

「僕は30歳までは勉強を続けたいと思い、デュメイに”弟子にしてください”と直談判したんです。知人のトーンマイスターにもう少し学んで”ワンエッセンスをもらいなさい”といわれたことばが心に残っていたからです。それで試験を受けて入学し、デュメイのもとでさらなる勉強を続けています」

子どものころから野球やサッカーが好きで、高校時代はバドミントンの部活をしていたこともある。その体幹を鍛えた身体を生かし、リサイタルではのびやかで力強い演奏を披露する。すでにデビュー録音もリリースし、そこではブラームスのヴァイオリン・ソナタ全3曲を江口玲と共演。みずみずしく説得力のあるデュオを聴かせている。若鮎のような、清流をぐんぐんと泳ぎ切る若き俊英に期待したい。

■中村太地 ヴァイオリン・リサイタル

2019年9月23日(月・祝)福岡県・北九州市立響ホール
2019年9月29日(日)東京・サントリーホール 大ホール
2019年10月5日(土)大阪・ザ・シンフォニーホール
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■アルバムインフォメーション

『ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ集(全曲)』

アーティスト:中村太地(バイオリン)/江口玲(ピアノ)
発売元:ビクターエンタテインメント
発売日:2019年7月3日
詳細はこちら

伊熊 よし子〔いくま・よしこ〕
音楽ジャーナリスト、音楽評論家。東京音楽大学卒業。レコード会社、ピアノ専門誌「ショパン」編集長を経て、フリーに。クラシック音楽をより幅広い人々に聴いてほしいとの考えから、音楽専門誌だけでなく、新聞、一般誌、情報誌、WEBなどにも記事を執筆。著書に「クラシック貴人変人」(エー・ジー出版)、「ヴェンゲーロフの奇跡 百年にひとりのヴァイオリニスト」(共同通信社)、「ショパンに愛されたピアニスト ダン・タイ・ソン物語」(ヤマハミュージックメディア)、「魂のチェリスト ミッシャ・マイスキー《わが真実》」(小学館)、「イラストオペラブック トゥーランドット」(ショパン)、「北欧の音の詩人 グリーグを愛す」(ショパン)など。2010年のショパン生誕200年を記念し、2月に「図説 ショパン」(河出書房新社)を出版。近著「伊熊よし子のおいしい音楽案内 パリに魅せられ、グラナダに酔う」(PHP新書 電子書籍有り)、「リトル・ピアニスト 牛田智大」(扶桑社)、「クラシックはおいしい アーティスト・レシピ」(芸術新聞社)、「たどりつく力 フジコ・ヘミング」(幻冬舎)。共著多数。
伊熊よし子の ークラシックはおいしいー

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