今月の音遊人
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グランドピアノを思わせるはなやかな音色が再現できるハイブリッドピアノ『AvantGrand(アバングランド)』は、さまざまな可能性を秘めている
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2019.9.19
tagged: アバングランド, AvantGrand
あらゆる環境の人に最上のピアノ体験を提供するために、ヤマハの培った技術を結集させて作り上げたというハイブリッドピアノAvantGrand(アバングランド)。グランドピアノのアクションによる鍵盤のタッチや、ペダルのフィーリング、また楽器の共鳴など、さまざまな面でグランドピアノを弾いているような感覚をもたらすように創意工夫がなされている。
2019年、アバングランドのシリーズ発売10周年を記念して、ピアニストの岩崎洵奈によるコンサートが全国で開催。8月31日にはヤマハ銀座コンサートサロンで開催され、究極のアバングランドといわれる『N3X』によるコンサートが行われた。
プログラムはショパンの「黒鍵のエチュード」「幻想即興曲」「バラード第1番」、ツェルニーの「ウィーンのシューベルトのテーマによる華麗なる変奏曲」、ドビュッシーの「アラベスク」、モーツァルトの「ピアノ・ソナタ第13番第1楽章」、リストの「愛の夢」、バラキレフの「イスラメイ」という非常にバラエティに富んだもの。ヤマハのフルコンサートグランドピアノ『CFX』をサンプリングしたという音色から始まり、途中でベーゼンドルファー『インペリアル』の音色に変換され、ウィンナトーンも楽しめるという楽器の特性が生かされ、異なった響きでさまざまな作品を聴くことができた。
岩崎洵奈は、ウィーン在住のピアニスト。演奏の合間には楽器の特性や作品に関してのトークを交えながら、CFXの華やかで表情豊かな響きをじっくりとうたわせ、楽器を自由自在に奏でていく。「とても打鍵が自然で弾きやすい。信頼できます」と語っていたが、まさに自分の楽器のように親密感を抱きながら演奏している姿が印象的だった。
アバングランドはタッチも音の立ち上がりも、実にナチュラル。音はのびやかで、ゆったりとうたうよう。繊細さやダイナミクスもごく自然に表現され、弱音も印象に残った。こうした楽器の場合、強音は得意だが、弱音はちょっと苦手という場合が多いが、アバングランドの弱音はしなやかでやわらかい。
これはピアノが弾ける人なら、ぜひ実際に弾いてみたいと思うのではないだろうか。私も、できることなら鍵盤に触ってみたいなと思いながら聴いていた。
自宅ではヘッドホンを使用すれば深夜でも気兼ねなく演奏でき、場所もそんなに広さを必要としない。アコースティックピアノと電子楽器の両方の技術が搭載されているわけだから、可能性は無限である。
岩崎洵奈は、アンコールにシューマンの「献呈」を演奏した。これは私が大好きな曲である。ショパンの「ノクターン第20番」や「小犬のワルツ」も演奏。でも、私の心の奥には、「献呈」のゆったりとした美しい主題がいつまでも残っていた。アバングランドで聴く「献呈」――豊かな歌心に満ちた演奏だった。
伊熊 よし子〔いくま・よしこ〕
音楽ジャーナリスト、音楽評論家。東京音楽大学卒業。レコード会社、ピアノ専門誌「ショパン」編集長を経て、フリーに。クラシック音楽をより幅広い人々に聴いてほしいとの考えから、音楽専門誌だけでなく、新聞、一般誌、情報誌、WEBなどにも記事を執筆。著書に「クラシック貴人変人」(エー・ジー出版)、「ヴェンゲーロフの奇跡 百年にひとりのヴァイオリニスト」(共同通信社)、「ショパンに愛されたピアニスト ダン・タイ・ソン物語」(ヤマハミュージックメディア)、「魂のチェリスト ミッシャ・マイスキー《わが真実》」(小学館)、「イラストオペラブック トゥーランドット」(ショパン)、「北欧の音の詩人 グリーグを愛す」(ショパン)など。2010年のショパン生誕200年を記念し、2月に「図説 ショパン」(河出書房新社)を出版。近著「伊熊よし子のおいしい音楽案内 パリに魅せられ、グラナダに酔う」(PHP新書 電子書籍有り)、「リトル・ピアニスト 牛田智大」(扶桑社)、「クラシックはおいしい アーティスト・レシピ」(芸術新聞社)、「たどりつく力 フジコ・ヘミング」(幻冬舎)。共著多数。
伊熊よし子の ークラシックはおいしいー