Web音遊人(みゅーじん)

「ループパフォーマンス」でエレクトリックバイオリンの可能性を拓く/北床宗太郎インタビュー

エレクトリックバイオリンを使った「ソロループパフォーマンス」をご存じだろうか? 自分で弾いた音をリアルタイムで録音し、それをループ再生しながら、さらに新しい音を重ねていくという新しい演奏スタイルで、バイオリニストがたった一人でバンドやオーケストラのようなサウンドを作り出すことができる。この「一人でできる」という特性をフルに活かし、精力的に活動を展開するのが、ジャズバイオリニストの北床宗太郎。演奏や録音から配信に至るまで、すべての工程を一人で行い、5か月で2枚のアルバムを制作した。

自分と対話しながら作った2枚のアルバム

「ギターなどいろいろな楽器の人たちがループエフェクターという機材を使って演奏しているのを見て、バイオリンでもできるのでは? と思ってはじめたのがきっかけです。本格的にライブでソロループパフォーマンスを行うようになったのは3~4年ほど前からですね」

レコーディングにおける多重録音とは違い、リアルタイムで演奏しながら複数のトラックを重ねていくパフォーマンスだけに、ライブで聴く醍醐味は格別だろう。
「まず、ベースとなるバッキングトラックを録音するのですが、その日の気分や雰囲気によって、まったく同じテンポやリズムにはならないわけです。すると、その録音の上に乗せていくメロディやアドリブも当然変わってきます。弾き進めるうちに“あ、やっぱり速かったな”と思ったり。そうやって自分の演奏からインスピレーションを得て、自分と対話しながらインタープレイをしていくような感覚です」

しかし、ライブ活動もコロナ禍によってすべて中止に。北床は気落ちする間もなく自宅でアルバムの制作にとりかかる。
「自粛期間中も自分の中でのモチベーションを保つために、1日1~2曲のペースでオリジナル曲を作り、それを演奏・録音して、ミックス・マスタリングまで一人でやってみました。音質に関しては、勉強すればするほど反省点も出てきますが、やはり“0から1”にする作業がいちばん大変で、それを自分だけの力でできたという達成感はあります」

一人だけどバンドのようなライブ感

自主制作アルバムとして配信リリースされたアルバムは『Electric Violin Looping』と『Jazz Violin From Tiny Room』の2枚。ソロループパフォーマンスによる曲のみを集めた前者は、いつの間にか色合いを変えている夕暮れどきの空のように、自然な音の移ろいが心地いい。

「ずっと同じトラックがループする上で、メロディやアドリブを展開していくシンプルな曲もありますし、足し算や引き算をするように、トラックを入れたり消したりしながら作った曲もあります。たとえば『Change of color』という曲では、いろいろな調のトラックを組み合わせて、グラデーションのように変化していく音楽にしました」

一方の『Jazz Violin From Tiny Room』は、スムースジャズやブルース、ボサノヴァなど、バラエティに富んだアルバム。ドラムやベースなども入り、バンドらしいグルーヴのあるサウンドになっているが、これもすべて一人で録音したというから驚きだ。

「ドラムやベースは実際に演奏しているのではなく、コンピュータのソフトにプログラミングされている音源を使っています。『Bad guys blues』という曲では、生音のバンドの暑苦しさまで感じられるような(笑)。この自粛期間だからできるブルースということで作りました。とにかく毎日がトライ&エラーの繰り返しです」

バイオリンをこうした打ち込みのリズムに合わせて演奏するのは難しいと思われがちだが、講師としての経験も豊富な北床によると、それも練習次第で克服できるという。
「メトロノームを使って練習するとよいかもしれません。僕はメトロノームの機械的なリズムが音楽的に聞こえるよう意識しながら練習しています。要は、メトロノームの刻みに対して、自分がどういうタイミングで音を発するか、どういうニュアンスで演奏するかを考えながらアプローチしていく。そうすると、打ち込みのバッキングトラックを使って演奏したときも、人間とセッションしているようなライブ感が出せるようになると思います」

エレクトリックバイオリンの可能性

『Electric Violin Looping』に関しては、すべてエレクトリックバイオリンを使って録音されたという点にも注目したい。リズムを刻むピッツィカートの丸く柔らかい音から、メロディを奏でるブリリアントな音、ときにはエレキギターのようなソリッドな音まで、じつにさまざまな表情を見せてくれる。

「録音では、ヤマハのYEV105という5弦のエレクトリックバイオリンを使いました。5弦はビオラの音域まで出せるので、ソロループパフォーマンスにとっては大事な要素だと思います。音色はエフェクターを使って、演奏しながら足で操作して変えています。一方で、アコースティックバイオリンのような自然な音を出すときは、重心が安定していて自然に構えられるので、僕自身もエレクトリックであることを忘れるぐらい心地よく弾いています。YEV105は、“あり得ない”としか言いようのないお手頃な価格の、素晴らしいモデルではないでしょうか」

北床の活動とともに、エレクトリックバイオリンのあらゆる可能性が拓かれていきそうだ。

■インフォメーション

『Jazz Violin From Tiny Room』(配信限定)

配信開始日:2020年6月13日
価格:各サイトによって価格は異なります
詳細はこちら

『Electric Violin Looping』(配信限定)

配信開始日:2020年8月14日
価格:各サイトによって価格は異なります

オフィシャルサイトはこちら

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