アーティストの音楽観を映像で表現するミュージックビデオを作る/映像作家の仕事

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仁宮裕さん
オトノ仕事人
アーティストの音楽観を映像で表現するミュージックビデオを作る/映像作家の仕事

テレビの音楽番組での放映をはじめ、レコード・CD店でも流されているミュージックビデオ(以下、MV)。動画サイトでも公開され、再生回数が話題になることも度々だ。それだけに、臨場感あふれるライブ映像からストーリー仕立ての作品まで、アーティストの音楽観を表現するさまざまな演出がなされている。MVはどのように制作されているのか、映像作家の仁宮裕(にみや・ゆう)さんにお話を伺った。

仁宮さんは監督として作品の構成から撮影、編集まで、制作全般を担うほか、カメラマンとしても活躍している。ギタリスト木村大とピアニスト榊原大とのデュオ、女性シンガーASCA、ピアニスト大林武司などのMVに携わっている。
「MVの目的は音楽のプロモーションであり、大切なのは最初から最後まで聴いてもらうこと。そのためには音と映像を合わせるほうが、より音楽を集中して聴けるのではと思います。さらに音楽の気持ちいい部分を映像でじゃましないように心がけています」
木村大と榊原大のデュオ作品『Tango En Skai(タンゴ・アン・スカイ)』では、音に合わせて画面が分割されたり、切り替わったりしてゆく。タンゴのリズムに映像も合わせているのだ。また別の作品『Asturias(アストゥリアス)』では、演奏シーンの合間に都市の風景が挟み込まれている。数秒のカットが入ることで、緊張感の保たれた映像となっている。
「Asturiasのテーマは『現代に響いているクラシック』で、若い人たちが見てもカッコイイと思える映像、クールな感じにしたいというリクエストでした。工事中のクレーンや信号の点滅などの映像で、現代感を表現できたのではとは思います」


木村大×榊原大『Tango En Skai』MV
 

木村大×榊原大『Asturias』MV

 

MVの制作は、ミュージシャンやレコード会社の担当者との打ち合わせから始まる。どんな映像にしたいのか要望をヒアリングし、おおよその構成を考える。そして、スタッフ集めや撮影場所の選定などを行い、撮影に入る。このとき、映像の撮影でよく見られる、撮影シーンのイメージを描いた絵コンテを一切使わないのが、仁宮流の作り方だ。
「絵コンテ通りに撮影しようとすると、どうしても途中で演奏を止めることになってしまう。僕はできる限り、演奏を止めたくないんです。これは僕の考えですが、なるべく演奏を止めずに撮影したほうが、ミュージシャンも1曲を通してテンションを保てるのではないかなと。ライブと同じような感覚で演奏してもらえるのが理想ですね」
たとえばトリオなら、3人全員の演奏を5回ほど、それとは別にそれぞれのソロパートを2回ほど演奏してもらう。それを3、4台のカメラで撮影する。
「カメラの配置はある程度指示を出しますが、自分で考えて撮ったほうがいいものを撮ってくれる人もいて、お任せすることも。それに、ただ指示されるだけだと撮るほうも飽きちゃいますしね。もちろん、必要なカットはちゃんと押さえてもらいます」
アーティストも撮影スタッフも楽しんで作ってこそ、人を楽しませる作品ができ上がるということなのだろう。「音楽が好きな人と一緒に仕事したいので、スタッフも音楽が好きな人にお願いしています」という話からも、楽しそうな現場の雰囲気がうかがえる。
撮影後の編集も、基本的には自分で担う。数台のカメラで撮った映像をすべてパソコンの編集ソフトに取り込んで、どのカットを使うかを精査する。
「あっ、こんな表情していたんだとか、この手はカッコイイとか、意外な映像が撮れていたりする。それを盛り込んでいけるのが、絵コンテなしで作る醍醐味ですね。編集はとても大変なんですけど(笑)」

現在、撮影には一眼レフカメラを用いている。「僕が使っているのは、ビデオ撮影に力を入れている機種。これで4K映像も撮れるんですよ」(仁宮さん)

仁宮さんがMVを作るようになったのは、友人のラッパーにビデオ作りを頼まれたことから。友人から友人へ、さらにレコード会社の担当者へと話がつながり、現在に至る。「専門学校や制作会社で学んだわけではないんですよ」と謙遜するが、実は10年にわたって映写技師のアルバイトを務め、膨大な映画に触れてきたという蓄積がある。さらに、「バイト帰りに風景を撮って、取り込んだ映像を自分で加工したりして遊んでいた」という“訓練”をコツコツ重ねていた。だからこそ、アーティストのリクエストに応えるアイデアを出し、信頼される映像作りができるのだろう。
あるミュージシャンは、仁宮さんが作ったMVがきっかけで早弾きのピアニストだと印象づけられ、ライブでもピアノソロが見せ場になっているという。映像の力で本人も気が付いていなかった魅力を引き出すことができた。制作者冥利に尽きるエピソードだ。
それでも、信条は変わらない。
「音楽あってのミュージックビデオ。音楽が1番、映像が2番と思って、作っています」

1本のMVを作るのに要する期間は、短くても1、2か月ほど。インサート映像は、趣味の散歩をしながら撮り溜めることも。普段から光の具合や景色など、「撮ったら良さそう」という場所をチェックしている。

Q.今の仕事に就いていなかったらどんな仕事を?
A.大学では生命科学を学んでいて、3年生までは大学院に行こうと思っていたので、その方面に進んでいたかもしれません。でも、研究室で使う部屋の中がマイナス3℃とあまりに過酷で、「この環境で生きていくのはムリ」と諦めました。科学の研究は楽しかったのですが、このまま職業として続けた場合、いい人生で終われるかなと疑問にも思っていました。それから、何をやりたいか考えて、映画が好きだったことから、まずは勉強しようと上京して映画作りのワークショップに参加しました。そこでは技術というよりは、映像制作の流れを学びました。

Q.どんな映画が好きですか?
A.ダーレン・アロノフスキーという監督の作品が好きです。近年ですと、『ブラック・スワン』を撮った監督です。天才があまりに天才であるがゆえに、没落してしまうというストーリーが多いですね。最初に観たのは『π(パイ)』という映画で、音楽と映像の合わさり方がとても好きでした。意識したことはありませんが、僕のMV作りのバックボーンにあるかも知れません。一番好きなのは、同じ監督の『レスラー』かな。プロレスラーの映画です。プロレスって普段はリングの外から映像を撮っていますが、映画のレスリングのシーンはカメラもリングの中に入っているんです。ストーリーはもちろん、普段見られない角度のシーンが観られるのもおもしろかったですね。

Q.プライベートでよく聴く音楽は?
A.今は、そのとき仕事をしているアーティストの曲になりますね。たぶん、そのアーティスト本人よりも、聴いているんじゃないかと思います(笑)。

Q.ライブに行くことはありますか?
A.あー、これも仕事絡みになってしまいますね。自分でお金を払ったライブって、今の仕事を始める前が最後だったと思います。でも、東京に来たばかりの頃はお金がないからライブなんてほとんど行けなかったですね。今は音楽の流れているところに行くと、カメラを持っていないと落ち着かないんです。趣味で行くと、きっと手持ちぶさたになっちゃうと思います。

Q.休日の過ごし方は?
A.フリーランスなので、ハッキリした休みはあまりないんです。空いている時間は散歩に出かけますね。これもカメラを持って出るんですけど(笑)。時間があるときは、電車でちょっと遠くまでいって、その街を散歩しています。歩くのが好きなんです。あと、最近は銭湯も好きですね。家の近くにはまだ結構銭湯があるので、よく行っています。

 

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文/ 佐藤雅子
photo/ 坂本ようこ