Web音遊人(みゅーじん)

ユニフォームが新作『SHAME(シェイム)』を発表。ノイズ・ロックの破壊衝動の向かう先へ

新型コロナウイルスの蔓延は、エンタテインメント業界に大打撃を与えた。特に音楽ビジネスの被害は甚大なもので、コンサート/ライヴやフェスティバルの開催が2019年以前の状態に戻るにはまだ時間を要しそうだ。

ただ、あらゆる規模のアーティストが同等にライヴ活動を行うことが出来ず、すべてがリセットされてスタート地点に横並びになったことで、アンダーグラウンドなアーティストが一気にトップに躍り出る可能性も出てきた。

そんな状況下で大注目を集めているのがニューヨーク出身のノイズ・ロック・バンド、ユニフォームである。

2013年、ベン・グリーンバーグ(ギター/ハブル、ザ・メン、ピグミー・シュルーズ)とマイケル・バーダン(ヴォーカル/ヨーク・ファクトリー・コンプレイント、ドランクドライヴァー、ビリーヴァー/ロウ)のデュオとして結成されたこのバンドは、ヘヴィでラウドなギターと怒りを叩きつけたヴォーカル、無慈悲なエレクトロニック・ノイズを凝縮させた、カオスが渦巻くエクストリームな音楽性で人気を博してきた。ゾラ・ジーザス、ザウ、ファーマコンなどクセのあるアーティスト達を擁する“セイクリッド・ボーンズ・レコーズ”と契約した彼らは、レーベルの看板アーティストの一組となる。

同じくエクスペリメンタルなヘヴィ・サウンドで知られるザ・ボディとのコラボレーション作品を発表、デフへヴンや日本のBorisともツアーを行い、カナダ出身のメッツ(METZ)の新作『アトラス・ヴェンディング』をベンが共同プロデュース。またTV番組『ツイン・ピークス』新シリーズでも彼らの曲「Habit」が使われるなど、各方面から注目されてきた。

元々ライヴのサポート・メンバーだったマイク・シャープ(ドラムス)は現在は正規メンバーであり、バンド写真にも収まっている。

4作目のフルレンス・アルバムとなる『SHAME(シェイム)』はバンドにとって最も精神的にも肉体的にも暴力的な作品だ。一種のパラドックスだが、本作はあまりにダークでヘヴィ、妥協のないアルバムであるがゆえに、バンドをオーヴァーグラウンドに押し上げるポテンシャルを持っている。

アルバム発売前に先行公開された「デルコ(Delco)」のタイトルはマイケル・バーダンが育ったペンシルヴァニア州のデラウェア郡を指している。少年時代にいじめを受け、いじめっ子の顔色を窺いながら気に入られようとした屈辱的な心情の片鱗が、今もなお自分の心の片隅にある。そんなジレンマを描いたこの曲から始まるアルバムは、2020年で最もロック・リスナーの心をえぐる作品のひとつだ。

その一方で、『SHAME』はひたすら密度の濃い音の塊が襲い、聴く者から考える余裕を奪う作品でもある。苦悩も愁嘆場も自己憐憫もない、救いの境地に我々をいざなってくれるのも、このアルバムなのだ。

興味深いのは、マイケルが本作を作っているとき、レイモンド・チャンドラーやジェイムズ・エルロイ、ダシール・ハメットらのハードボイルド小説を読み耽っていたことだ。本作の歌詞の多くはサム・スペイドやフィリップ・マーロウの独白から共鳴を受けたものだと、彼は語る。

本作の世界観は、アンチ・ヒーローの視点から描かれたものだ。守るべき民衆も、倒すべき敵もいない。大義のない、行き場のない鬱屈したアンチ・ヒーローが向かう先が、『SHAME』の破壊衝動だ。

まだ日本でそのライヴを披露するに至っていないユニフォームだが、そのステージを目の当たりにしたBorisのAtsuo氏に、コメントを寄せてもらった。

「昨年(2019年)のツアーでサポートバンドとして回ってくれたユニフォーム。マイケルとベンに加えてサポートのマイク。ステージでのほとばしるエネルギー、その圧力が毎回凄まじい。ベンの着るTシャツはギターに擦れ毎回ズタズタになっていく。何枚の穴だらけのシャツを見ただろう。ノイズ、インダストリアル・ミュージックと称されがちだが圧倒的なエネルギーに満ち溢れたライヴ・バンドであると念を押しておきたい。暴れ狂うパフォーマンスに反して音楽はもちろん、様々な文化、レコーディング、機材への見識も深く非常に知性的、フレンドリーでとても楽しいツアーが送れた。いい関係が今も続いているよ。今回の作品は楽器、音の少なさによる余白がランドールのミックスによって色とりどりの表情を与えられ、シンプル、ストロングかつ聴きどころの多い作品になっていると感じる」
※Borisニュー・アルバム『NO』発売中

2020年、リセットされたロック戦線。スタート地点に立ったユニフォームだが、レースに参加するのではなく、競合アーティストを叩き潰しながら突き進んでいく。

■インフォメーション

『SHAME(シェイム)』

発売元:ビッグ・ナッシング / ウルトラ・ヴァイヴ
発売日:2020年9月16日
価格:2,200円(税抜き)
詳細はこちら

山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,000以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
ブログインタビューリスト

特集

清春

今月の音遊人

今月の音遊人:清春さん「僕にとっては、歌が唯一、感動へと昇華できるもの」

10704views

音楽ライターの眼

ボサノバの根源へ、反復と変奏で描く至純の印象/伊藤ゴロー・チェンバーアンサンブル「Amorozsofia」

2938views

楽器探訪 - ステージア「ELC-02」

楽器探訪 Anothertake

持ち運び可能なエレクトーン「ELC-02」、自由な発想でカジュアルに遊ぶ

34766views

ピアノやエレクトーンを本番で演奏する時の靴選び

楽器のあれこれQ&A

ピアノやエレクトーンを本番で演奏する時の靴選び

49719views

大人の楽器練習機

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:世界的ピアニスト上原彩子がチェロ1日体験レッスン

19586views

楽器博物館の学芸員の仕事 Web音遊人

オトノ仕事人

楽器のデモンストレーション、解説、管理までをこなすマルチプレイヤー/楽器博物館の学芸員の仕事(前編)

13147views

弦楽四重奏を聴くことが人生の糧となるように/第一生命ホール

ホール自慢を聞きましょう

弦楽四重奏を聴くことが人生の糧となるように/第一生命ホール

11171views

東京交響楽団&サントリーホール「こども定期演奏会」

こどもと楽しむMusicナビ

子ども向けだからといって音楽に妥協は一切しません!/東京交響楽団&サントリーホール「こども定期演奏会」

12266views

上野学園大学 楽器展示室

楽器博物館探訪

日本に一台しかない初期のピアノ、タンゲンテンフリューゲルを所有する「上野学園 楽器展示室」

21601views

ざぶとんず

われら音遊人

われら音遊人:本家ディアマンテスが認めた 力強く、心躍るサウンド!

932views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

音楽知識ゼロ&50代半ばからスタートしたサクソフォンのレッスン

8812views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

11645views

今、注目の若き才能 ピアニスト實川風が ドラム体験レッスン!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】今、注目の若き才能 ピアニスト實川風が ドラム体験レッスン!

9791views

民音音楽博物館

楽器博物館探訪

16~19世紀を代表する名器の音色が生演奏で聴ける!

13328views

音楽ライターの眼

【ジャズの“名盤”ってナンだ?】#006 音楽でケンカをすることもまたジャズの進化には欠かせなかった~マイルス・デイヴィス『バグス・グルーヴ』編

2439views

オトノ仕事人 ボイストレーナー

オトノ仕事人

歌うときは、体全部が楽器となるように/ボイストレーナーの仕事(前編)

27891views

われら音遊人

われら音遊人:みんなの灯をひとつに集め、大きく照らす

6630views

楽器探訪 Anothertake

空間を包み込む豊かな響き「フリューゲルホルン」

8180views

久留米シティプラザ - Web音遊人

ホール自慢を聞きましょう

世界的なマエストロが音響を絶賛!久留米の新たな文化発信施設/久留米シティプラザ ザ・グランドホール

21512views

パイドパイパー・ダイアリー Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

あれから40年、おかげさまで「音」をはずさなくなりました

5347views

ピアノの地震対策

楽器のあれこれQ&A

いざという時のために!ピアノの地震対策は大丈夫ですか?

51410views

こどもと楽しむMusicナビ

クラシックコンサートにバレエ、人形劇、演劇……好きな演目で劇場デビューする夏休み!/『日生劇場ファミリーフェスティヴァル』

7969views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

11645views