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ユニフォームが新作『SHAME(シェイム)』を発表。ノイズ・ロックの破壊衝動の向かう先へ
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2020.9.3
tagged: アルバムレビュー, SHAME(シェイム)
新型コロナウイルスの蔓延は、エンタテインメント業界に大打撃を与えた。特に音楽ビジネスの被害は甚大なもので、コンサート/ライヴやフェスティバルの開催が2019年以前の状態に戻るにはまだ時間を要しそうだ。
ただ、あらゆる規模のアーティストが同等にライヴ活動を行うことが出来ず、すべてがリセットされてスタート地点に横並びになったことで、アンダーグラウンドなアーティストが一気にトップに躍り出る可能性も出てきた。
そんな状況下で大注目を集めているのがニューヨーク出身のノイズ・ロック・バンド、ユニフォームである。
2013年、ベン・グリーンバーグ(ギター/ハブル、ザ・メン、ピグミー・シュルーズ)とマイケル・バーダン(ヴォーカル/ヨーク・ファクトリー・コンプレイント、ドランクドライヴァー、ビリーヴァー/ロウ)のデュオとして結成されたこのバンドは、ヘヴィでラウドなギターと怒りを叩きつけたヴォーカル、無慈悲なエレクトロニック・ノイズを凝縮させた、カオスが渦巻くエクストリームな音楽性で人気を博してきた。ゾラ・ジーザス、ザウ、ファーマコンなどクセのあるアーティスト達を擁する“セイクリッド・ボーンズ・レコーズ”と契約した彼らは、レーベルの看板アーティストの一組となる。
同じくエクスペリメンタルなヘヴィ・サウンドで知られるザ・ボディとのコラボレーション作品を発表、デフへヴンや日本のBorisともツアーを行い、カナダ出身のメッツ(METZ)の新作『アトラス・ヴェンディング』をベンが共同プロデュース。またTV番組『ツイン・ピークス』新シリーズでも彼らの曲「Habit」が使われるなど、各方面から注目されてきた。
元々ライヴのサポート・メンバーだったマイク・シャープ(ドラムス)は現在は正規メンバーであり、バンド写真にも収まっている。
4作目のフルレンス・アルバムとなる『SHAME(シェイム)』はバンドにとって最も精神的にも肉体的にも暴力的な作品だ。一種のパラドックスだが、本作はあまりにダークでヘヴィ、妥協のないアルバムであるがゆえに、バンドをオーヴァーグラウンドに押し上げるポテンシャルを持っている。
アルバム発売前に先行公開された「デルコ(Delco)」のタイトルはマイケル・バーダンが育ったペンシルヴァニア州のデラウェア郡を指している。少年時代にいじめを受け、いじめっ子の顔色を窺いながら気に入られようとした屈辱的な心情の片鱗が、今もなお自分の心の片隅にある。そんなジレンマを描いたこの曲から始まるアルバムは、2020年で最もロック・リスナーの心を抉る作品のひとつだ。
その一方で、『SHAME』はひたすら密度の濃い音の塊が襲い、聴く者から考える余裕を奪う作品でもある。苦悩も愁嘆場も自己憐憫もない、救いの境地に我々をいざなってくれるのも、このアルバムなのだ。
興味深いのは、マイケルが本作を作っているとき、レイモンド・チャンドラーやジェイムズ・エルロイ、ダシール・ハメットらのハードボイルド小説を読み耽っていたことだ。本作の歌詞の多くはサム・スペイドやフィリップ・マーロウの独白から共鳴を受けたものだと、彼は語る。
本作の世界観は、アンチ・ヒーローの視点から描かれたものだ。守るべき民衆も、倒すべき敵もいない。大義のない、行き場のない鬱屈したアンチ・ヒーローが向かう先が、『SHAME』の破壊衝動だ。
まだ日本でそのライヴを披露するに至っていないユニフォームだが、そのステージを目の当たりにしたBorisのAtsuo氏に、コメントを寄せてもらった。
「昨年(2019年)のツアーでサポートバンドとして回ってくれたユニフォーム。マイケルとベンに加えてサポートのマイク。ステージでの迸るエネルギー、その圧力が毎回凄まじい。ベンの着るTシャツはギターに擦れ毎回ズタズタになっていく。何枚の穴だらけのシャツを見ただろう。ノイズ、インダストリアル・ミュージックと称されがちだが圧倒的なエネルギーに満ち溢れたライヴ・バンドであると念を押しておきたい。暴れ狂うパフォーマンスに反して音楽はもちろん、様々な文化、レコーディング、機材への見識も深く非常に知性的、フレンドリーでとても楽しいツアーが送れた。いい関係が今も続いているよ。今回の作品は楽器、音の少なさによる余白がランドールのミックスによって色とりどりの表情を与えられ、シンプル、ストロングかつ聴きどころの多い作品になっていると感じる」
※Borisニュー・アルバム『NO』発売中
2020年、リセットされたロック戦線。スタート地点に立ったユニフォームだが、レースに参加するのではなく、競合アーティストを叩き潰しながら突き進んでいく。
『SHAME(シェイム)』
発売元:ビッグ・ナッシング / ウルトラ・ヴァイヴ
発売日:2020年9月16日
価格:2,200円(税抜き)
詳細はこちら
山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,000以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
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