今月の音遊人
今月の音遊人:塩谷哲さん 「僕の作る音楽が“ポップ”なのは、二人の天才音楽家の影響かもしれませんね」
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いくつもの国際コンクールで優勝を飾り、世界のクラシック界の第一線で活躍するバイオリニスト、木嶋真優。一方でテレビのバラエティ番組にも出演し、そのキャラクターやファッションで人気を博す存在でもある。このたびリリースされるアルバム『seasons』は、ヴィヴァルディのバイオリン協奏曲集『四季』と、AKB48の『恋するフォーチュンクッキー』のカバーという木嶋らしいカップリング。レコーディングに込めた想いを聞いた。
2016年、第1回上海アイザック・スターン国際バイオリン・コンクールで優勝した当時は、クラシックファンの間で注目を集める存在だった木嶋。だが最近、お茶の間での知名度が上がったことで、コンサートを聴きにくる客層に変化があったという。
「テレビに出てよかったことは、クラシックのコンサートがはじめてという若い人たちが来てくれるようになったこと。コンサートが終わってから、SNSでたくさんコメントや感想を寄せてくださるのがとても嬉しいです。コアなファンだけでなく、多くの方々にクラシックの素晴らしさを伝えたいと思ったとき、クラシックという音楽の形を崩してアプローチするのではなく、そのままの形で伝えたいと私は考えています。“この人のコンサートに行ってみたいな”と思って、足を運んだコンサートがクラシックだった。それで興味を持ったという流れが理想ですね」
今回のアルバムに収録されたヴィヴァルディの『四季』は、クラシックファンならずとも耳なじみのあるメロディ満載の名曲。しかし、はじめはあまり乗り気ではなかったと語る。
「レコード会社から“『四季』はどう?”と提案されたとき、最初は躊躇しました。“これが私の『四季』です”と言えるものがまだ自分の中で定まっていなかったから。でもよくよく考えたら、コロナ禍でこれほど四季を感じられなかった年はなかったなと。抑圧された自粛生活の中で、季節の移り変わりを実感することなく淡々と過ぎていった一年。だからこそ、自然の中に飛び込みたいという気持ちが強くなり、自然の大切さをあらためて感じた一年でもありました。そうしたら、今という時期に『四季』と向き合って、作ってみるのも面白いかもしれないと思えてきたんです。コロナ禍だったからこそ、できたアルバムだと思います」
こうして録音された『四季』は、まさに木嶋にとって“私の『四季』”と言えるもの。コンサートマスターの松野弘明率いる精鋭アンサンブルとともに、生命の躍動に満ちた、目の覚めるような演奏を展開している。
「これまで私は、録音というと作り込みすぎてしまうところがあって、本当は残しておいた方がいい音色の小さな傷なども、気になって消してしまっていました。けれど今回は、即興的に入れた音が多くて、“ここは切れないよね”という箇所がたくさんあり、編集をほぼ入れずに仕上げることができたんです。こちらがなにか仕掛けたら、まったく違う答えが返ってきたりと、音楽での会話がずっと続く感じで、予定調和的なところが一切ないレコーディングでした。そうした即興的なやり取りでは自然と傷はできるし、それをクリーンにしてしまったら意味がないと思うんです」
たしかに、「秋」では酔っ払った農夫たちがふらつく足どりで踊るシーンが絶妙な掛け合いで表現されていたりと、即興的な面白さが尽きない。
「農夫が酔っ払って踊ったら、誰かが転んだり、尻もちをついたりするわけで、そういったリアルも表現したい。同様に、自然も人間が思い描くほど美しくはないと思うんです。クリーンで、ノーブルで、完璧に整えられた美ではなく、人間の手に委ねられていない厳しさを持った世界。風景画のように美しすぎる『四季』には、私は少し違和感を覚えてしまうのです」
世界的な巨匠にその実力を認められ、錚々たる音楽家たちとの共演を重ねてきた木嶋だが、今回のレコーディングはこれまでの人生で3本の指に入るほど強い印象を残す経験だったと語る。
「その場でなにが起こるかわからない世界に、みんなが自然と身を委ねて作り上げていった時間でした。肉体的なことすら忘れて、精神だけがずーっと集中している時間が続いたので、家に帰ってからも眠れなくて。心身ともに本当に刺激の強い音楽的体験をさせていただきました」
アイドルオタクの木嶋たっての希望で収録された『恋するフォーチュンクッキー』も、溌溂とした喜びにあふれている。
「クラシック界の大御所のメンバーが、皆さんとっても楽しんで弾いてくださいました(笑)。ずっと『四季』に向かっていたレコーディングが終わり、“最後に皆で弾こう!”とアンコールのような感じで録ったので、そのときの空気感が音に出ていると思います。クラシック・プレイヤーが弾く『フォーチュン』だからこその響きが最大限に活かされた山下康介さんによる編曲の力も大きいですね」
木嶋の“今”が刻まれた録音で、鮮やかな四季を感じていただきたい。
アルバム『seasons』
発売元:キングレコード
発売日:2020年12月16日
価格:3,300円(税込)
詳細はこちら
●『東京交響楽団 川崎定期演奏会 第79回』
日時:2021年1月17日(日)14:00開演(13:30開場)
会場:ミューザ川崎シンフォニーホール
出演:大植英次(指揮)、木嶋真優(バイオリン)
曲目:チャイコフスキー:バイオリン協奏曲 ニ長調 op.35、交響曲 第4番 へ短調 op.36
●『木嶋真優 ヴァイオリン・リサイタル』
日程・会場:2021年1月22日(金)電力ホール(仙台)/1月24日(日)FFGホール(福岡)/2021年2月19日(金)昌賢学園まえばしホール(群馬)
●645コンサート~充電の60分~ 木嶋真優
日時:2021年2月10日(水)18:45開演(18:00開場)
会場:第一生命ホール
出演:木嶋真優(バイオリン)、坂野伊都子(ピアノ)
曲目:エルガー:愛の挨拶、カッチーニ:アヴェ・マリア、プロコフィエフ:「ロメオとジュリエット」組曲
●クラシック・プラスⅡ 特別演奏会 鈴木優人×木嶋真優×神戸市室内管弦楽団!
日時:2021年3月13日(土)14:00開演(13:30開場)
会場:神戸文化ホール 中ホール
出演:鈴木 優人(指揮)神戸市室内管弦楽団(室内楽)、木嶋真優(バイオリン)
曲目:F.メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 作品64、鈴木優人:アポカリプシス ii、A.ドヴォルザーク:交響曲 第8番 ト長調 作品88
※すべての公演詳細はオフィシャルサイトでご確認ください。
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