今月の音遊人
今月の音遊人:下野竜也さん「自分を楽しく表現できれば、誰でも『音で遊ぶ人』になれると思います」
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音楽家である私たちが今できるのは、音楽を分かち合うこと/伊藤恵×今井信子インタビュー
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2020.12.29
ミュンヘン国際音楽コンクールのピアノ部門で日本人初の優勝を飾って以来、国内外で活躍し続ける伊藤恵(写真上左)。
「彼女は音楽の女神。もっとも尊敬する芸術家であると同時に、生き方も含めてひとりの人間として憧れの存在です」
ピアノ界の重鎮がそう微笑む相手は、長年にわたってビオラ界を牽引してきた世界的奏者、今井信子(写真上右)。その今井にとって伊藤は「自分がそのままでいられる数少ないピアニスト」だ。
「私はすべてが直感なので、ひと目見た瞬間に心が和む人、緊張する人を敏感に感じてしまいます。恵さんとお会いしたときから、一緒に演奏できるのはハッピーだと思いました」(今井)
このふたりの世界の精鋭は、これまで幾度となく共演を重ねてきた。その演奏がピアノ×ビオラのアンサンブルを超える音楽を創造してきたのは、揺らぐことのない信頼関係あってこそだろう。
ふたりが出会ったのは、今世紀に入って間もなくのこと。その後、武生国際音楽祭をはじめ多くの演奏会で共演してきたが、なかでも思い出深いのはこれまで4度上演したシューベルトの歌曲『冬の旅』だ。
シューベルトという作曲家に長年向き合い、敬愛し、その深い世界を私たちに届けてきた伊藤はいう。
「詩を読んだシューベルトがいかにインスパイアされてあの音楽を生み出したのか、いかに共感したのか。最後には詩ですらシューベルトが書いたのではないかと思ってしまうほど、魂がさまようような寂寥感や孤独感にあふれた歌曲です。そして、信子さんのビオラの音は、本当に人間の声のように語りかけてくるんですよね」
実は今井は、バイオリニストとして桐朋学園大学に入学。大学4年生のとき、桐朋学園の弦楽合奏団でアメリカに演奏旅行に行き、立ち寄った音楽祭でビオラのソロが大活躍するR.シュウトラウスの『ドン・キホーテ』を聴いた。何て豊かで美しい音色だろう。衝撃を受けた彼女は、バイオリンをビオラに持ち替えた。
「言葉で表せなくても、音が何かを感じさせてくれる。ビオラは、それを表現しやすい楽器です。ビオラを弾きだしたときから、自然と自分なりの音楽創りができるようになりました」
ビオラの魅力についてそう語る今井は、歌曲に取り組み始めてから、自分たちが真正面から音楽に向かっていけるという思いが一層強くなったともいう。
一方、ソリストとしても輝くような世界を紡ぎ出す伊藤はこう話す。
「信子さんとの演奏は、歌うような語るような優しいその響きに合わせる、そこに溶けあう、その音を支える音といったことをあらためて思い出させてくれます。そして私は、ソリストとして弾いているときとはまた違う、新しい音探しをするんですね。ピアノは、その人が求めればどんな音もかなえてくれる可能性がある楽器だと思っています」
そんなふたりのデュオ・コンサートが、2021年1月17日(日)、ヤマハホールで開催される。
プログラムは、ふたりの“宝物”ともいえる『冬の旅』のほか、シューマンの歌曲『詩人の恋』、さらにシューベルトの『アルペジオーネ・ソナタ』とブラームス『ビオラ・ソナタ』というビオラの名曲。
「今は、音楽の尊さや偉大さを認識するいいときなのではないでしょうか。そして音楽家である私たちに何ができるかといえば、音楽を分かち合うことだと思っています。コンサートホールで、みんなが一体となる音楽会ができればととても楽しみにしています」(今井)
公演はインターネットでも生配信される。世界中の人々と音楽を分かち合いたい。
日時:2021年1月17日(日)14:00開演(13:30開場)
会場:ヤマハホール(東京都中央区銀座7-9-14)
料金:来場チケット6,000円(全席指定・税込)/配信コンサート視聴チケット2,000円
出演:伊藤恵(ピアノ)/今井信子(ビオラ)
曲目:F.シューベルト/アルペジオーネ・ソナタ イ短調 D821、J.ブラームス/ビオラ・ソナタ 第2番 変ホ長調 Op.120-2、F.シューベルト/冬の旅 Op.89, D911 より 第1曲 おやすみ、第5曲 菩提樹、R.シューマン/詩人の恋 Op.48
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