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弦楽器の多様なハーモニーを「あうん」の呼吸で奏でる/塩谷哲withソルト・ストリングスコンサート2020
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2020.12.29
tagged: ヤマハホール, 音楽ライターの眼, 塩谷哲, ソルト・ストリングス
ソルトの愛称で親しまれているピアニスト&作編曲家の塩谷哲が「ソルト・ストリングス」とのコンサートを6年ぶりに開催。「バイオリン2丁+ビオラ+チェロ+ベース+ピアノ」の六重奏編成で、オリジナルを中心に洋楽ポップスやジャズの名曲なども盛り込んだ2部構成のプログラムをダイジェストで振り返る。
塩谷はソロ活動と並行して、ジャンルや演奏形態を超えた多彩なメンバーとのコラボで変幻自在に音楽を表現し続けている。この日のベース奏者・井上陽介とはトリオで共演多数、バイオリニスト・藤堂昌彦らも、塩谷が音楽を担当しているEテレ「コレナンデ商会」の奏者たち。だから久々のライブとはいえ「あうん」の呼吸で、トークも軽妙で笑いが絶えない。
1曲目の『Wishing Well』は、カルテットの高音弦のビブラートが共鳴し合い、ベースの柔和な旋律が加わって、ピアノとともにロマンチックなストーリーを紡いでいく。ストリングス・ライブの始まりにピッタリだ。弾き終えると塩谷が「この大変な時期に意を決して来てくださってありがとうございます」とにこやかにあいさつ。
演奏では「室内楽ジャズ」と呼びたくなる独特のサウンドが心地よかった。例えば、スティングのヒット曲『Englishman in New York』では、カルテットはクラシカルなニュアンス、ピアノやベースはジャズのテイスト。サビ頭の「Wow」では、弦のこすり加減で太く曲線的な低音を出してメリハリをつける。ベースとチェロのピチカートやベースのソロなどで曲の雰囲気を変化させた後、まるで摩天楼の彼方にサビメロがすぅっと消え入るように、不意を突いてフィニッシュ。塩谷がサルサバンド「オルケスタ・デ・ラ・ルス」のピアニスト時代から演奏旅行を重ねたNYは、今なお強烈な原風景なのだろう。
また『Spanish Waltz』をはじめ、どの曲も旋律のバトンタッチのバリエーションが豊か。唯一のデュオタイムでは、ジャズベースをピックで奏でるスティーブ・スワローの曲『Ladies in Mercedes』を、塩谷のピアノと井上のベースがゆったりと思いを交わし、ジャズのメロウなムードが場内に充満。なんだかバーに来た感じで、一杯飲みたい気分に。
「コレナンデ商会」の音楽『オシャレの達人』も演奏した。シャンゼリゼ通りをウキウキ散歩しているようなフレンチポップス風の曲だ。そういえば塩谷は「自分の前世はパリジャン」と信じていて、それを証明するライブをひと頃開いていたのを思い出した。
締めの『Earth Beat』は、以前アースコンシャス・イベントに作ったという。ベースが地上の営みや今日までの足跡を静かに物語り、他の弦楽器が風や水や悠久の時の流れを伝えているかのようで、コロナ禍に聴くとより意味深い曲に思えた。アンコールの『Precious』=大切なもの、に至るまで、弦楽器の多様なハーモニーを満喫できた充実の約2時間だった。
原納暢子〔はらのう・のぶこ〕
音楽ジャーナリスト・評論家。奈良女子大学卒業後、新聞社の音楽記者、放送記者をふりだしに「人の心が豊かになる音楽情報」や「文化の底上げにつながる評論」を企画取材、執筆編集し、新聞、雑誌、Web、放送などで発信。近年は演奏会やレクチャーコンサート、音楽旅行のプロデュースも。書籍「200DVD映像で聴くクラシック」「200CDクラシック音楽の聴き方上手」、佐藤しのぶアートグラビア「OPERA ALBUM」ほか。
Lucie 原納暢子
文/ 原納暢子
photo/ Ayumi Kakamu
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