Web音遊人(みゅーじん)

ブルースの巨匠ライトニン・ホプキンスの名盤にして異色作2タイトルが重量盤LP再発

ライトニン・ホプキンスの2大アルバムが2021年3月、180g重量盤アナログLPとして日本発売されることになった。

サミュエル・ジョン・ホプキンス(1912 – 1982)はテキサス・ブルースを代表するギタリスト/シンガー/ソングライターであり、その閃光のようなギター・プレイで“ライトニン=稲妻”の異名を取った。今回リリースされるのは『ライトニン・アンド・ザ・ブルース』と『モージョ・ハンド』という、ライトニンの代表的アルバムであり、ブルース音楽のオールタイム・ベストに挙げられることも少なくない名盤だ。

『ライトニン・アンド・ザ・ブルース』は1954年に録音され、“ヘラルド・レコーズ”からシングルとして発表された全12曲をアルバムにまとめた作品(1960年にアルバム発売)。こってり濃厚なスロー・ブルース『ナッシン・バット・ザ・ブルース』のハートに突き刺さるギター、師匠ブラインド・レモン・ジェファーソンの『ニューモニア・ブルース』を発展させた“病気系ブルース”の『シック・フィーリング・ブルース』、ロックンロールのルーツとしての『ライトニンズ・ブギ』『ライトニンズ・スペシャル』など、起伏に富んだサウンドで魅せる作品集だ。

一方の『モージョ・ハンド』は1960年に録音、1962年に“ファイア”レーベルから発表されたアルバムだ。1曲目『モージョ・ハンド』の“ルイジアナに行ってモージョ・ハンドを手に入れる”という宣言と、ワイルドな速弾きを交えたギターにはインパクトがあり過ぎるが、スローに攻める『オーフル・ドリーム』、黒馬がトコトコ走っていくようなインストゥルメンタル『ブラック・メア・トロット』、ライトニン自身のピアノも聴ける『ハヴ・ユー・エヴァー・ラヴド・ア・ウーマン』など、全編そのインパクトが持続する。

両アルバムともライトニンはアコースティック・ギターにマイクを取り付けて生々しいプレイとサウンドを録音、ベーシストとドラマーを従えて奔放に弾きまくり、唸っている。音域が広く、重量感のあるサウンドは180gの重量盤LPでさらに効果を出している。

これまで紙ジャケット盤CDやボーナス・トラックを加えた拡大版エディションなども発売されている両作だが、アルバム本編のみで勝負する今回のリリースは、ピュアでストイックな仕様となっている。

歴史を超えた名盤と呼ばれることも少なくないこの2作だが、実はアルバムの発売当時、この音楽性は必ずしもライトニンに求められたものではなかった。1959年、ブルース研究家のマック・マコーミックとサミュエル・チャーターズが彼を“発見”、白人社会に紹介したとき、求められたアコースティック弾き語りのフォーク/カントリー・ブルースだった。1960年10月、彼が出演したニューヨークのカーネギー・ホールでの公演は、ジョーン・バエズ、ピート・シーガーとのアコースティック・ショーだった。

『ライトニン・アンド・ザ・ブルース』のジャケットには“アメリカン・フォークロアを歌う”という副題が付けられている。枯れた味わいの弾き語りを期待してレコードを手にした当時の白人オーディエンスは、スピーカーから飛び出す脂っこいブルースの塊とバンド演奏にぶったまげたのではなかろうか。

だが『ライトニン・アンド・ザ・ブルース』と『モージョ・ハンド』には、“異色作”を“代表作”にしてしまうマジックがある。近年ではこの2作を入口にしてライトニンの膨大な作品群に踏み込んでいくリスナーも少なくないだろう。筆者(山崎)もそうだった。

1947〜1951年の初期音源を集めた『シングス・ザ・ブルース』(1960)ではライトニンの若々しい歌声とギターを聴けるし、サミュエル・チャーターズがプロデュースしてカントリー・ブルースマンとしてのライトニンの姿を捉えた『ライトニン・ホプキンス』(1959)やソロでのニューヨーク吹き込み音源『ライトニン・イン・ニューヨーク』(1960)、サイケデリック・ロックの13thフロアー・エレヴェイターズとの共演作『フリー・フォーム・パターンズ』(1968)など、彼は幾多の優れたアルバムを世に出してきた。そんな豊潤なるブルースの道を歩んできたライトニンの軌跡の、まさに最高峰といえるのが、『ライトニン・アンド・ザ・ブルース』と『モージョ・ハンド』なのである。

■インフォメーション

アルバム『ライトニン・アンド・ザ・ブルース』

発売元:Pヴァイン・レコード
発売日:2021年3月31日
価格:4,400円(税込)
詳細はこちら

アルバム『モージョ・ハンド』

発売元:Pヴァイン・レコード
発売日:2021年3月31日
価格:4,400円(税込)
詳細はこちら

山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,000以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
ブログインタビューリスト

特集

今月の音遊人

今月の音遊人:西村由紀江さん「誰かに寄り添い、心の救いになる。音楽には“力”があります」

4781views

音楽ライターの眼

連載18[ジャズ事始め]商品価値が薄れたからジャズは国ごとにカスタマイズできるようになった!?

1422views

STAGEA(ステージア)ELB-02 - Web音遊人

楽器探訪 Anothertake

エレクトーンで初めてオーディオファイル録音機能を装備

11542views

楽器のあれこれQ&A

エレキギター初心者を脱したい!ステップアップ練習法と2本目購入時のアドバイス

1701views

大人の楽器練習機

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:世界的ピアニスト上原彩子がチェロ1日体験レッスン

14614views

オトノ仕事人 ボイストレーナー

オトノ仕事人

思い描く声が出せたときの感動を分かち合いたい/ボイストレーナーの仕事(後編)

8070views

久留米シティプラザ - Web音遊人

ホール自慢を聞きましょう

世界的なマエストロが音響を絶賛!久留米の新たな文化発信施設/久留米シティプラザ ザ・グランドホール

15889views

こどもと楽しむMusicナビ

サービス精神いっぱいの手作りフェスティバル/日本フィル 春休みオーケストラ探検「みる・きく・さわる オーケストラ!」

7787views

民音音楽博物館

楽器博物館探訪

歴史的価値の高い鍵盤楽器が並ぶ「民音音楽博物館」

20964views

われら音遊人

われら音遊人

われら音遊人:音楽は和!ひとつになったときの達成感がいい

4949views

山口正介 - Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

この感覚を体験すると「音楽がやみつきになる」

7250views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

22339views

ぱんだウインドオーケストラの精鋭たちがバイオリンの体験レッスンに挑戦!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】ぱんだウインドオーケストラの精鋭たちがバイオリンの体験レッスンに挑戦!

11903views

小泉文夫記念資料室

楽器博物館探訪

世界の民族楽器を触って鳴らせる「小泉文夫記念資料室」

18988views

音楽ライターの眼

【ジャズの“名盤”ってナンだ?】#006 音楽でケンカをすることもまたジャズの進化には欠かせなかった~マイルス・デイヴィス『バグス・グルーヴ』編

287views

オトノ仕事人

深く豊かなクラシックの世界への入り口を作る/音楽ジャーナリストの仕事

3566views

われら音遊人

われら音遊人:路上イベントで演奏を楽しみ地域活性にも貢献

1798views

エレクトーンに新風を吹き込んだ「ステージア」

楽器探訪 Anothertake

エレクトーンに新風を吹き込んだ「ステージア」

20839views

紀尾井ホール

ホール自慢を聞きましょう

専属の室内オーケストラをもつ日本屈指の音楽ホール/紀尾井ホール

11264views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

もしもあのとき、バイオリンを習っていたら

4888views

楽器のあれこれQ&A

目的別に選ぼう電子ピアノ「クラビノーバ」3シリーズ

1293views

こどもと楽しむMusicナビ

“アートなイキモノ”に触れるオーケストラ・コンサート&ワークショップ/子どもたちと芸術家の出あう街

5603views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

22339views