Web音遊人(みゅーじん)

現代ブルースを担うギタリスト、ティンズリー・エリスがニュー・アルバム『Devil May Care』を発表

ティンズリー・エリスが2022年1月、ニュー・アルバム『Devil May Care』を発表した。

1957年にジョージア州アトランタに生まれ、これが通算20枚目のオリジナル・ソロ・アルバムになるベテランのブルース・ギタリスト&シンガーのティンズリー。ブルースの名門レーベル“アリゲイター・レコーズ”の看板アーティストの1人で、今や現役ミュージシャンとしてはブルースというジャンルそのものを担う存在と言って過言でない実力派だ。

ティンズリー・エリス『Devil May Care』

前作『Ice Cream In Hell』(2020)を発表後、大規模なツアーが予定されており、ティンズリー自身も「今度こそ日本でもプレイしたい!」と意気込んでいたものの、新型コロナウィルスの影響ですべてのスケジュールが白紙に。彼は自宅待機を余儀なくされた。

だが、転んでもただでは起きないのがティンズリーだ。彼は8か月をかけて新曲を200曲書き下ろしている。前作も40曲から選りすぐったというが、なんとその5倍!というのが驚きだ。ブルースという、様式がある程度決まったスタイルで新曲を書くことについて、ティンズリーは「ブルースのスタイルを維持しながら新しい曲や歌詞を書くのは楽じゃない。“こんなフレーズ、誰かが既にやったよなあ”の繰り返しだよ」と語っているが、それを200曲新たに書くというのは並大抵のことではない。

新しい曲を書くにあたって、彼は自宅のホーム・スタジオにあるありったけの機材を使って実験を行いながら、膨大な数のギターやアンプ、レスリーのキャビネット、ウーリッツァーのエレクトリック・ピアノ、マエストロのエコープレックス・テープ・エコーから刺激とインスピレーションを受けて楽曲の形にしていった。

同時に、彼は自らが影響を受けてきたブルース・ミュージシャン達の音源を再訪。オールマン・ブラザース・バンド、フレディ・キング、マイケル・ブルームフィールド、B.B.キングの作品を聴き込んで、自分のアイデンティティを再確認したという。彼は「こんなにいろんな音楽を聴いたのは1970年代以来だ」と笑っている。

なお、彼は幾つかの新曲(の抜粋)をSNSで公開、どの曲をアルバムに収録するか意見を募ったものの、「最高!」「ぜひ収録すべきだ!」という意見ばかりで、ほとんど参考にならなかったと思われる。最終的に全10曲が選ばれ、テネシー州フランクリンの“ロック・ハウス”スタジオでレコーディング。アルバム『Devil May Care』としてリリースされることになった。

サザン・ロックの薫りが漂うギターとブッカー・T・&・ジ・MGズばりの曲調が絶妙な化学反応を起こす『One Less Reason』、スライド・ギターが唸る『Right Down The Drain』、仄かな哀感を込めた『Just Like Rain』から、ジミ・ヘンドリックスばりのワウやファンキーなカッティングをフィーチュアした『Step Up』『28 Days』、スワンプっぽいビートが腰に来る『Juju』、泣きのリード・ギターで魅せるラスト『Slow Train To Hell』まで、それぞれがブルースという音楽スタイルを異なったアングルから表現。それでいてティンズリーの個性によって一貫性が貫かれており、同時に楽曲の高いクオリティが保たれている。どれを取ってもハズレのないティンズリーのアルバムだが、ソングライターとしての彼の才能を堪能するにはベストなもののひとつだろう。熱気溢れるリードとヒンヤリと斬り込むフレーズ、そして常に表現力豊かな彼のギターも冴えわたっている。

アルバムを引っ提げて、ティンズリーは2022年1月からアメリカでツアーを開始。世界の情勢にもよるが、夏にはヨーロッパのブルース・フェスティバルにも出演する可能性もあり。そしてもちろん、彼の目標のひとつは日本のステージに立つことだ。

前作の発表時、ティンズリーは筆者(山崎)にこう話してくれた。

「弟が20年以上横浜に住んでいて、日本が美しく人々が寛大だということをいつも話してくれる。日本にはブルース・ギターのファンが大勢いると聞いているよ」

2022年の音楽シーンにおいて、決して主流とは言い難いブルースだが、若い世代の音楽リスナーをファンにする方法について、こう語っている。

「彼らを酒場やフェスに連れていって、ブルースのライヴを聴かせるのが一番だろうね。ブルースはやはり“生”が一番だよ。私がブルースを愛するようになったのも、B.B.キングやマディ・ウォーターズのライヴを見たからだった」

日本でブルースを盛り上げるには、彼自身がジャパン・ツアーを行い、ライヴを行うのがベストだろう。コロナ明けのセレブレーションは、ティンズリーの来日公演で祝いたいものだ。

 

山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,000以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
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