Web音遊人(みゅーじん)

編曲作品や委嘱作品を積極的に演奏し、次世代のマリンバ奏者に受け渡していきたい

音楽家はほとんどの場合、幼いころから親に勧められて楽器を習い、生涯その楽器を愛奏していく人が多いが、なかには最初から自身の意志で好きな楽器を選ぶ人もいる。ニューヨーク在住のマリンバ奏者、名倉誠人は小学校3年のときに学芸会でリコーダーを担当したが、友だちが演奏していたバス木琴の音に魅了された。

「バス木琴はマリンバに近い音をもっていて、そのすばらしさに一度で惹かれてしまったのです。絶対にあの楽器を演奏したいと両親に頼み込み、レッスンに通うことになりました」

以来、マリンバひと筋。高校は普通高校に通い、やがて音楽大学に進み、1980年代にはロンドンで研鑽を積み、1990年日本演奏連盟賞を受け、関西フィルとのコンチェルトでソリスト・デビューを果たす。転機は1994年。権威あるニューヨークのヤング・コンサート・アーティスツ国際オーディション(YCM)において、マリンバ奏者として史上初の優勝に輝き、全米41州で演奏を行うようになる。

「YCMはオーディション後のケアがすばらしく、さまざまな土地で演奏する機会を与えてくれるシステムです。それにより、僕はアメリカ各地のホールで演奏することが可能になり、名前を覚えてもらうことができました。マリンバのよさも伝えることができましたし、何よりプロとしての道筋ができました」

マリンバはオリジナル作品が少ないため、さまざまな編曲作品を演奏することが多い。これまで内外の作曲家への委嘱も積極的に行い、世界初演も数多く手がけている。

「ピアノやヴァイオリンなどと異なり、作品が限られているため、編曲作品や委嘱作品を演奏していますが、それらをひとりでも多くの人が聴いてくれ、マリンバの魅力を知ってほしいと願っています。クラシックは既存の作品だけではなく、いまも新たな作品が生まれ続け、変貌していく。それをステージで演奏することに意義があると思っていますし、自分のそうした姿勢を次世代のマリンバ奏者に興味をもってもらえたら最高です」

名倉誠人のマリンバが生み出す音はオーケストラのように多種多様な響きを有し、心の奥にじわじわと染み込み、深い感動を呼び起こす。常に「いかにしたら面白い企画が提案できるか」「幅広い聴衆に聴いてもらえるか」と考え、他の楽器や絵画、バレエ、朗読などとの共演にも取り組み、コンサート前には「マリンバの魅力、聴きどころ」などのトークも行う。

「マリンバは楽器によって鍵盤の幅や長さが異なり、自分の楽器を持ち込めない場合はそれに対応するのが大変です。マレット(ばち)も多数用意し、リハーサルでホールの響きを瞬時にとらえ、本番に向けて完璧な準備をするように心がけていきます」

2021年12月にはアメリカで、混声合唱との共演による森に関する作品の初演が控えている(ニュー・アムステルダム・シンガーズ合唱団 音楽監督:クララ・ロングストレス ゲスト:名倉誠人(マリンバ)「The Return of Song」12月10日(金)午後8時開演、12月12日(日)午後4時開演、会場:ブロードウェイ・プレスビテリアン教会)

「いまはもういわれませんが、90年代にアメリカの地方を回っていたとき、日本人を見たこともない聴衆がたくさんいて、“ジャッキー・チェンに似ている”といわれたことがありました(笑)。マリンバはアメリカで広められた楽器ですから、これからも各地で演奏していきたい。もうニューヨークに25年間住んでいますが、他に移りたいとは思いませんね」

一度ナマの演奏に触れると、ずっとその響きが脳裏にしっかり居座るほどインパクトが強いマリンバ。ぜひ、ナマ演奏体験を。

オフィシャルサイト

伊熊 よし子〔いくま・よしこ〕
音楽ジャーナリスト、音楽評論家。東京音楽大学卒業。レコード会社、ピアノ専門誌「ショパン」編集長を経て、フリーに。クラシック音楽をより幅広い人々に聴いてほしいとの考えから、音楽専門誌だけでなく、新聞、一般誌、情報誌、WEBなどにも記事を執筆。著書に「クラシック貴人変人」(エー・ジー出版)、「ヴェンゲーロフの奇跡 百年にひとりのヴァイオリニスト」(共同通信社)、「ショパンに愛されたピアニスト ダン・タイ・ソン物語」(ヤマハミュージックメディア)、「魂のチェリスト ミッシャ・マイスキー《わが真実》」(小学館)、「イラストオペラブック トゥーランドット」(ショパン)、「北欧の音の詩人 グリーグを愛す」(ショパン)など。2010年のショパン生誕200年を記念し、2月に「図説 ショパン」(河出書房新社)を出版。近著「伊熊よし子のおいしい音楽案内 パリに魅せられ、グラナダに酔う」(PHP新書 電子書籍有り)、「リトル・ピアニスト 牛田智大」(扶桑社)、「クラシックはおいしい アーティスト・レシピ」(芸術新聞社)、「たどりつく力 フジコ・ヘミング」(幻冬舎)。共著多数。
伊熊よし子の ークラシックはおいしいー

 

facebook

twitter

特集

中村佳穂

今月の音遊人

今月の音遊人:中村佳穂さん「私にとって音楽は“取り繕わなくていい場所”」

4907views

華麗なる完璧主義者、カラヤンの音楽と人生

音楽ライターの眼

華麗なる完璧主義者、カラヤンの音楽と人生 vol.2

10386views

Venova(ヴェノーヴァ)

楽器探訪 Anothertake

スタイリッシュで斬新なデザイン。思わず吹いてみたくなるカジュアル管楽器「Venova(ヴェノーヴァ)」の誕生

11714views

バイオリンを始める時に知っておきたいこと

楽器のあれこれQ&A

バイオリンを始める時に知っておきたいこと

10535views

桑原あい

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:注目の若きジャズピアニスト桑原あいがバイオリンの体験レッスンに挑戦!

17358views

カッティング・エンジニア

オトノ仕事人

レコードの生命線である音溝を刻む専門家/カッティング・エンジニアの仕事

9266views

ホール自慢を聞きましょう

歴史ある“不死鳥の街”から新時代の芸術文化を発信/フェニーチェ堺

11287views

日生劇場ファミリーフェスティヴァル

こどもと楽しむMusicナビ

夏休みは、ダンス×人形劇やミュージカルなど心躍る舞台にドキドキ、ワクワクしよう!/日生劇場ファミリーフェスティヴァル2022

4734views

浜松市楽器博物館

楽器博物館探訪

世界中の珍しい楽器が一堂に集まった「浜松市楽器博物館」

38442views

われら音遊人:年齢も職業も超えた仲間が集う 結成30年のビッグバンド

われら音遊人

われら音遊人:年齢も職業も超えた仲間が集う、結成30年のビッグバンド

12064views

パイドパイパー・ダイアリー Vol.3

パイドパイパー・ダイアリー

人生の最大の謎について、わたしも教室で考えた

6601views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

12289views

コハーン・イシュトヴァーンさん Web音遊人

おとなの楽器練習記

【動画公開中】ハンガリー出身のクラリネット奏者コハーン・イシュトヴァーンがバイオリンを体験レッスン!

12183views

上野学園大学 楽器展示室」- Web音遊人

楽器博物館探訪

伝統を引き継ぐだけでなく、今も進化し続ける古楽器の世界

15252views

音楽ライターの眼

煮詰まったジャズを毛虫から蝶へと変態させる可能性がAIには秘められているのか?

3675views

江藤裕平

オトノ仕事人

音楽ゲームの要となるリズムノーツをつくる専門家/『太鼓の達人』の譜面制作の仕事

14716views

スイング・ビーズ・ジャズ・オーケストラのメンバー

われら音遊人

われら音遊人:震災の年に結成したビッグバンド、ボランティア演奏もおまかせあれ!

7378views

マーチングドラム

楽器探訪 Anothertake

これからのマーチングドラム ~楽器の進化の可能性~

15774views

久留米シティプラザ - Web音遊人

ホール自慢を聞きましょう

世界的なマエストロが音響を絶賛!久留米の新たな文化発信施設/久留米シティプラザ ザ・グランドホール

22112views

パイドパイパー・ダイアリー Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

楽器は人前で演奏してこそ、上達していくものなのだろう

10128views

ピアノやエレクトーンを本番で演奏する時の靴選び

楽器のあれこれQ&A

ピアノやエレクトーンを本番で演奏する時の靴選び

50510views

東京文化会館

こどもと楽しむMusicナビ

はじめの一歩。大人気の体験型プログラムで子どもと音楽を楽しもう/東京文化会館『ミュージック・ワークショップ』

8965views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

35822views