今月の音遊人
今月の音遊人:上原彩子さん「家族ができてから、忙しいけれど気分的に余裕をもって音楽と向き合えるようになりました」
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舞台は神聖な場所、演奏は私にとって祈りの行為/仲道郁代インタビュー
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2022.4.5
ベートーヴェン没後200年と自身の演奏活動40周年に向け、2018年から「The Road to 2027 リサイタル・シリーズ」に取り組んでいる仲道郁代。2022年春のシリーズはベートーヴェンを軸にしたプログラム、秋のシリーズはさまざまな作曲家のピアニズムに迫るプログラムで、全20回、ピアニストとして新たな境地に挑み続けている。
デビューから35年。日本を代表するピアニストとして、ひたむきに作曲家に向き合い、多彩な演奏活動を繰り広げている仲道郁代。その活動に対して、令和3年度文化庁長官表彰と文化庁芸術祭にて大賞が授与された。
「文化庁長官表彰は、被災地でのアウトリーチやワークショップなどを含めたこれまでの私の演奏活動に、文化庁芸術祭大賞は、2021年の秋のシリーズ『幻想曲の模様~心のかけらの万華鏡~』に光をあてていただき、とてもうれしく思っています」
ベートーヴェンの没後200年と自身の演奏活動40周年が重なる2027年に向けた「The Road to 2027」は、春と秋の2回のシリーズを10年間続ける壮大なプロジェクトだ。
「デビュー30周年が過ぎたとき、これからの10年をどう過ごすべきかと考えました。それによって、私のピアニスト人生が決まると……。春のシリーズでは、ベートーヴェンのピアノ・ソナタの哲学的命題と響き合う他の作曲家の作品を組み合わせたプログラムを聴いていただき、秋のシリーズでは、さまざまな作曲家のピアニズムを、細やかな音のニュアンスを表現できる空間で聴いていただいています。2027年になったとき、新たに見えてくる地平がそこにあると信じて取り組んでいます」
2022年5月29日(日)に開催される春のシリーズでは、「知の泉」と題して、ベートーヴェン『ピアノ・ソナタ第17番「テンペスト」』を核に、ショパン『バラード第1番』、リスト『ダンテを読んで』、ムソルグスキー『展覧会の絵』を演奏する。
「それぞれの作曲家が文学や絵画から得た“叡智”を、音楽に昇華させたいと考えたプログラムです。『ピアノ・ソナタ第17番』は、ベートーヴェンが『この作品を理解したかったらシェイクスピアの戯曲『テンペスト』を読め』と弟子に言ったということで『テンペスト』と呼ばれているのですが、シェイクスピアの作品とは関係ないという説もあります。でも、このソナタは『ハイリゲンシュタットの遺書』と同時期に書かれているんですね。シェイクスピアの『テンペスト』の主人公の王様は、弟の謀略にかかって島流しになって、絶望のなかから最終的に弟を許します。ベートーヴェンも『ハイリゲンシュタットの遺書』で、絶望して死のうと思ったけれど、自分には音楽家として神から与えられた使命があるから生きていく、自分にひどいことをした弟たちを許すと書いています。いずれも絶望からの再生という意味で関係があると思うのです。ショパンの『バラード第1番』も、ミツキェヴィチのポーランドの伝説に基づいた叙事詩にインスピレーションを受けたと言われています。祖国を失った青年の葛藤や苦しみ、そして心の再生という意味でやはり繋がりを感じます」
「リストの『ダンテを読んで』は、ダンテの『神曲』の『地獄編』、『煉獄編』、『天国編』を音楽にしたものだと言われていますが、リスト自身が神様のような俯瞰した視点で、人間の罪、地獄からの再生を描いているように思います。ムソルグスキー『展覧会の絵』は、ラヴェルのオーケストラ版の編曲で知られ、華やかでダイナミックな作品というイメージがありますが、私はもっと精神的にとらえるべき作品だと思うのです。絵と絵の間の『プロムナード』の旋律が『死せる言葉による死者への呼びかけ』の部分に使われ、最後の『キエフの大門』に至ります。これは死者が、もしくは生きている人が使者となった人の人生を振り返りつつ天国の門をくぐる、というストーリーなのではないかとさえ思うのです。最後の大伽藍のような教会に鳴り響く鐘の音に胸が張り裂けそうになります。今回の『知の泉』というテーマには、『業(ごう)からの再生』という意味を込めているのですが、ムソルグスキーが死せる友人を思い書いたこの曲は、今、その意味が強く心に刺さって響きます。人間の業、死者の魂、祈り、そして天からの鐘の音。音楽から得ることができる何か大切なことを私たちは見出すことができるのではないでしょうか」
コンサート・シリーズで取り上げる作品のなかには、これまでのレパートリーになかったものも多い。
「今回のリスト『ダンテを読んで』、ムソルグスキー『展覧会の絵』も、初めて演奏する作品です。2021年の秋のシリーズで取り上げたスクリャービン、2022年の秋のシリーズで取り上げるラフマニノフも、まったく新しいレパートリー。弾くべきと思った作品を、10年の中で毎回テーマに合わせてプログラミングしています。練習に負荷はかかりますが、うれしい負荷ですね。新しい私を聴いていただけると思います」
今回の春のシリーズで使用するのは、2022年3月に発表されたばかりの新しいヤマハCFX。
「CFXは大好きで、多くのコンサートで使わせていただいていますが、新しいCFXは、新たな領域に踏み込んだと感じています。これまでのCFXの魅力は、立体感のある音像、音色のパレットの豊富さでしたが、それに加えて高音が格段に豊かになりました。高音の倍音が豊かに鳴るためには、ベースの役割が重要です。フレームの形やハンマーにも手を加えられたことで、響板の響き方が別物になりなりました。それによって、繊細な表現も、パワフルな表現も、さらに幅広く表現できるようになりました」
シリーズ進行中に半年近く演奏活動ができない時期があったことが、生きること、演奏することについて、あらためて考え直す機会となったと語る。
「私の出す音が、聴いてくださる方の心に響くことが大切なんだなと思えるようになりました。半年近くコンサートがなかった後に、久しぶりに舞台に立ったとき、ここは私にとって神聖な場所、私にとって演奏することは祈りの行為なのだと思いました」
日時:2022年5月29日(日)14:00開演(13:00開場)
会場:サントリーホール
演奏曲:ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第17番「テンペスト」Op. 31-2 BEETHOVEN: Piano Sonata No. 17 in D Minor, Op. 31, No. 2, “Tempest”、ショパン/バラード第1番 Op. 23 CHOPIN: Ballade No. 1 in G Minor, Op. 23、リスト/ダンテを読んで S. 161-7 LISZT: Après une lecture du Dante-Fantasia quasi sonata S161 / R10-7、ムソルグスキー/組曲「展覧会の絵」 MUSSORGSKY: Pictures at an Exhibition
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