今月の音遊人
今月の音遊人:大貫妙子さん「言葉で説明できないことのなかに本当に素晴らしいものがいっぱいある。それが音楽ですよね」
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ブリティッシュ・ハード・ロックの“正統”を受け継いできたバンド、FMが13作目となる新作アルバム『サーティーン』を発表した。
申し分なくハードなサウンドに抗いがたくキャッチーなメロディとフック。スティーヴ・オーヴァーランドのヴォーカルは1970年代のソウルフルなコブシと1980年代のポップ・フィーリングを兼ね備え、ファッショナブルになることがない代わりに常に新鮮なスリルを呼び起こしてくれる。アルバムからのリーダー・トラック『ターン・ディス・カー・アラウンド』にオールド・ファンは待ってました!と喝采を送り、初めて彼らの音楽に触れるリスナーはフレッシュな昂ぶりを覚えるだろう。
FMのサウンドに漂うヴィンテージかつ豊潤な味わいは、付け焼き刃ではない。1984年の結成から(一度解散を挟みながらも)40年近くFMで突き進んできたこともあるが、メンバー達はバンド結成前から英国ロックの強者たちと活動して、そのエッセンスを吸収してきたのだ。スティーヴ(ヴォーカル)とクリス(ギター)のオーヴァーランド兄弟は元フリー~バッド・カンパニーのサイモン・カークと共にワイルドライフを組んでいたし、マーヴ・ゴールズワージー(ベース)はかつてジョン・サイクスとストリートファイターで共演、ダイアモンド・ヘッドやサムソンといったN.W.O.B.H.M.(ニュー・ウェイヴ・オブ・ブリティッシュ・ヘヴィ・メタル)バンドに在籍してきたミュージシャンである。
『サーティーン』にはそんな彼らが身体に取り込んできたロックの遺伝子が凝縮されている。1曲目の『シェイキング・ザ・トゥリー』からAORテイストの『ウェイティング・オン・ラヴ』、郷愁を漂わせる『ロング・ロード・ホーム』、ダイナミックなコーラスが映える『ビー・トゥルー・トゥ・ユアセルフ』まで、どこを切ってもFM汁が滴り落ちる。ハードなサウンドは一本背骨の通ったものだが、ヘヴィになり過ぎることはない。ポップなシンセは1980年代だったら“売れセン狙い”と誹りを受けたかも知れないが、それも今は昔。メインストリームとは無縁ながらお好きな方にはたまらないファクターとして、バンドの魅力のひとつとなっている。
新型コロナウイルスの余波で2020年はライヴ活動を行うことを出来なかった彼らだが、2021年後半から徐々にステージ復帰。2022年3月下旬には『サーティーン』に伴うツアーをイギリスからスタート。その後ヨーロッパを回り、各地の夏フェス出演も予定されている。
まだ『サーティーン』が発売されて日が浅いせいもあり、新作から演奏されるナンバーは少なめのようだが、歴代のクラシックスの数々をフィーチュアしたライヴは熱い声援で迎えられているようだ。
2019年のツアーでは『タフ・イット・アウト』(1989)の完全再現ライヴも行われ、『Tough It Out Live』としてアルバム化されるなど、初期作と真っ正面から向き合ってきた彼ら。2022年のツアーではさらに遡ってファースト・アルバム『Indiscreet』から多めにピックアップされているのが話題だ。『That Girl』『Other Side Of Midnight』『I Belong To The Night』『Frozen Heart』などに、イギリスの古参ファンは感涙にむせんでいるに違いない。
ぜひ日本でも彼らのライヴを見たい!と熱望するファンも数多いと思われるが、実はFMが来日して、50万人といわれる大観衆の前でプレイしたことは意外に知られていなかったりする。
舞台となったのは1991年8月10日の東京湾大華火祭。スペシャル・ゲストとしてフランスのディスコ/エレクトロニカの大御所セローン(マルク・セローン)がコンサートを行ったが、このときのバック・バンドがFMだったのである。
彼らはセローンの“フューチャリスト・ロック・オペラ”『ザ・コレクター』を演奏。スティーヴが同題のアルバム(1985)に参加したことから実現したものだが、キーボードでジェフ・ダウンズ(イエス~エイジア)とラリー・ダン(アース・ウインド&ファイア)も出演、50人のバレリーナをフィーチュアするなど大規模なステージ・パフォーマンスを行っている。
このライヴはWOWOW開局記念プログラムのひとつとして放映され、フランスで『Harmony』としてビデオ発売。現在では映像アンソロジーDVD『Culture』にライヴ全編が収録されている。
FMは『テイキン・イット・トゥ・ザ・ストリーツ』(1991)を海外でリリースした直後で、マーヴがFMのTシャツを着てプレイするなど日本進出に意欲を見せていたが、当時日本のレコード会社と契約がなく「受け皿がなかったんだ。1週間日本にいたからFMとしてのライヴもやりたかったんだけど、どこに行けばいいのか判らなかった」と筆者(山﨑)とのインタビューで語っていた。ちなみに『テイキン~』の日本盤は翌1992年に発売され、スティーヴと当時のギタリスト、アンディ・バーネットがプロモーション来日もしている。
それから30年以上が経って、FMは今もなおハード・ロックの王道を歩み続ける。海外アーティストの来日公演も徐々に復活しつつある2022年、FMの日本襲来への期は熟したといえるだろう。ライヴで見たくなる、『サーティーン』はそんなアルバムだ。
発売日:2022年3月23日
価格:2,970円(税込)
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山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,000以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
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文/ 山崎智之
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