今月の音遊人
今月の音遊人:小沼ようすけさん「本気で挑まなければ音楽の快感と至福は得られない」
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作曲家・宮川彬良の音楽愛が詰まった一冊『「アキラさん」は音楽を楽しむ天才』
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2022.7.5
tagged: 書籍, インタビュー, 宮川彬良, 「アキラさん」は音楽を楽しむ天才
父も作曲家、メッシュの入った長髪にメガネという特徴的な外見で、代表曲は『マツケンサンバⅡ』。この人気作曲家といえば――。
こんなクイズがあったら、「宮川彬良!」と、すぐ答えられる人が多いだろう。さらに特徴を挙げるなら、明るく楽しくおしゃべり上手。そんな彼の出した『「アキラさん」は音楽を楽しむ天才』(NHK出版)は、初の著書という。意外な気もするが、実際、書きたいことは溢れるほどあったそう。
「一冊にまとめるにあたって、5分の1ぐらいは削ったと思います。もっと言えば、今回は、生い立ちや仕事の経歴を書く本になってしまったけれど、本当はもう一冊、ショパンのピアノ曲から昭和歌謡までの譜例をふんだんに載せた音楽解説の本も書きたいと思っていたんです」
少々欲張りな彬良さんだが、この一冊だけでもエピソードは満載で、音楽の知的好奇心も満たしてくれる。『宇宙戦艦ヤマト』などを作曲し、知名度も抜群だった父・宮川泰(ひろし)が自慢だった少年時代のことや、テレビ番組「クインテット」や連続テレビ小説「ひよっこ」、蜷川幸雄舞台「身毒丸」など代表作の制作秘話――。中でも出色は、小学5年生の時、仲間4人で音楽準備室に忍び込んで、音と戯れたエピソードだ。マリンバやドラをたたいているうちに、たちまち中国風サウンドが出来上がって大興奮。遊びの中から音楽が自然に生まれたことで、音楽本来の面白さを発見したのだという。彬良さんの豊かで楽しいサウンドの源泉は、音楽一家に生まれたエリート教育などではなかったのだ。
この逸話は、小学校の校長先生にも共感され、「学校での経験が、今の音楽の基礎になっていることに勇気付けられた」と絶賛されたという。同時に、その校長の口からは「音楽準備室の鍵をかけないのは、今の常識ではできないです」とも。彬良さんも「確かにそうなんですよね」と認めつつ、「でも、もしあの時カギが閉まっていたら、学校なんてどうでもいいって、僕は思ったかもしれない」と振り返る。「社会がどんどんデジタルになっていく今、音声と画面だけの世界になりつつある。昔あったLPの手触りとか、においやノイズ……。寄り道もいっぱいあった。アナログの無駄と思われることがなくなっていくけれど、見落としていっちゃうことたくさんありますよね。それはどうなんだろうと、みんなに考えてほしい」
そうした現代社会に対する警鐘のようなものは、「どの章でも、バックボーンになっています」と、強調する。例えば、1988年、東京ディズニーランドが開演5周年を記念して企画し、7年半にわたり上演されたショー「ワン・マンズ・ドリーム」のエピソードだ。当時、彬良さんは26歳。30分のプログラムが完成に至るまでには、彬良さんが海を渡って演出家と曲のアイデアを練り上げ、その後の3カ月間、振り付けや舞台セット、衣装の発注が行われ、そしていよいよ50人のオーケストラが参加するレコーディングのために、彬良さんはスコア作りに寝る間を惜しんで時間を費やし、オーケストレーションを完成させる。そこには、ディズニーならではの「音楽優先」の姿勢、そして時間と制作費をふんだんに使ったショー作りの神髄がうかがえる。「今や、こんなショーなんて作れなくなっている。あの頃に戻そうと声高に言う気はないけれど、こんなことがあったんだよということは書き残しておきたかった」
こうした純粋でひたむきな音楽制作の舞台裏が明かされると、著書の中でたびたび強調される、「音楽の尊さ」にもうなずける。「音楽はみんなが思っているより、もっとも摩訶不思議で尊いもの。言葉にしちゃうと軽くなっちゃうけどね」と彬良さんは笑う。「作曲していると、こうも行けるけど、こうあるべきだという必然性を感じて、命の設計図を書いているような心境になる。父や母、人間関係を譜面にしたような音楽だなとも思う」「目に見えないものが一番大切だと思う。それは音であり、命や信頼関係もそうでしょう」――。彬良さんが力を込めて語る音楽の崇高さには、しっかり耳を傾ける必要がありそうだ。手のひらに収まるスマホ一台で音楽が簡単に聴ける時代だからこそ……。
もちろん、大ヒット曲『マツケンサンバⅡ』の制作秘話も明かされている。2021年のNHK紅白歌合戦でも披露されて話題になり、長く愛されているこの曲について、彬良さんは「この曲のお陰でぼくはやっと子供の頃から憧れていた『作曲家』というものになれた気がした」ともつづっている。その真意はどこにあるのだろう。
「父の作った曲を、国民みんなが知って楽しんでいるのを間近に見てきた僕としては、ヒット曲という価値観は、無視するわけにはいかなかった。父が稼いだ印税からピアノを買ってもらい、学費も出してもらう恩恵にあずかってきたわけだから。いい曲、美しい、よく出来ている、感動をさせるような曲、色々な価値観があるけど、そこには『世の中でヒットした曲』を付け加えないとフェアじゃない。それだけでハードルは何倍にも跳ね上がるけど、『僕は現代音楽の作曲家でヒット曲は書かなくていいんだ』というのも、逆に『僕はヒットメーカーだから音楽理論も歴史も知らなくていいんだ』というのも違うと思う。どっちかだけになっちゃうのが、僕はとても嫌なんですね」
いつも、何かと何かの間にいるのが、彬良さんのアイデンティティーだ。「芸術と芸能、関東と関西、子供と大人、ジャズとクラシックとかね」。そういえば、『マツケンサンバⅡ』も、和装の殿様がラテンのリズムでノリノリに踊るジャンルとジャンルの間にある不思議な一曲だ。また、松平健さんのレビューショウという限定された空間を飾るために作られながら、今や国民だれもが知る曲になっている。
書籍『「アキラさん」は音楽を楽しむ天才』
発売元:NHK出版
価格:1,650円(税込)
発売日:2022年3月25日
詳細はこちら
文/ 仁川清
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tagged: 書籍, インタビュー, 宮川彬良, 「アキラさん」は音楽を楽しむ天才
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