Web音遊人(みゅーじん)

孤高のバイオリニスト前橋汀子が贈る“ヴァイオリンの名曲でめぐるヨーロッパの旅”/秋のデイライト・コンサートVol.9

2022年に演奏活動60周年を迎える、日本を代表するバイオリニスト前橋汀子。クラシック音楽を知らずとも、その名はどこかで耳にしたことがあるだろう。
前橋は20年ほど前から、多忙な演奏活動と並行し、クラシック音楽普及のためのコンサート開催にも情熱を注いでいる。来る2022年11月11日(金)には、東京・池袋の東京芸術劇場のコンサートホールにおいて、その活動の一環である『秋のデイライト・コンサートVol.9』が開催される。映画音楽メドレーも交えたバラエティ豊かな内容で構成された今回の公演について前橋に話を聴いた。

クラシック音楽をもっと気軽に

10代で楽壇にデビューして以来、プロの演奏家としての道を一直線に歩み続けてきたバイオリニストの前橋汀子。演奏家としての輝きもさることながら、その凛とした存在感は楽器のジャンルを超え、数多くの後輩音楽家たちにも大きな影響を与えている。その一つのかたちが、年に一度自主的に企画している2つのコンサートシリーズだ。
現在はソロ活動の他にも、カルテット(弦楽四重奏)や数多くのオーケストラとの共演など、様々な演奏活動を展開しているが、中でも20年ほど前から始めたクラシック音楽普及のための『アフタヌーン・コンサート』や『デイライト・コンサート』と題された2つのコンサートシリーズにおいては、より多くのジャンルの演奏家たちや、クラシック音楽界の若き演奏家たちとも積極的にコラボレーションを展開している。長年にわたり、ソロ演奏家としてレコーディングや演奏活動で多忙を極めてきた前橋が、なぜこのような活動に心動かされたのかを尋ねてみた。
「ある日の夕方、我が家を訪れる友人を最寄り駅まで迎えに行ったんです。改札口まで行きましたら、ちょうどラッシュアワーと重なり、疲れた顔をして一心不乱に前を向いて歩く人々が堰を切るように流れ出てきたんですね。その時、『この中でいったい何人の方が生のバイオリンの音を聴いたことがあるのかしら……』という思いがふと頭をよぎりました。そして、このような方々にこそバイオリンの生の音色に触れて欲しいと感じたんです」
年に一度、6月か7月の土日祭日の午後のひとときに開催される『アフタヌーン・コンサート』。自らクラシック音楽の第一線に立ちながらも、「難しそうと思われてしまうクラシック音楽の演奏会を、もっと気軽に楽しめるものにできないか……」と、願い続けてきた前橋の思いそのものが実現したのだ。

チケットの価格は当初3,000円(2022年現在は3,500円)。当時のCD一枚と同じ料金で、「前橋汀子」というビッグネームの演奏会としては、破格の安価でもある。そして、この価格で都内有数の大ホールでの演奏会開催は容易なことではない。いかに前橋の情熱や周囲の理解や協力があってからこそ、いや、前橋がリードするからこそ実現可能だったのだろう。

自主コンサート企画第二弾『秋のデイライト・コンサート』

この一年に一度だけの“とっておき”の企画も地道に回数を重ね、2022年で18回目を迎えた。加えて、『デイライト・コンサート』という名の新たなコンサートシリーズも誕生。こちらは2022年11月11日(金)開催の演奏会で9回目を迎える。このコンサートシリーズでは、親しみやすいクラシックの名曲が前橋と共演者たちによって演奏されるのが恒例だ。『デイライト・コンサート』というタイトルの通り、午前中の11時半から1時間の設定。チケットも2,500円とさらにリーズナブルだ。
「東京芸術劇場のコンサートホールは音響も素晴らしく、1時間というコンパクトな時間の中で様々な曲やバイオリンの音色をお楽しみいただけたらと思い、“ヴァイオリンの名曲でめぐるヨーロッパの旅”というテーマをイメージして曲目を考えてみました」。9回目を迎える今回は、クライスラーのバイオリン作品をはじめ、エルガーの『愛の挨拶』やドヴォルザークの『ユーモレスク』、さらに弦楽カルテットやシンセサイザーを交えてのヴィヴァルディの協奏曲集『四季』から『冬』、そして、映画音楽のメドレーなど、盛りだくさんのプログラムだ。

思い入れのある池袋のコンサートホールで

前橋自身、幼少期から池袋を起点とする私鉄沿線に在住しており、現在のように池袋が東京の文化発信拠点の一つとして発展する以前から、この街の進化と変遷を見続けてきた。だからこそ、この街の劇場で演奏することに深い思い入れがあるのだという。
「池袋駅から地下道を介して演奏会場に直接行けるという立地もすばらしいことと思います。両方向に百貨店もありますし、地下の食品街でお買い物をするついでや、お友達とランチをするついでのような感覚で気楽に演奏会にお越しいただけましたら嬉しいです」
中でも、映画音楽メドレーの演奏で予定されている『ひまわり』のテーマ曲は、どうしても演奏したかったという。「ソフィア・ローレンとマルチェッロ・マストロヤンニのあの不朽の名作『ひまわり』のヘンリー・マンシーニによるテーマ曲ですが、映画が撮影されたあの辺りを実際に訪れたこともあり、とても感慨深いですね」
楽壇デビュー60年を迎え、数々の演奏会や録音に追われる中で、つねに日本のクラシック音楽の未来のために一石を投じ続けるバイオリニスト前橋汀子の情熱と心意気。そのあたたかな思いと言葉の一つひとつに込められた豊かなイマジネーションが、すでにこの一年に一回の“とっておきの”コンサートのプロローグであるかのようにも感じられた。

■前橋汀子 秋のデイライト・コンサート Vol.9
演奏活動60周年記念公演 ヴァイオリンの名曲でめぐるヨーロッパの旅


日時:2022年11月11日(金)11:30開演(10:30開場)
会場:東京芸術劇場 コンサートホール
料金:2,500円(税込・全席指定)
出演:前橋汀子(バイオリン)、松本和将(ピアノ)、丸山貴幸(シンセサイザー)、弦楽カルテット(森下幸路(コンサートマスター)、平山慎一郎(バイオリン)、小倉萌子(ビオラ)、門脇大樹(チェロ))
曲目:エルガー/愛の挨拶、クライスラー/ウィーン奇想曲、シャミナード(クライスラー編)/スペインのセレナード、クライスラー/中国の太鼓、モーツァルト/ヴァイオリン・ソナタ第18番 ト長調 KV.301より、ヴィヴァルディ/ヴァイオリン協奏曲集「四季」より『冬』、映画音楽メドレー(丸山貴幸編曲)/『ひまわり』『シェルブールの雨傘』『サウンド・オブ・ミュージック』ほか、プロコフィエフ(ハイフェッツ編)/「3つのオレンジへの恋」より行進曲、チャイコフスキー/感傷的なワルツ、ドヴォルザーク(クライスラー編)/ユーモレスク、ブラームス(ヨアヒム編)/ハンガリー舞曲第5番
詳細はこちら
オフィシャルサイトはこちら

オフィシャルFacebook オフィシャルTwitter

photo/ 篠山紀信

本ウェブサイト上に掲載されている文章・画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

facebook

twitter

特集

五嶋みどり

今月の音遊人

今月の音遊人:五嶋みどりさん「私にとって音楽とは、常に真摯に向き合うものです」

12740views

音楽ライターの眼

ホワイトスネイクが新編成ベスト三部作の完結編『ザ・ブルース・アルバム』を発表

1863views

“音を使って音楽を作る”音楽の冒険を「ELC-02」で

楽器探訪 Anothertake

音楽を楽しむ気持ちに届ける「ELC-02」のデザインと機能

7201views

トロンボーン

楽器のあれこれQ&A

初心者なら知っておきたい、トロンボーンの種類や選び方のポイント

11262views

今、注目の若き才能 ピアニスト實川風が ドラム体験レッスン!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】今、注目の若き才能 ピアニスト實川風が ドラム体験レッスン!

6663views

仁宮裕さん

オトノ仕事人

アーティストの音楽観を映像で表現するミュージックビデオを作る/映像作家の仕事

11464views

武満徹の思い「未来への窓」をコンセプトに個性的な公演を/東京オペラシティ コンサートホール:タケミツメモリアル

ホール自慢を聞きましょう

武満徹の思い「未来への窓」をコンセプトに個性的な公演を/東京オペラシティ コンサートホール:タケミツ メモリアル

10107views

Kitaraあ・ら・かると

こどもと楽しむMusicナビ

子どもも大人も楽しめるコンサート&イベントが盛りだくさん。ピクニック気分で出かけよう!/Kitaraあ・ら・かると

4453views

民音音楽博物館

楽器博物館探訪

16~19世紀を代表する名器の音色が生演奏で聴ける!

9319views

われら音遊人ー021Hアンサンブル

われら音遊人

われら音遊人:元クラスメイトだけで結成。あのころも今も、同じ思いを共有!

3770views

パイドパイパー・ダイアリー Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

楽器は人前で演奏してこそ、上達していくものなのだろう

6447views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

25661views

バイオリニスト石田泰尚が アルトサクソフォンに挑戦!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】バイオリニスト石田泰尚がアルトサクソフォンに挑戦!

10100views

武蔵野音楽大学楽器博物館

楽器博物館探訪

専門家の解説と楽器の音色が楽しめるガイドツアー

6469views

音楽ライターの眼

連載6[ジャズ事始め]大正バブルが日本でのジャズの普及を後押しした

2276views

オトノ仕事人

コンサートの音の責任者/サウンドデザイナーの仕事

9160views

われら音遊人

われら音遊人:大学時代の仲間と再結成大人が楽しむカントリー・ポップ

3137views

楽器探訪 Anothertake

26年ぶりにラインアップを一新!「長く持っても疲れにくい」を実現し、フラッグシップモデルが加わったバリトンサクソフォン

2518views

久留米シティプラザ - Web音遊人

ホール自慢を聞きましょう

世界的なマエストロが音響を絶賛!久留米の新たな文化発信施設/久留米シティプラザ ザ・グランドホール

15112views

パイドパイパー・ダイアリー Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

あれから40年、おかげさまで「音」をはずさなくなりました

3750views

楽器のあれこれQ&A

いまさら聞けない!?エレクトーン初心者が知っておきたいこと

18686views

東京文化会館

こどもと楽しむMusicナビ

はじめの一歩。大人気の体験型プログラムで子どもと音楽を楽しもう/東京文化会館『ミュージック・ワークショップ』

5666views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

21729views