今月の音遊人
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今月の音遊人:さだまさしさん「僕にとって音楽は、最高に好きなものであり、最強に嫌いなもの」
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2021.10.1
シンガー・ソングライターであり、小説家、そしてトークの達人。さだまさしさんに、音楽の原点や音に対する思いを存分に語っていただきました。
ポール・サイモンか加山雄三さんなんです、間違いなく。ポール・サイモンは、中学2年の時にサイモン&ガーファンクルの『サウンド・オブ・サイレンス』を聴いて「ギターってこんなに奥深い音がするんだ」と知り、ギターを弾きたいなと思ったんです。下宿先のお兄さんがギターを持っていたので、まず弾いたのが加山さんの『君といつまでも』。加山さんはもう、子供の頃からずうっと聴いているし、今でも聴きますし。たくさんありすぎて、一番聴いたのは何だろう?という感じですね。
『サウンド・オブ・サイレンス』を聴いたのは中学生の時だったので、どんな意味か知りたくて英和辞書を引いて「沈黙の音」だと知り衝撃を受けました。「沈黙っていう音があるんだ」って。それはもう、ポール・サイモンに無抵抗でストレートを食らった気持ちでした。それは歌を作る原体験になっていて、相当影響を受けてますね。それから、ポール・サイモンのソロも聴いて、アルバム『グレイスランド』まではしょっちゅう聴き返します。一番聴いているのは、『時の流れに』というアルバムかな。
最高に好きなものであり、最強に嫌いなものですね。意識している時の音と、意識していない時の音は、僕にとって敵か味方かというぐらい違います。音に囲まれて生活しているから、音楽に耳が反応しちゃうんですよ。例えば、ホテルのロビーで友達と真面目な話をしている時、音楽が流れていると話に集中できない。例えば、観光地に行って環境音楽が流れていると、帰りたくなる。だって、こんな美しい風景があって、波の音が聞こえて、風の音がして、鳥の歌が聞こえる――こんな音があふれた中で、なぜ人工の音を流すのか、悲しくなってくる。僕は30歳で初めてゴルフにはまったのですが、その理由は、音がないから。ゴルフ場ってね、作られた音がないんですよ。誰かがパーンと打った音、カサカサという木々の音が聞こえて、キャディーさんの「ファー」っていう声が時々する。パッティングをするグリーンでは静かにするのがマナーだから、シーンとする中で僕はゴルフ場をずうっと見ているの。それが、気のおけない仲間たちとプレイしている時だと、こんな平穏な時間があるんだ、と涙が出てくる。精神が解放されて、音からも解放されるんです。だからね、「観光地でしょうもない音楽を流すな運動」をしたことがあるの。
自然から刺激を受けて曲を作るかって?とんでもない。自然の音に勝るものはないですよ。
僕が常にやっていることですね。ミュージシャンは全員やってます。機会があったら『シラミ騒動組曲』を聴いてみてください。「ドレミファソラシ」だけで歌詞ができないか、と考えて作った曲です。そしてメロディーは歌詞と連動していて「虱 虱 そら虱(シラミ シラミ ソラシラミ)」って歌います。1曲書いたら、「2番は?」ってお客さんに言われてね。いや、ドレミファソラシだけで歌詞を決めてるから、歌詞が変わったらメロも変わって2番じゃないじゃん!って。だから「第2楽章」にしたの。「じゃあ3番は?」って言われて、第3楽章は、「ツェー・デー・エー・エフ・ゲー・アー・ハー(C・D・E・F・G・A・H)」と、ドイツ語音名も含めて作りましたよ。アレンジも含めて名作の組曲です。こういう遊びを日常的にやっています。やらなくなったら、ミュージシャンとして終わりです。『御乱心~オールタイム・ワースト~』というアルバムには、こんなふざけた曲ばかりが入っています。東京藝大の澤和樹学長は、『シラミ騒動組曲』に刺激を受けて、『さだまさしの名によるワルツ』(2020年発売のアルバム『存在理由~Raison d’etre~』に収録)を作ってくださいました。さだ(SADA)だから、「エス(Es=Eのフラット)・アー・デー・アー」でね。「Es・A」は中世に、悪魔の音程と言われたんです。こんなふうに、ミュージシャンはみんな、音で遊ぶ人ですよ。
さだまさし〔さだ・まさし〕
1952年、長崎県生まれ。3歳で始めたヴァイオリン修業のため、中学で単身上京し、下宿生活を送る。1973年にフォークデュオ、グレープとしてデビュー。『精霊流し』が大ヒットする。1976年にソロに転じてからも、『雨やどり』『関白宣言』『親父の一番長い日』『北の国から』など名曲を次々と世に送る。小説家としても『解夏』『眉山』などが高く評価される。トークも好評なコンサートは、約4500回に及ぶ。最新アルバムは「さだ丼~新自分風土記III~」。2021年10月27日には初のフォークソング・カバー・アルバム『アオハル 49.69』を発売する。2021年11月放送開始のNHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」に出演予定。
オフィシャルサイト
文/ 仁川清
photo/ 阿部雄介
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