Web音遊人(みゅーじん)

レ・フレール

20本の指から生まれる唯一無二の音楽。20周年記念アルバム『Timeless』/レ・フレールインタビュー

斎藤守也と斎藤圭土の兄弟ピアノデュオ「レ・フレール」。1台4手連弾という独創的なプレイスタイルを確立し、20本の指で1台のピアノと向き合い続けてきた。
2022年9月に結成20周年を迎え、その記念となるアルバム『Timeless』をリリース。20年の不変と変化が詰まった6枚目となるオリジナルアルバムが話題を呼んでいる。

ミュート奏法を積極的に取り入れた作品

20年前、横須賀で行われた「レ・フレール」の初ライブ。
「100人ちょっと入るライブハウスで、知り合いに声をかけて何とかいっぱいにしようというライブでしたね(笑)。それぞれがソロで演奏して、アンコールで連弾しました。そのころはまだ、連弾をする楽曲がなかったので即興です。今回のアルバムは、即興演奏をメインでやっていた当時の気持ちを思い出すような選曲にしました。原点に帰るようなアルバムになったと思います」
兄の守也はそう話す。
『Timeless』には、書下ろしの新作13曲が収録され、さまざまな試みが詰まっている。そのひとつとして、「レ・フレール」の特徴的な表現法であるミュート奏法を積極的に取り入れた。
アルバムタイトルでもあり、1曲目に据えられた『Timeless~時~』は圭土による作曲。時を刻む秒針をミュート奏法で表現し、その音はまるでメトロノームのようにノスタルジックだ。そして、2曲目の『Timeless~きせき~』へ。
「『時』が前奏曲で『きせき』が本編です。兄弟ふたりだけでは、到底ここまでたどり着けなかったですが、いろいろな人との出会いでやってこれたと痛感しています。奇跡の連続で支えられてきたという想いを表現したかったんです。逆戻りしていくような、未来に進んでいくようなタイムレスな雰囲気をつくりたいと思いました」

レ・フレール

兄の斎藤守也(写真左)と弟の斎藤圭土(写真右)

さらに、子どもたちが持っている光を表現したかったという『Stella』。どこかヨーロッパの香りが漂う『Dance in the Forest』。日常のささやかな幸せとともにこの曲がいてくれたら嬉しいと願った『Family』と圭土作曲の作品が続く。
守也作曲の『EagleⅡ』は、ミュート奏法を代表する曲でもあり、思い入れが深いという『Eagle』(デビューアルバム『PIANO BREAKER』収録)の第2弾。そして、『NBAYEH』では、初めて全編をミュート奏法で挑んだ。
「ミュートで弾いているといろんな景色が浮かんできて、ひとつの国では収まらないと感じるようになってきたんです。だったら一曲のなかに色々入れてしまえ!と思ってつくったのがこの曲です。スケールが定まっていないので無国籍だけどグローバル、そんな雰囲気の曲ではないかと思います」
ところで、『NBAYEH』とは?
「意味はありません(笑)。音楽の原点ではないですけれど、アフリカっぽいタイトルにしたというか。もともとは息子が歌うように言っていた言葉で、それをそのままタイトルにしました。ふざけたようで実は一番苦労した曲でもあります(笑)」
さらに『Cobrette』では、初の試みとして、ピアノ椅子をパーカッションのように奏で、ピアノサウンドと融合させた。こちらもタイトルは造語。続く『COBRA』の前奏曲なのでアリエッタ(=小さなアリア、小品)の意味だと笑う。
「20年前にレゲエバンドをやっていたので、それを思い出す意味でも」と選んだのは、陽気でレゲエやスカの要素を含んだ『MAMMAWEH-A!』。そして『HAC』に至っては8分の9拍子(はっく)にちなんだタイトルにしたというから、ここにも遊び心を忍ばせる。
20年の時を重ねたふたりの魅力が光る楽曲が続き、アルバムの最後は背中を押してくれるような華やかなメロディラインが印象的な『Victory』。その最後には『Timeless~時~』と同じ秒針音が再び用いられ、タイムレスな世界へと誘う。
これほどに唯一無二のアイディアに満ちながらも、「今回作品をつくって思ったのですが、連弾はまだまだ可能性があるジャンル」(圭土)というから、その広がりはエンドレスだ。

ニューアルバムを引っ提げたスペシャルな公演も開催

新作を引っ提げてのコンサートも行われる。公演は、2022年10月22日(土)Bunkamuraオーチャードホールで開催。「アルバムの内容をそのまま体感できるライブにしたい」(守也)と今作全編を届けるほか、これまでの代表曲も演奏する予定だという。
「今回のアルバムには、他の楽器を入れているんじゃないかと思うほど違う音が入っていますが、僕たちはピアノ1台にこだわって20年間やってきました。コンサートでは、こうやって弾いていたんだという答え合わせができると思います」(圭土)
ところで、「レ・フレール」が得意とする内部奏法は、いつでもどのピアノでも可能なわけではない。
「内部奏法NGのピアノが多く、たとえOKなピアノがあったとしても、ミュート奏法はベーゼンドルファーの低音域があってこそ気持ちいい音が出せるんです。今回の公演はベーゼンドルファーさんの協力で内部奏法を披露しますので、結構レアな公演になりそうです」(圭土)
20本の指から生まれる唯一無二の、そして一夜限りの音に期待が高まる。

■インフォメーション

アルバム『Timeless』

レ・フレール
発売元:ユニバーサルミュージック
発売日:2022年8月24日
価格:3,300円(税込)
詳細はこちら

レ・フレール結成20周年記念ピアノコンサート Timeless

日時:2022年10月22日(土)17:00開演(16:00開場)
会場:Bunkamura オーチャードホール
料金:一般 6,500円/小中学生 3,500円(税込・全席指定)
詳細はこちら
オフィシャルサイトはこちら

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photo/ 阿部雄介

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