Web音遊人(みゅーじん)

今月の音遊人:大塚 愛さん「私にとって音は生き物。すべての音が動いています」

2003年のデビュー以来、「さくらんぼ」「プラネタリウム」をはじめ数々のヒット曲を送り出し、近年はさらに深みを増した境地を聴かせているシンガーソングライター、大塚 愛さん。ピアノで弾き語りをすることも多い大塚さんに、理想の音について、ピアノについて、自身の音楽についてなどを率直に語っていただきました。

Q1.これまでの人生の中で、一番多く聴いた曲は何ですか?

私の曲ってどれもテイストがバラバラで一貫性がないのですが、それは私が人生の中で「これだけを聴いてきた」と言えるものがないからなんだと思います。小さい頃からクラシック、ボサ・ノヴァ、ポップス、インストゥルメンタルなどさまざまな音楽をまんべんなく聴いてきましたが、ひとつのジャンルやアーティストに熱中することはあまりありませんでした。そのかわり、嫌いなジャンルもありません。ヒップホップもレゲエも好きです。
憧れのアーティストは松任谷由実さんや桑田佳祐さん。とくに桑田さんはじーんとくる深い曲を歌う一方で、意味のわからないおちゃらけた曲を歌う、その幅の広さが、おこがましいですけれども自分に似ているなと。自分の中のこうなりたいという部分では、桑田さんを目指しているのかもしれません。きっと「大塚 愛はこういう人だ」って、ひとつのイメージに決めつけられたくないという気持ちが強いのでしょうね。

Q2.大塚さんにとって「音」や「音楽」とは?

私は、歌うときも楽器を演奏するときも、頭の中で音を「アニメ化」しています。ひとつひとつの音がすべてアニメーションみたいに動くので、「ここは円を描くように」「そこでターンするように」などとイメージしながら歌うんです。ですから、私にとって「音」は生き物ですね。ちゃんと弾けているのに、なぜか楽しく感じられないときは、音に心臓が入っていない、生き物がちゃんと動いていない状態。生きているからこそ、たとえ演奏がちょっと不器用でも、どこか惹かれて、聴く人の心にぐっと伝わるものがあるのかなと思います。
子どもの頃に習っていたピアノの先生に、「愛ちゃんより上手に弾ける人はおそろしいほどたくさんいるけど、いちばんうまく弾ける人の演奏が素晴らしいかというと、私はそうは思わない。完璧に楽譜を再現して弾きこなしても、音に面白さがないと感動しないのよ。でも愛ちゃんのピアノはすっごいヘタクソだけど、なにか伝わってくるものがあるの。それがあなたのいちばんの武器よ」と言われたことを今でも憶えています。まったく練習しない子だったので(笑)。
また、自分にとっての「音楽」という話ですが、学生の頃は音楽をどうやって仕事にしていくかを考え、いろいろ試行錯誤していました。歌でプロになれないならインストゥルメンタル音楽を作る人になろうとか、ほかのアーティストに楽曲提供をして食べていこうとか……。その過程で、自分のやりたい音楽だけを追求して突っ走るのは趣味の部分でやればいいと線を引いたんですね。ですから、プロとして活動するからには人に求められるものを出さなければいけないという思いが、メジャーデビュー当時はとくに強くありました。そういった縛りから解放されたのは、ここ数年のことです。

Q3.「音で遊ぶ人」と聞いてどんな人を想像しますか?

ジャズピアニストの上原ひろみさんの演奏を聴いたときに、「すごいな、この人!」と思いました。音は生き物だとお話ししましたが、上原さんの音はひとつひとつにキャラクターがあって、まるで小人のようにピアノの鍵盤の上でぴょんぴょん飛び跳ねて、遊んでいるんです。まさに「音で遊ぶ人」ですよね。彼女のピアノはいつも「しゃべっている」ような感じがするので、ピアノという名の会話マシーンなのではないかと。
ちなみに自分にとってのピアノも似たような存在で、なにか曲のイメージが頭に浮かんだとき、一度ピアノで弾いて、その音源をアレンジャーさんに渡しています。本当は頭にコードを直接つないで、浮かんだイメージをビビッと譜面や音源に移行できればいいのですが、現代の技術はまだそこまで追いついていませんからね。そういった意味でも、ピアノは自分の表現を伝える大切なツールです。

大塚 愛〔おおつか・あい〕
1982年生まれ、大阪府出身のシンガーソングライター。15歳から作詞・作曲をはじめ、2003年9月にシングル「桃ノ花ビラ」でメジャーデビュー。同年12月にリリースしたセカンド・シングル「さくらんぼ」が大ヒットを記録し、以降も「プラネタリウム」「SMILY」など数々のヒット曲を世に送り出す。2019年に、デビュー15周年記念オールタイム・ベストアルバム『愛 am BEST, too』をリリース。近年では日本のみならずアジアにも活動の場を広げている。2020年3月には自身初の楽譜付きピアノ弾き語りアルバム『Aio Piano Arioso(アイオピアノアリオーソ)』をリリース。イラストレーター、絵本作家、楽曲提供など、クリエイターとしてマルチな才能を発揮している。
オフィシャルサイトはこちら

特集

nokkoさん

今月の音遊人

今月の音遊人:NOKKOさん「私の歌詞の原点は、ユーミンさんと別冊マーガレット」

18728views

音楽ライターの眼

連載8[ジャズ事始め]“天下の台所”が呼び込んだ“ジャズで踊る”という最先端の流行

3063views

楽器探訪 - ステージア「ELC-02」

楽器探訪 Anothertake

持ち運び可能なエレクトーン「ELC-02」、自由な発想でカジュアルに遊ぶ

32177views

大人のピアニカ

楽器のあれこれQ&A

「大人のピアニカ」の“大人”な特徴を教えて!

3935views

今、注目の若き才能 ピアニスト實川風が ドラム体験レッスン!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】今、注目の若き才能 ピアニスト實川風が ドラム体験レッスン!

9013views

ステージマネージャーの仕事 - Web音遊人

オトノ仕事人

オーケストラのステージの“演奏以外のすべて”を支える/オーケストラのステージマネージャーの仕事(前編)

44063views

音の粒までクリアに聴こえる音響空間で、新時代へ発信する刺激的なコンテンツを/東京芸術劇場 コンサートホール

ホール自慢を聞きましょう

音の粒までクリアに聴こえる音響空間で、刺激的なコンテンツを発信/東京芸術劇場 コンサートホール

12842views

こどもと楽しむMusicナビ

親子で参加!“アートで話そう”をテーマにしたオーケストラコンサート&ワークショップ/第16回 子どもたちと芸術家の出あう街

5763views

武蔵野音楽大学楽器博物館

楽器博物館探訪

専門家の解説と楽器の音色が楽しめるガイドツアー

8770views

われら音遊人:クラノワ・カルーク・ オーケストラ

われら音遊人

われら音遊人:同一楽器でハーモニーを奏でる クラリネット合奏団

8553views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

泣いているのはどっちだ!?サクソフォン、それとも自分?

6204views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

10589views

大人の楽器練習機

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:世界的ピアニスト上原彩子がチェロ1日体験レッスン

17891views

浜松市楽器博物館

楽器博物館探訪

見るだけでなく、楽器の音を聴くこともできる!

14386views

音楽ライターの眼

なぜカプースチンは、東西冷戦のソ連でジャズよりもジャズらしい曲を作れたのか?

9160views

松石陽介さん

オトノ仕事人

「音楽の輪・人の和」を大切にして、子どもたちを健やかに育てる/地域バンドをまとめる仕事

526views

ギグリーマン

われら音遊人

われら音遊人:誰もが聴いたことがあるヒット曲でライブに来たすべての人を笑顔に

2512views

楽器探訪 Anothertake

奏者の思いどおりに音色が変化する、豊かな表現力を持ったグランドピアノ「C3X espressivo(エスプレッシーヴォ)」

9657views

久留米シティプラザ - Web音遊人

ホール自慢を聞きましょう

世界的なマエストロが音響を絶賛!久留米の新たな文化発信施設/久留米シティプラザ ザ・グランドホール

19922views

パイドパイパー・ダイアリー

こうしてわたしは「演奏が楽しくてしょうがない」 という心境になりました

8796views

楽器のあれこれQ&A

目指せ上達!アコースティックギター初心者の練習方法とお悩み解決

101950views

こどもと楽しむMusicナビ

“アートなイキモノ”に触れるオーケストラ・コンサート&ワークショップ/子どもたちと芸術家の出あう街

7184views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

10589views