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サンタナ

サンタナ、スピリチュアルな旅路の出発地。『キャラバンサライ』50周年エディション発売

サンタナが1972年に発表したアルバム『キャラバンサライ』の50周年記念SA-CDマルチ・ハイブリッド・エディションが2022年11月に発売されて話題を呼んでいる。

1969年に伝説の“愛と平和の祭典”ウッドストック・フェスティバルへの出演を経てアルバム『サンタナ』が全米チャート4位獲得という鮮烈なデビューを飾る。カルロス・サンタナの官能的なリード・ギターと情熱のラテン・ロックが絶大な支持を得て、続く『天の守護神』(1970)と『サンタナIII』(1971)が連続して全米1位ヒット。そんな勢いに乗って発表された4作目のアルバムが『キャラバンサライ』だ。

インストゥルメンタル・パートとアンビエンスを強化、ジャズやプログレッシヴのフレイヴァーも加えた作風の本作はヒット・シングルを生まなかったせいもあってか、過去作ほどのセールスは達成しなかったが、それでも全米8位と、申し分ない成功を収めている。冴えわたるギターと煽情的なパーカッションがお互いを高め合う演奏をサンタナのオールタイム・ベストに挙げるファンも少なくない、真のクラシック・アルバムだ。

本作発表後の1973年6~7月に行われた日本公演からライヴ・アルバム『ロータスの伝説』(1974)が生まれたこともあり、日本のファンにとってスペシャルな作品でもある。

さらに『キャラバンサライ』で特筆すべきなのは、カルロスの精神性が前面に押し出されるようになったことだ。それ以前からスピリチュアリティに深い関心を持ち、ジョン・コルトレーンの東洋思想への傾倒から影響を受けてきたという彼だが、本作ではLPジャケット見開きでインドの導師パラマハンサ・ヨガナンダのメッセージを引用。1曲目のタイトルも“転生の永遠の旅団”を意味する『Eternal Caravan of Reincarnation』だったりする。彼が自らの内面を掘り下げることで、そのギターはさらにエモーショナルなものへと昇華されている。

そして本作発表と前後して1972年の秋頃、カルロスはジョン・マクラフリンの紹介でシュリ・チンモイと出会い、師事することに。インド出身でニューヨークを活動拠点とする導師のシュリはカルロスにホーリー・ネームとして“神の灯りと瞳”を意味するデヴァディップを与えている。

シュリについて「思想のハーヴァード大学。自分は幼稚園児」と語り、ジョンとのコラボレーション・アルバム『魂の兄弟たち』(1973)ではシュリがジャケットにメッセージを寄せるなど心酔しきっていたカルロスだが、彼がゲスト出演したイベントが“サンタナのコンサート”として宣伝されていたり、同時に入信した奥さんがベジタリアン・レストランを開店させられたり45マイル(約72キロメートル)長距離走の大会に出場させられるなど、徐々に疑問を抱くようになった。決定打となったのは1981年、テニス選手のビリー・ジーン・キングが同性愛をカミングアウトしたことをシュリが非難したことだった。カルロスは「愛の形は自由であるべきだ」と主張、決別に至っている。

ただ、シュリとの交流は決して無駄ではなかった。カルロスの音楽においてスピリチュアリティは現在に至るまで重要な位置を占めている。また、彼がドラマーでプロデューサーのナラダ・マイケル・ウォルデンと知り合ったのもシュリを介してだった。2022年、ナラダのポッドキャストに出演したカルロスは、シュリがナラダを「暑い日に壊れた消火栓のような人物。水が勢いよく噴き出して、みんな駈け寄ってきてはしゃぐんだ」と表現したと明かしている。

カルロスの音楽はもちろん、彼との対話もまた、ひとつのスピリチュアルな経験だ。筆者(山崎)とのインタビューにおいて、彼は自らを“スピリチュアル・ウォリアー(戦士)”と定義していた。

「スピリチュアルな戦士とは、15個の条件を持ち備えている人間のことをいう。“美”、“品”、“優”、“雅”、“尊厳”、“魂”、“心”、“精神”、“肉体”、“生命”、“生粋”、“正直”、“誠実”、“真実”、“本質”だ。私は戦争を否定する。偉大な戦士になるためには、他者を殺傷するのではなく、己を高めていく必要があるんだ。ジミ・ヘンドリックスやスティーヴィ・レイ・ヴォーンは、ギターを手にした戦士だった。私が戦士かどうかは、第三者が判断してくれればいい。ただ私は、その15個の条件を持ち備えようと常に心がけているよ」

さらに興味深かったのは、カルロスが日本語の“TAMASHII(魂)”という言葉を知っていたことだ。彼は「とても美しく、それでいて力強い言葉だと思う」と語っていた。

1947年生まれのカルロスは2022年で75歳となった。2021年12月には心臓の治療で入院、2022年7月にはステージ上で脱水症状を起こすなど、健康問題でファンを心配させたが、無事復帰。ラスヴェガスの“ハウス・オブ・ブルース”でのレジデンシー・ライヴも成功させている。

彼のスピリチュアルな旅路は続いていく。『キャラバンサライ』は、その出発地として扉を大きく開け放った歴史の転換点なのだ。

アルバム『キャラバンサライ―SA-CDマルチ・ハイブリッド・エディション―』


発売元:ソニーミュージック
発売日:2022年11月30日
価格:4,850円(税込)
詳細はこちら

山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,000以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
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