Web音遊人(みゅーじん)

伊藤亮太郎 弦楽アンサンブル

N響コンサートマスターと6人の名手ならではの極上のアンサンブル/伊藤亮太郎 弦楽アンサンブル

難関チャイコフスキー国際コンクールでディプロマ賞を獲得したのが1994年だから、いつの間にやら30年近く。“彼”とその仲間たちは、もはや若手ではなく、中堅でもなく、クラシック音楽界をど真ん中で支える中核と改めるべきなのだろう。
2015年からNHK交響楽団のコンサートマスターを務める“彼”こと伊藤亮太郎と、その“彼”と気心が知れ、音楽的にも絶大な信頼を寄せる名手たちによる人気シリーズの最新回が、2023年2月6日にヤマハホールにて開催された。

緻密なアンサンブルで味わう4つの傑作曲

2018年にスタートしたこのシリーズは、伊藤、横溝耕一(以上バイオリン)、柳瀬省太、大島亮(以上ビオラ)、横坂源、辻本玲(以上チェロ)という日本有数のオーケストラ首席奏者やソリストが毎回集う固定メンバー。だが今回は、編成上の関係からコントラバスの西山真二も加わった7名で行われた。

この日の演目は、19世紀後半から20世紀に書かれた4つの傑作。

「ロシア5人組」の一人で医者でもあったボロディンの初期作品にあたる弦楽六重奏曲は、全4楽章で構想された前半の2つの楽章だけが現在に伝わる。ロシア風のメランコリックな曲想が特長だが、この日、6つの弦楽器の繊細で見通しのよい緩急から生まれた美しい対話の数々は、彼らの阿吽の呼吸の賜物だった。

伊藤亮太郎 弦楽アンサンブル

同じくロシアの人気作曲家チャイコフスキーからは、『フィレンツェの思い出』を演奏。極寒の地に生まれた作曲者が、仕事で滞在したイタリアの風光明媚に触れた際の感動が瑞々しく綴られた傑作を、6人はそれぞれソリストのように秀麗に歌い上げてみせる。だが、そこではオーケストラ在籍者が多いこともあってか、アンサンブルとしての緻密さと抑制が決して失われないのもみごとだった。

そして、ドイツの巨匠リヒャルト・シュトラウスからは、『弦楽六重奏のためのカプリッチョ』と『メタモルフォーゼン』の2曲が披露された。前者は、作曲者の最後のオペラにあたる『カプリッチョ』の冒頭を飾る前奏曲。ワーグナーを想わせる濃密な歌と重厚なアンサンブルで編まれているが、この日の6人は前述の2曲同様に過度な歌い回しを避けながら、良い意味で中庸の美を追求してゆく。

伊藤亮太郎 弦楽アンサンブル

この行き方は、西山が加わった後者においても徹底。曲名「メタモルフォーゼン=変容」が示すように、合奏曲よりも各楽器のソロ的な動きに重きを置いた構成で、本来は23もの楽器によって演奏される難曲だが、音楽の縦と横の動きが双方において緻密を極めていたのが本当に素晴らしかった。また、今回が初出演ながら、そこで違和感をまったく感じさせなかった西山の妙技にも拍手。古今の作品に弦楽七重奏曲は少ないが、何らかの形で再びこの7人で聴いてみたい。そう強く願わずにはいられなかった。

伊藤亮太郎 弦楽アンサンブル

 

渡辺謙太郎〔わたなべ・けんたろう〕
音楽ジャーナリスト。慶應義塾大学卒業。音楽雑誌の編集を経て、2006年からフリー。『intoxicate』『シンフォニア』『ぴあ』などに執筆。また、世界最大級の音楽祭「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン」のクラシックソムリエ、書籍&CDのプロデュース、テレビ&ラジオ番組のアナリストなどとしても活動中。

photo/ Ayumi Kakamu

本ウェブサイト上に掲載されている文章・画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

facebook

twitter

特集

今月の音遊人

今月の音遊人:由紀さおりさん「言葉の裏側にある思いを表現したい」

8496views

音楽ライターの眼

【ジャズの“名盤”ってナンだ?】#004 東西の人気者たちが合体して誕生したモダンジャズの傑作~『アート・ペッパー・ミーツ・ザ・リズム・セクション』編

2665views

豊かで自然な音と響きを再現するサイレントバイオリン「YSV104」

楽器探訪 Anothertake

アコースティックの豊かで自然な音色に極限まで迫る、サイレントバイオリン™「YSV104」

14140views

初心者必見!バンドで使うシンセサイザーの選び方

楽器のあれこれQ&A

初心者必見!バンドで使うシンセサイザーの選び方

25863views

脱力系(?)リコーダーグループ栗コーダーカルテットがクラリネットの体験レッスンに挑戦!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】脱力系(?)リコーダーグループ栗コーダーカルテットがクラリネットの体験レッスンに挑戦!

12233views

コレペティトゥーアのお仕事

オトノ仕事人

高い演奏技術と幅広い知識で歌手の表現力を引き出す/コレペティトゥーアの仕事(前編)

23837views

HAKUJU HALL(白寿ホール)

ホール自慢を聞きましょう

心身ともにリラックスできる贅沢な音楽空間/Hakuju Hall(ハクジュホール)

27509views

日生劇場ファミリーフェスティヴァル

こどもと楽しむMusicナビ

夏休みは、ダンス×人形劇やミュージカルなど心躍る舞台にドキドキ、ワクワクしよう!/日生劇場ファミリーフェスティヴァル2022

4627views

民音音楽博物館

楽器博物館探訪

16~19世紀を代表する名器の音色が生演奏で聴ける!

13814views

ざぶとんず

われら音遊人

われら音遊人:本家ディアマンテスが認めた 力強く、心躍るサウンド!

1400views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

音楽知識ゼロ&50代半ばからスタートしたサクソフォンのレッスン

9117views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

28583views

おとなの 楽器練習記 須藤千晴さん

おとなの楽器練習記

【動画公開中】国内外で演奏活動を展開するピアニスト須藤千晴が初めてのギターに挑戦!

9772views

武蔵野音楽大学楽器博物館

楽器博物館探訪

世界に一台しかない貴重なピアノを所蔵「武蔵野音楽大学楽器博物館」

25551views

【クラシック名曲 ポップにシン・発見】(Phase27)バルトーク「2台のピアノと打楽器のためのソナタ」、エスノの抽象化とトーキング・ヘッズ

音楽ライターの眼

【クラシック名曲 ポップにシン・発見】(Phase27)バルトーク「2台のピアノと打楽器のためのソナタ」、エスノの抽象化とトーキング・ヘッズ

3826views

オトノ仕事人

最適な音響システムを提案し、理想的な音空間を創る/音響施工プロジェクト・リーダーの仕事

3179views

われら音遊人

われら音遊人:路上イベントで演奏を楽しみ地域活性にも貢献

4648views

楽器探訪 Anothertake

目指したのは大編成のなかで際立つ音と響き「チャイム YCHシリーズ」

13497views

水戸市民会館

ホール自慢を聞きましょう

茨城県最大の2,000席を有するホールを備えた、人と文化の交流拠点が誕生/水戸市民会館 グロービスホール(大ホール)

12060views

山口正介さん Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

いまやサクソフォンは趣味となったが、最初は映画音楽だった

7604views

日ごろからできるピアノのお手入れ

楽器のあれこれQ&A

日ごろからできるピアノのお手入れ

71776views

Kitaraあ・ら・かると

こどもと楽しむMusicナビ

子どもも大人も楽しめるコンサート&イベントが盛りだくさん。ピクニック気分で出かけよう!/Kitaraあ・ら・かると

7546views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

35458views