Web音遊人(みゅーじん)

絆の極み ~さだまさしと渡辺俊幸の半世紀~

深い“絆”によってお互いを支えてきた、さだまさしと渡辺俊幸の50年を振り返る一冊

『絆の極み ~さだまさしと渡辺俊幸の半世紀~』は、その副題が物語っているように、それぞれが稀代の音楽家として名を成しているさだまさしと渡辺俊幸の足跡を、“絆”という視点から振り返ったドキュメント作品だ。

著者と渡辺俊幸の出会いから生まれた企画

ライブ数通算4500回を超える記録を持つシンガー・ソングライターのさだまさしと、NHK大河ドラマ「利家とまつ~加賀百万石物語」テレビドラマ「オレゴンから愛」など、多くのドラマや映画音楽を手掛ける渡辺俊幸に深い結びつきがあることを意外に感じる人もいるかもしれない。
本書は、渡辺を20年以上にわたって取材し、信頼を得てきたジャーナリストのルーシー原納(原納暢子)が渡辺との交流を深める中で、彼とさだの半世紀におよぶ“絆”を知ることで生まれたという。
「私は、渡辺俊幸さんのことを親しみを込めてナベ先生とお呼びしています。ナベ先生とは『利家とまつ』が放送された2002年頃に取材で知り合い、それからお会いする機会が増えていったんです。そのなかで、ナベ先生がさださんをソロデビューに導いたことや、長く一緒に仕事をされているということを伺って面白いなと思い、そこから二人のことを本にまとめようと考え始めました」(原納)

本書は、彼らの生い立ちから出会い、そして今日まで育まれてきた“絆”を、本人たちの言葉と著者の考察によってたどっていくのだが、二人のどちらが主ということでなく、それぞれの個性を浮き上がらせつつ、彼らの関係がバランスよく描かれている印象だ。また、あらためて二人の関係を知るだけでなく、さだの音楽をより深く味わうための興味深い示唆にも満ちている。

「私がナベ先生と出会ったのが20年くらい前で、さださんとの企画を考え始めたのが7〜8年前くらいからなので、けっこう長いあいだキャッチボールしながら進めて、2022年11月にようやく発刊できました」(原納)

困難を乗り越えて続く50年の“絆”

1973年、グレープというフォークデュオでデビューしたさだは、渡辺がドラマーとして参加していたバンド、赤い鳥と同じ事務所に所属し、そこで二人は出会う。1976年にグレープを解散したさだは、渡辺に新たなバンドを一緒につくろうと提案するが、渡辺は「まさしはソロデビューするべきで、自分はプロデューサーとして支援していく」と説得。さだはソロアーティストとしての活動をスタートすることとなる。さだのソロデビューは成功するが、彼らの活動は必ずしも順風満帆には進まなかった。さだの音楽性を高いレベルで作品として表現していくために、音楽家としてさらに成長する必要を痛感した渡辺はボストンのバークリー音楽大学に留学する。
「ナベ先生が、“まさしの音楽は将来的にはもっとオーケストレーションが必要なものになっていく。そのためには、自分が本格的に学ぶ必要がある”と考えて、アメリカ留学のために仕事を休止することを決意したことも、それを受け入れたさださんもすごいと思うんです」(原納)
しかし、渡辺の留学中にさだは映画『長江』で巨額の借金を抱え、返済に奔走せざるを得なくなる。そんな苦難、鍛錬の時期をそれぞれが別に歩みながらも、彼らの“絆”は切れることなく、さまざまな形で花を咲かせていく。
本書では、それぞれの“思い”にていねいに焦点を絞って、その時その時の足跡を蘇らせていく。
「紆余曲折ある中で、半世紀近く一緒に音楽をつくっているということは大変なことです。けれど、本人たちはそれをすごいとも思っていない。自分の軸足をもったうえで、お互いに相手の求めているものにプラスで応えるようにしながら、今日まで続いているのが素晴らしいなと思います」(原納)

さだと渡辺は深い“絆”によってお互いを支えてきた。けれどその“絆”は、お互いのことを思い、その思いにそれぞれが応えようとしてきた結果であり、決して打算の産物ではないことを本書は教えてくれる。
さらに、一つ一つの文章は短く簡潔にまとめられていて読みやすく、タイトルには「情意投合」「七転八起」など、テーマに沿った四字熟語がキャッチとして付けられる遊び心も楽しい。
「二人の関係は商業的に成功するためのものではないので、ビジネス書のような構成にするのは違和感がありました。それで、時系列に沿って話を進めながら、“二人の関係を客観的に見たときに、こういうことは言えそうだ”という四字熟語をタイトルに入れていったら、二人の“絆”のあり方に興味をもってもらえるのではと思ったのです。読者が、ご自身といろいろな方との関係や“絆”を考える機会に、“さださんたちはこうだよね”と少し参考にしてもらえるとうれしいです」(原納)
彼らのような“絆”は簡単につくれるものではないだろう。けれど、そのあり方を自分の生き方と重ね合わせてみることも、本書を読む意義の一つかもしれない。

■書籍『絆の極み ~さだまさしと渡辺俊幸の半世紀~』

著者:ルーシー原納
価格:1,870円(税込)
発売元:全音楽譜出版社
詳細はこちら

特集

岩崎宏美さん

今月の音遊人

今月の音遊人:岩崎宏美さん「中学生のころ、マイケル・ジャクソンと結婚したいと思っていたんですよ」

9903views

音楽ライターの眼

【ジャズの“名盤”ってナンだ?】#009 ビジネスの“ひと悶着”から生まれたキメキメなジャズの極致~マイルス・デイヴィス『クッキン』編

485views

CLP-600シリーズ

楽器探訪 Anothertake

強弱も連打も思いのままに、グランドピアノに迫る弾き心地の電子ピアノ クラビノーバ「CLP-600シリーズ」

42730views

知って得する!木製楽器の お手入れ方法

楽器のあれこれQ&A

木製楽器に起こりやすいトラブルは?保管やお手入れで気を付けること

19694views

大人の楽器練習記:クラシック・サクソフォン界の若き偉才、上野耕平がチェロの体験レッスンに挑戦

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:クラシック・サクソフォン界の若き偉才、上野耕平がチェロの体験レッスンに挑戦

10163views

オトノ仕事人

深く豊かなクラシックの世界への入り口を作る/音楽ジャーナリストの仕事

3875views

ホール自慢を聞きましょう

地域に愛される豊かな音楽体験の場として京葉エリアに誕生した室内楽ホール/浦安音楽ホール

8697views

日生劇場ファミリーフェスティヴァル

こどもと楽しむMusicナビ

夏休みは、ダンス×人形劇やミュージカルなど心躍る舞台にドキドキ、ワクワクしよう!/日生劇場ファミリーフェスティヴァル2022

2042views

民音音楽博物館

楽器博物館探訪

16~19世紀を代表する名器の音色が生演奏で聴ける!

10284views

われら音遊人

われら音遊人

われら音遊人:仕事もバンドも、常に真剣勝負!

8942views

パイドパイパー・ダイアリー Vol.3

パイドパイパー・ダイアリー

人生の最大の謎について、わたしも教室で考えた

4718views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

23313views

おとなの楽器練習記

【動画公開中】注目の若手ピアニスト小林愛実がチェロのレッスンに挑戦!

8631views

武蔵野音楽大学楽器博物館

楽器博物館探訪

世界に一台しかない貴重なピアノを所蔵「武蔵野音楽大学楽器博物館」

20510views

音楽ライターの眼

連載48[ジャズ事始め]“アジア”から“江戸”へと回遊を始めた21世紀初頭の日本のジャズ

1122views

オトノ仕事人

テレビ番組の映像にBGMや効果音をつけて演出をする音の専門家/音響効果の仕事

794views

われら音遊人:音楽仲間の夫婦2組で結成、深い絆が奏でるハーモニー

われら音遊人

われら音遊人:音楽仲間の夫婦2組で結成、深い絆が奏でるハーモニー

6260views

楽器探訪 Anothertake

ナチュラルな響きと多彩な機能で電子ドラムの可能性を広げる、新たなフラッグシップモデルDTX10/DTX8シリーズ

3757views

グランツたけた

ホール自慢を聞きましょう

美しい歌声の響くホールで、瀧廉太郎愛にあふれる街が新しい時代を創造/グランツたけた(竹田市総合文化ホール)

6150views

サクソフォン、そろそろ「テイク・ファイブ」に挑戦しようか、なんて思ってはいるのですが

パイドパイパー・ダイアリー

サクソフォンをはじめて10年、目標の「テイク・ファイブ」は近いか、遠いのか……。

7156views

楽器のあれこれQ&A

目的別に選ぼう電子ピアノ「クラビノーバ」3シリーズ

1876views

Kitaraあ・ら・かると

こどもと楽しむMusicナビ

子どもも大人も楽しめるコンサート&イベントが盛りだくさん。ピクニック気分で出かけよう!/Kitaraあ・ら・かると

5204views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

27163views