今月の音遊人
今月の音遊人:櫻井哲夫さん「聴いてくれる人が楽しんでくれると、自分たちの楽しさも倍増しますね」
4564views
深い“絆”によってお互いを支えてきた、さだまさしと渡辺俊幸の50年を振り返る一冊
この記事は4分で読めます
1409views
2023.6.22
tagged: ルーシー原納, 絆の極み ~さだまさしと渡辺俊幸の半世紀~
『絆の極み ~さだまさしと渡辺俊幸の半世紀~』は、その副題が物語っているように、それぞれが稀代の音楽家として名を成しているさだまさしと渡辺俊幸の足跡を、“絆”という視点から振り返ったドキュメント作品だ。
ライブ数通算4500回を超える記録を持つシンガー・ソングライターのさだまさしと、NHK大河ドラマ「利家とまつ~加賀百万石物語」テレビドラマ「オレゴンから愛」など、多くのドラマや映画音楽を手掛ける渡辺俊幸に深い結びつきがあることを意外に感じる人もいるかもしれない。
本書は、渡辺を20年以上にわたって取材し、信頼を得てきたジャーナリストのルーシー原納(原納暢子)が渡辺との交流を深める中で、彼とさだの半世紀におよぶ“絆”を知ることで生まれたという。
「私は、渡辺俊幸さんのことを親しみを込めてナベ先生とお呼びしています。ナベ先生とは『利家とまつ』が放送された2002年頃に取材で知り合い、それからお会いする機会が増えていったんです。そのなかで、ナベ先生がさださんをソロデビューに導いたことや、長く一緒に仕事をされているということを伺って面白いなと思い、そこから二人のことを本にまとめようと考え始めました」(原納)
本書は、彼らの生い立ちから出会い、そして今日まで育まれてきた“絆”を、本人たちの言葉と著者の考察によってたどっていくのだが、二人のどちらが主ということでなく、それぞれの個性を浮き上がらせつつ、彼らの関係がバランスよく描かれている印象だ。また、あらためて二人の関係を知るだけでなく、さだの音楽をより深く味わうための興味深い示唆にも満ちている。
「私がナベ先生と出会ったのが20年くらい前で、さださんとの企画を考え始めたのが7〜8年前くらいからなので、けっこう長いあいだキャッチボールしながら進めて、2022年11月にようやく発刊できました」(原納)
1973年、グレープというフォークデュオでデビューしたさだは、渡辺がドラマーとして参加していたバンド、赤い鳥と同じ事務所に所属し、そこで二人は出会う。1976年にグレープを解散したさだは、渡辺に新たなバンドを一緒につくろうと提案するが、渡辺は「まさしはソロデビューするべきで、自分はプロデューサーとして支援していく」と説得。さだはソロアーティストとしての活動をスタートすることとなる。さだのソロデビューは成功するが、彼らの活動は必ずしも順風満帆には進まなかった。さだの音楽性を高いレベルで作品として表現していくために、音楽家としてさらに成長する必要を痛感した渡辺はボストンのバークリー音楽大学に留学する。
「ナベ先生が、“まさしの音楽は将来的にはもっとオーケストレーションが必要なものになっていく。そのためには、自分が本格的に学ぶ必要がある”と考えて、アメリカ留学のために仕事を休止することを決意したことも、それを受け入れたさださんもすごいと思うんです」(原納)
しかし、渡辺の留学中にさだは映画『長江』で巨額の借金を抱え、返済に奔走せざるを得なくなる。そんな苦難、鍛錬の時期をそれぞれが別に歩みながらも、彼らの“絆”は切れることなく、さまざまな形で花を咲かせていく。
本書では、それぞれの“思い”にていねいに焦点を絞って、その時その時の足跡を蘇らせていく。
「紆余曲折ある中で、半世紀近く一緒に音楽をつくっているということは大変なことです。けれど、本人たちはそれをすごいとも思っていない。自分の軸足をもったうえで、お互いに相手の求めているものにプラスで応えるようにしながら、今日まで続いているのが素晴らしいなと思います」(原納)
さだと渡辺は深い“絆”によってお互いを支えてきた。けれどその“絆”は、お互いのことを思い、その思いにそれぞれが応えようとしてきた結果であり、決して打算の産物ではないことを本書は教えてくれる。
さらに、一つ一つの文章は短く簡潔にまとめられていて読みやすく、タイトルには「情意投合」「七転八起」など、テーマに沿った四字熟語がキャッチとして付けられる遊び心も楽しい。
「二人の関係は商業的に成功するためのものではないので、ビジネス書のような構成にするのは違和感がありました。それで、時系列に沿って話を進めながら、“二人の関係を客観的に見たときに、こういうことは言えそうだ”という四字熟語をタイトルに入れていったら、二人の“絆”のあり方に興味をもってもらえるのではと思ったのです。読者が、ご自身といろいろな方との関係や“絆”を考える機会に、“さださんたちはこうだよね”と少し参考にしてもらえるとうれしいです」(原納)
彼らのような“絆”は簡単につくれるものではないだろう。けれど、そのあり方を自分の生き方と重ね合わせてみることも、本書を読む意義の一つかもしれない。
著者:ルーシー原納
価格:1,870円(税込)
発売元:全音楽譜出版社
詳細はこちら
文/ 前田祥丈
本ウェブサイト上に掲載されている文章・画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます。
tagged: ルーシー原納, 絆の極み ~さだまさしと渡辺俊幸の半世紀~
ヤマハ音遊人(みゅーじん)Facebook
Web音遊人の更新情報などをお知らせします。ぜひ「いいね!」をお願いします!