今月の音遊人
今月の音遊人:H ZETT Mさん「音楽は目に見えないですが、その存在感たるやすごいなと思います」
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「バイオリンを弾きたい」「バイオリンの音を出してみたい」──。そんな子どもたちが初めて出会うバイオリンが「分数バイオリン」。最小の1/16サイズから、段階的に1/10、1/8、1/4、1/2、3/4と揃う、子ども用のバイオリンだ。分数バイオリンの必要性とメリット、弾いていた当時の思い出を、バイオリニスト石川綾子さんに聞いた。
3歳の頃、近所の優しいお姉さんが弾くバイオリンの音色に魅せられたのが習い始めたきっかけ、と語る石川さん。最初に手にしたのは1/16サイズだった。
「それは確か、バイオリン教室でお借りしたものだったと思います。その後は身体が大きくなるのに合わせて、1/10から3/4まで、順に買い換えていきました。分数バイオリンは今もすべて大切に持っていて、先日のリサイタルでは1/10をアンコールで弾いてみました。とってもいい音が鳴って、『私はここから始まったんだ』という思いがこみ上げてきました」
ひとつ大きなバイオリンに替えるタイミングは、レッスンで弾く様子を見て、先生が提案してくれた。
「身体が大きくなるにつれて腕の長さが余ったり、手も大きくなって弾きにくくなったりします。先生はそこを見てくださいました。身体に合う分数バイオリンを弾くことが、上達の近道ではないかと思います」
そしてまた、バイオリンが大きくなっていくことが楽しみでもあったという。
「楽器が大きくなればなるほど音も大きくなって、音色も響きも豊かになるのがわかりました。同時に弓も長いものに換えていきますので、バイオリンの魅力のひとつでもある長くのばす音も出せるようになって、それも喜びでした。特に印象的だったのが1/2になったときです。子ども心にも、ちょっと大人になった気がしました」
フルサイズ一歩前の3/4になった時は、「楽器から学ぶことがたくさんある」と実感したそうだ。
「この楽器のよさを引き出したい、もっと深い音を出せるようになろう、例えるなら“おじいちゃん”のようなあたたかい音色を出したい、と思うようになりました。そのほかにも、本当にたくさんのことを楽器が教えてくれました。フルサイズを持ったときの感動も、分数バイオリンを経たからこそ感じられたのかもしれません」
自分の成長に合わせて楽器を換えていくことは学びの節目にもなり、バイオリンの魅力のひとつでもある、と語る。先生や家族と共に楽器を選んだことも楽しい思い出だ。
「みんなで選んだこのバイオリンのよさを、最大限、引き出せるように頑張ろう、という気持ちになりました。上達するにしたがって、自分の楽器への愛着もどんどん深まっていきましたね」
5歳からロンドン、15歳からシドニーに居住するなか、日々の練習時間を共にするバイオリンは、なくてはならないパートナーとなっていった。発表会やコンクールなど、人前で演奏する機会も増えた。
「バイオリンを習い始めたことで、子どもの頃から人前に立つ機会があったことは、とても貴重な経験になりました。練習で集中力もつきますし、没頭できる音楽は自分の居場所や心の支えにもなります。ぜひ多くの子どもたちに、音楽体験をしてほしいと思います」
世界各地でのコンサートをはじめ、クラシック、ポップス、歌謡曲、映画音楽、アニメソングなど、多様なジャンルを取り上げた演奏動画を配信するなど、幅広いファンから愛されている石川さん。音色に惹かれ、幼い頃に弾き始めたバイオリンが、世界の人々との架け橋となった。
あるコンサート後のサイン会でのこと。「子どもがこのコンサートに連れて来てくれました」と言葉をかけたお母さんがいた。石川さんの演奏動画を観た子どもが、お母さんをコンサートへと導いたのだった。
「すごく嬉しかったですね。私の演奏をきっかけに、バイオリンに興味をもって弾き始める子どもが増えてくれたら素敵だなと思っています」
分数バイオリンによって開かれる音楽の扉の向こうには、子どもたちの無限の未来が広がっている。楽器との出会いは、人生をカラフルに彩ってくれるに違いない。
幼少期のバイオリンとのかかわりについて、ご紹介しています。
「こどもとバイオリン」はこちら
石川綾子〔いしかわ・あやこ〕
3歳でヴァイオリンを始め、5歳よりロンドンに在住。ウェールズ皇太子後援の名門ロンドン音楽学校パーセルスクールに最年少で合格。イギリス・日本で数々の受賞経験を経て、15歳よりオーストラリアに在住。国立シドニー大学/シドニー音楽院を首席で卒業。ソリストとしてイギリス・シンガポール・ニュージーランド・中国・ロシア・ベトナム・フィリピン・ハンガリー・香港・オーストラリアなど世界各地で演奏活動を行っている。YouTubeなど動画投稿サイトの合計再生回数は1億5千万回を超え、国内外で幅広い演奏活動を展開中。長崎県国際観光ウェルカムアンバサダー。
オフィシャルサイト
文/ 芹澤一美
photo/ 宮地たか子
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