今月の音遊人
今月の音遊人:城田優さん「音や音楽は生活の一部。悲しいときにはマイナーコードの音楽が、楽しいときにはハッピーなビートが頭のなかに流れる」
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頭で考えすぎず音に寄り添い、モーツァルトの遊びにつきあうといい演奏ができるのです/實川風インタビュー
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2023.10.20
2015年パリで開催されたロン・ティボー・クレスパン国際コンクールで第3位(1位なし)を受賞し、翌年イタリアで行われたカラーリョ国際ピアノコンクールで第1位を受賞した實川風が、バイオリニストの大江馨と組んでモーツァルトの『ヴァイオリンとピアノのためのソナタ』を演奏する。2023年12月20日に東京文化会館で行われるその公演は、題して「馨と風の妙なる調和」。ふたりの「かおる」がどんなモーツァルトを生み出すのか、その抱負を實川に聞いた。
實川はソリストとしてJ.S.バッハやベートーヴェンをメインに据え、現代作品も視野に入れながら活発な活動を展開しているが、室内楽にも大いなる興味を抱いている。
「今回は日本モーツァルト協会からの依頼で、大江馨さんと一緒にモーツァルトのデュオリサイタルを行うことになりました。大江さんとはバルトークを演奏するなど、何度か共演を重ねていますが、彼の透明感あふれるやわらかく繊細な音色はすばらしく、ニュアンスに満ちた響きは、まさにモーツァルトにピッタリですね。モーツァルトの『ヴァイオリンとピアノのためのソナタ』は数多く存在しますが、ふたりでどの曲にしようかと十分に話し合いを重ね、前半は『ヘ長調K.377』『変ロ長調K.378』と調性を考慮して選び、後半は『変ホ長調K.302』と『イ長調K.526』というコントラストを重視して選びました。特にK.526に関しては、大江さんがぜひ弾きたいと言ったのです。今回、私はこれらの作品をすべて初めて演奏するのです。ですから、リハーサルもじっくり時間をかけたいですね」
實川は、子どものころからモーツァルトのピアノ作品はとても難しいと考えていた。
「いずれの作品も一見するととてもシンプルに見えますが、実はとても奥が深く、変化が著しく、つかみどころがない感じ。どうしてここで急にこんな風に表情が変わってしまうんだろうかと、つい頭で考えてしまう。そうするとうまくいかない。モーツァルトに、はぐらかされている感じがしてしまうのです。でも、それを頭で考えすぎず、音に寄り添い、モーツァルトの遊びにつきあうようにしないといい演奏が生まれません。ここがとても難しいところです。“音遊人”の心境にならないといけませんね。でも、モーツァルトのヴァイオリン・ソナタを演奏すると、ピアノ・ソナタを弾くのにとてもプラスになる。声部の理解が深まり、耳が開かれる感覚がするのです」
昔から音楽理論や和声や対位法を勉強するのが好きだった。子どものころから数学も大好きで、物を考え、探求し、理解することに達成感を抱いていた。音大時代も楽理などの分野に興味を抱き、そうした勉強を得意としてきた。
「それは、中学校の教師だった父親の影響かもしれません。父はマーラーやブラームスやベートーヴェンの交響曲の録音を愛聴し、《音楽作品全集》を図書館で借りてきて読んでいましたので、私も一緒にそれらを楽しんでいたのです。ショパンの曲など、作品番号をすべて覚えてしまうような子でした」
3歳でピアノを始め、音楽環境に優れた家で育ち、やがてピアニストの道を目指す。そして国際コンクールに参加し、2015年のロン・ティボー・クレスパン国際コンクールの入賞が大きな成果となり、演奏の場が広がった。
「このコンクールは短期間でタイトな日程が組まれ、課題曲も多い。集中するのが大変でしたが、パリの友人の家に宿泊できたためリラックスでき、とても助かりました。参加しようと思ったのは、ファイナルのリサイタルの課題曲にシューマンの『ピアノ・ソナタ第1番』が入っていたからです。これはあまりコンクールの課題曲に含まれる作品ではないのですが、ぜひ弾きたかったため、参加を決めました。あとはシューベルトの『即興曲作品142』とベートーヴェンの『ピアノ・ソナタ第32番』が入っていました。ただし、ファイナルのコンチェルトがプロコフィエフの第1番とベートーヴェンの第3番から当日指定される形でしたが、プロコフィエフは十分に用意ができていませんでした。ベートーヴェンになってくれと願ったのですが、プロコフィエフを指定されてしまい、それから数日間はまさに死に物狂いでさらいましたね。ここで大きな勉強をしました。コンクールでは、最後の曲までしっかり準備しておかないといけないということです」
こうした試練を経て、現在はソロ、室内楽、オーケストラとの共演まで幅広い作品をレパートリーとし、一度のコンサートを大切にし、常に全力投球で臨む。
「演奏を聴いてくださるかたが、現実からしばし異なる空間に身を置き、帰路に着くときには温かい気持ちになり、幸せな思いで帰ってほしいと思っています。音楽は形には見えませんが、力を与えてくれます。私はその思いでいつも演奏しています。今回のモーツァルトでも幸福感を味わってほしいんです」
「かおる」と「かおる」のデュオが音遊人の瞬間を生み出し、聴き手を幸福感に包み込む。
日時:2023年12月20日(水)18:45開演(18:15開場)
会場:東京文化会館小ホール(東京・上野)
料金(税込):一般5,000円、学生2,000円
詳細はこちら
文/ 伊熊よし子
photo/ 武藤章
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