Web音遊人(みゅーじん)

ザ・キーニング

元サブローザのレベッカ・ヴァーノンが再始動。新バンド、ザ・キーニングに高まる闇の期待

レベッカ・ヴァーノンの新プロジェクト、ザ・キーニングによるデビュー・アルバム『Little Bird』が2023年10月、海外で発表された。

新世代を切り開く暗黒耽美バンド、サブローザ

レベッカは2005年、ソルトレイクシティからサブローザを率いてデビュー。アメリカン・ゴシック的な暗黒耽美ヴァイオリン・ドゥーム・サウンドが支持され、アルバム『More Constant Than The Gods』(2013)が米“ローリング・ストーン”誌の“ベスト・メタル・アルバム20選”の1枚に選出。『フォー・ディス・ウィ・フォート・ザ・バトル・オブ・エイジズ』(2016)が日本でもリリースされるなど、メタルの新世代を切り開く旗手として注目されていた。筆者(山﨑)は2017年に米“サイコ・ラスヴェガス”フェスティバルで彼らのライヴを観ることが出来たが、いかなる光も差し込むことがない闇の世界観が確立されたステージは圧巻であった。

彼らは同年、ギターのディストーションを排除した特別編成のライヴをオランダ“ロードバーン・フェスティバル”で行うなど(『Subdued』としてアルバム化された)、新しい音楽的実験も行われていた。

『〜ザ・バトル・オブ・エイジズ』はインディーズながら高評価を得て、さらなる飛躍が期待されたサブローザだったが2019年5月、突然の解散宣言。「マジックのような13年を経て、サブローザは活動を終了する(今のところは)」というメッセージは、ファンを落胆させた。

レベッカはソロ・プロジェクトを始動させると発表されたが、手製のファッジ(お菓子)を即売会で販売したり菜園で野菜を育てたりするのに忙しく、2020年の大統領選に関する話題以外はSNSに書き込むことも稀だった。そんな一方で、彼女を除くメンバー達はジ・オトリスを結成。2022年の夏にアルバム『Folium Limina』を発表する。ヴァイオリンをフィーチュアしたドゥーム風味のメタル・サウンドはサブローザ直系のもので、楽曲・演奏ともにクオリティが高く、後継バンドとしてオールド・ファンから支持されるのに加え、新規のファンも獲得している。

ザ・キーニングのデビュー作『Little Bird』

ジ・オトリスが多くのリスナーのハートを掴んだのと同時に、話題となったのがレベッカの去就だった。このままフェイドアウトするか?……とファンを心配させた彼女が復活を果たしたのが2023年8月。ザ・キーニング名義で発表された楽曲『Little Bird』だった。


THE KEENING/Little Bird

実はこの“ザ・キーニング”というソロ・プロジェクト名(死者を悼んで号泣すること・その泣き声を指す)はサブローザ解散声明でも明らかにされていたが、まさに待望の始動。『Little Bird』はヘヴィなギターを排除したという点ではサブローザ時代の『Subdued』と共通するものの、サウンドのオーケストレーションが特徴であり、ヴォーカルのレイヤーやヴァイオリン、チェロ、ダルシマーなどが重なって、メタルとは異なる“重厚感”を持っており、ダークながらゴシックとは一線を画すメロディが光る秀曲であり、新作アルバムへの期待を高めるものだった。

そしてリリースされたアルバム『Little Bird』はファンの期待を上回る、レベッカの新しい門出を飾るのに相応しい充実した作品だ。先行公開されたタイトル・トラック『Little Bird』を筆頭に、濁りのないピュアな闇の美学が貫かれている。それでいて陰鬱な印象を与えず、すんなりと聴かせる清涼感とアート感覚が彼女ならではの個性だ。

サブローザ以来の大作主義は本作でも受け継がれており、前述の『Little Bird』が9分半。2部構成の『The Hunter』が合計13分、ラストを飾る『The Truth』が17分半。それでも一瞬たりとも緊張感が途切れることがなく、真っ暗な中にいる51分間がこれほどに心地よいものかと驚かされる。

そんな中にもほのかにメタリックな要素を感じるのは、レベッカと共にアルバム制作に携わった仲間たちのバックグラウンドもあるだろう。共同プロデューサーとしてクレジットされているのはネイサン・カースン。ドゥーム・メタル・バンド、ウィッチ・マウンテンのドラマーである。また、ミックスを担当しているのはメルヴィンズ、ニューロシス、ハイ・オン・ファイアーなどを手がけてきたビリー・アンダースンだ。彼らの手腕を得て、本作は幅広い音楽リスナー層、そしてメタル・ファンにも訴求する作品となっている。

『Little Bird』のリリースを待たず、ザ・キーニングは北米で2023年9月にアメリカ西海岸を中心に短期のツアーを行っている。レベッカ(ギター、ヴォーカル)、ビリー(ベース)、ネイサン(ドラムス)、アンドレア・モーガン(ヴァイオリン)、クリスティ・ケイサー(ギター)という編成のライヴは大きな声援で迎えられた。現状はアルバムからの曲をプレイしているが、既に新曲を書き溜めているというので、2024年により規模の大きなツアーを行うときにはレパートリーの幅が拡がっている筈。なおビリーとネイサンは“本業”が多忙のため、今後は新メンバーを加えていく予定。そのことによってザ・キーニングはレベッカのソロ・プロジェクトよりもバンドとしての色彩を濃くしていくだろう。

ザ・キーニングが向かう地平線の先にどんな闇が待ち構えているか。レベッカ・ヴァーノンとバンドの未来に期待したい。

ザ・キーニング

■アルバム『Little Bird』

アルバム『Little Bird』

発売元:Bandcamp
発売日:2023年10月6日
詳細はこちら

山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,000以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
ブログインタビューリスト

特集

今月の音遊人

今月の音遊人:木嶋真優さん「私は“人”よりも“音楽”を信用しているかもしれません」

7184views

ザ・ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンス

音楽ライターの眼

ザ・ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンス『ライヴ・アット・ザ・LAフォーラム』が予感させる旅路の終わり

1459views

ギター文化館

楽器探訪 Anothertake

歴史的ギターの音を生で聴けるコンサートも開催!

7421views

引っ越しのシーズン、電子ピアノやエレクトーンの取り扱いについて

楽器のあれこれQ&A

引っ越しのシーズン、電子ピアノやエレクトーンを安心して運ぶには?

113619views

おとなの楽器練習記

【動画公開中】ギタリスト木村大とピアニスト榊原大がトランペットに挑戦!

7463views

オトノ仕事人

大好きな音楽を自由な発想で探求し、確かな技術を磨き続ける/ピアニストYouTuberの仕事

46034views

荘銀タクト鶴岡

ホール自慢を聞きましょう

ステージと客席の一体感と、自然で明快な音が味わえるホール/荘銀タクト鶴岡(鶴岡市文化会館)

12043views

東京交響楽団&サントリーホール「こども定期演奏会」

こどもと楽しむMusicナビ

子ども向けだからといって音楽に妥協は一切しません!/東京交響楽団&サントリーホール「こども定期演奏会」

11018views

浜松市楽器博物館

楽器博物館探訪

世界中の珍しい楽器が一堂に集まった「浜松市楽器博物館」

31416views

われら音遊人:音楽仲間の夫婦2組で結成、深い絆が奏でるハーモニー

われら音遊人

われら音遊人:音楽仲間の夫婦2組で結成、深い絆が奏でるハーモニー

7323views

パイドパイパー・ダイアリー Vol.3

パイドパイパー・ダイアリー

人生の最大の謎について、わたしも教室で考えた

5378views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

10371views

おとなの楽器練習記:岩崎洵奈

おとなの楽器練習記

【動画公開中】将来を嘱望される実力派ピアニスト、岩崎洵奈がアルトサクソフォンに初挑戦!

11811views

民音音楽博物館

楽器博物館探訪

16~19世紀を代表する名器の音色が生演奏で聴ける!

12101views

宮田大チェロ・コンサート

音楽ライターの眼

ハープのスターダストを浴びるチェロの清澄な歌/宮田大チェロ・コンサート

1493views

音楽市場を広げたい、そのために今すべきこと/ジャズクラブのブッキング・制作の仕事(後編)

オトノ仕事人

音楽市場を広げたい、そのために今すべきこと/ジャズクラブのブッキング・制作の仕事(後編)

7496views

われら音遊人

われら音遊人:アンサンブルを大切に奏でる皆が歌って踊れるハードロック!

5099views

Venova(ヴェノーヴァ)

楽器探訪 Anothertake

スタイリッシュで斬新なデザイン。思わず吹いてみたくなるカジュアル管楽器「Venova(ヴェノーヴァ)」の誕生

10629views

音の粒までクリアに聴こえる音響空間で、新時代へ発信する刺激的なコンテンツを/東京芸術劇場 コンサートホール

ホール自慢を聞きましょう

音の粒までクリアに聴こえる音響空間で、刺激的なコンテンツを発信/東京芸術劇場 コンサートホール

12691views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

泣いているのはどっちだ!?サクソフォン、それとも自分?

6090views

楽器のあれこれQ&A

いまさら聞けない!?エレクトーン初心者が知っておきたいこと

28413views

こどもと楽しむMusicナビ

1DAYフェスであなたもオルガン博士に/サントリーホールでオルガンZANMAI!

3297views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

26119views