Web音遊人(みゅーじん)

元ちとせ、ジェイムス・テイラー、エリーダ・アルメイダ

それぞれの原点にあるそれぞれの思い/元ちとせ、ジェイムス・テイラー、エリーダ・アルメイダ

2002年に「ワダツミの木」で衝撃のデビューを飾った元ちとせは今、故郷の奄美大島に暮らして歌っている。10歳と8歳の男の子2人を育てる母でもあり、新作『平和元年』は母としての願い、心の叫びの歌なのだと感じた。と同時に、奄美に生まれ、小学校時代の全校生徒は4人、体育の授業は近くの川で泳ぐこと、といった生い立ちの彼女にとって戦争という最悪の環境破壊、人も動物も植物も生きるものすべての命を奪う行為は本能として断じて許せないのだと、強い思いがひしひし伝わってきた。
これは、平和を、戦争反対を歌ったカバー集。収録曲は1981年に松任谷由実が発表した「スラバヤ通りの妹へ」や、加藤登紀子が日本語詞を書いた、パリで生まれた反戦歌「美しき五月のパリ」、谷川俊太郎の詩に武満徹が曲を付けた「死んだ男の残したものは」など、全12曲。平和を祈ることこそ私たちが立ち返るべき原点で、それを怒りの拳を振り上げてわめくのではなく、あの裏声を見事に使った歌唱で美しくたおやかに歌い上げたこのアルバム、すばらしく、つよく胸に響く。

平和元年

『平和元年』元ちとせ
ソニー・ミュージックレーベルズ AUCL-184 3,000円(税抜)

驚いた新作が、ジェイムス・テイラーの『ビフォア・ディス・ワールド』。近年はキャロル・キングとの共演ライブで来日など話題も多かった元祖シンガーソングライターの彼、実はオリジナル・スタジオ・アルバムは十三年ぶりなんだそう。1968年にデビューし、40年以上キャリアのある彼にして、自らの歌を編むことが出来なくなっていたのか!と今さらに知った。そしてこのアルバムにはデビューした頃と同じテーマの曲が幾つもあるという。
彼の中で歌う自分をしかと見つめたときに胸にあるテーマは普遍で、ただひたすら進化し続けているそうだ。「17歳の自分と67歳の自分、大きく変わってない」と堂々と言う。確かにこのアルバムの曲の新鮮さ、繊細にしてしなやかで折れない強さ、昔と変わらない。音楽に初めて向かい合う人のような、みずみずしい驚きを自ら感じながら歌っている。うん、素敵だ。

ビフォア・ディス・ワールド

『ビフォア・ディス・ワールド』ジェイムス・テイラー
ユニバーサル・ミュージック UCCO-1157 2,600円(税抜)

今回の大穴はエリーダ・アルメイダの『歌わずにはいられない』。これは個人的に今年のベスト・アルバムになるかも。アフリカ、セネガルの沖合500キロに浮かぶ島国・カーボヴェルデ共和国、歌と踊りの国らしいが、初めて聞いた(あとで調べたら、グラミー受賞シンガー、セザリア・エヴォラの出身地だった!)。そこに生まれ、貧しい暮らしをしてきた少女は自らを励ますために曲を編み、歌うようになった。ここには彼女の人生そのものが凝縮している。ブルースだ。なのに、太陽のように輝いてリズムが飛び跳ね、躍動感いっぱい。なおかつ、石畳の道の向こうに伸びる薄暗い路地のようなものも見えてきそうな哀愁もある。
自身が爪弾くギターは詩情にあふれ、たっぷり想像を楽しませる。エリーダが育った、歌と踊りの国カーボヴェルデを訪れてみたくなった。

歌わずにはいられない

『歌わずにはいられない』エリーダ・アルメイダ
リスペクトレコード RES-269 2,500円(税抜)

 

特集

今月の音遊人 大貫妙子さん

今月の音遊人

今月の音遊人:大貫妙子さん「言葉で説明できないことのなかに本当に素晴らしいものがいっぱいある。それが音楽ですよね」

17505views

音楽ライターの眼

ラヴェルの「ボレロ」がジャズだったかもしれないという問題と松永貴志の確信犯的時代性

15663views

エレクトーンに新風を吹き込んだ「ステージア」

楽器探訪 Anothertake

エレクトーンに新風を吹き込んだ「ステージア」

23863views

初心者必見!バンドで使うシンセサイザーの選び方

楽器のあれこれQ&A

初心者必見!バンドで使うシンセサイザーの選び方

23807views

おとなの楽器練習記

【動画公開中】注目の若手ピアニスト小林愛実がチェロのレッスンに挑戦!

9908views

仁宮裕さん

オトノ仕事人

アーティストの音楽観を映像で表現するミュージックビデオを作る/映像作家の仕事

14124views

ホール自慢を聞きましょう

歴史ある“不死鳥の街”から新時代の芸術文化を発信/フェニーチェ堺

8804views

こどもと楽しむMusicナビ

親子で参加!“アートで話そう”をテーマにしたオーケストラコンサート&ワークショップ/第16回 子どもたちと芸術家の出あう街

5571views

ギター文化館

楽器博物館探訪

19世紀スペインの至宝級ギターを所蔵する「ギター文化館」

15118views

われら音遊人 リコーダー・アンサンブル

われら音遊人

われら音遊人:お茶を楽しむ主婦仲間が 音楽を愛するリコーダー仲間に

8100views

山口正介 - Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

この感覚を体験すると「音楽がやみつきになる」

8592views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

30788views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:注目のピアノデュオ鍵盤男子の二人がチェロに挑戦!

8518views

民音音楽博物館

楽器博物館探訪

16~19世紀を代表する名器の音色が生演奏で聴ける!

11553views

音楽ライターの眼

息の合った見事なギターコラボに今後も期待/沖仁×大萩康司×小沼ようすけ“TRES III”

738views

楽器博物館の学芸員の仕事 Web音遊人

オトノ仕事人

楽器のデモンストレーション、解説、管理までをこなすマルチプレイヤー/楽器博物館の学芸員の仕事(前編)

11822views

われら音遊人

われら音遊人:ただ今、バンド活動リハビリ中!

8090views

楽器探訪 Anothertake

空間を包み込む豊かな響き「フリューゲルホルン」

5254views

メニコン シアターAoi

ホール自慢を聞きましょう

五感で“みる”ことの素晴らしさを多くの方と共感したい/メニコン シアターAoi

3056views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

楽器は、いつ買うのが正解なのだろうか?

8463views

日ごろからできるピアノのお手入れ

楽器のあれこれQ&A

日ごろからできるピアノのお手入れ

65655views

日生劇場ファミリーフェスティヴァル

こどもと楽しむMusicナビ

夏休みは、ダンス×人形劇やミュージカルなど心躍る舞台にドキドキ、ワクワクしよう!/日生劇場ファミリーフェスティヴァル2022

3176views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

10312views