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今月の音遊人:山下洋輔さん「演奏は“PLAY”ですから、真剣に“遊び”ます」
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雄大な自然のなかで、辻󠄀井伸行と清水和音によるラフマニノフのピアノ協奏曲に酔いしれる/「富士山河口湖ピアノフェスティバル」レポート
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2023.12.29
tagged: 富士山河口湖ピアノフェスティバル, 辻󠄀井伸行, ピアノ, 清水和音
富士山の麓の雄大な自然のなかで繰り広げられる「富士山河口湖ピアノフェスティバル」。ピアニスト・イン・レジデンスを務める辻󠄀井伸行を中心に個性豊かなアーティストたちが登場し、ピアノ音楽の多彩な魅力を届ける。
3回目となる2023年は9月15日~18日の4日間にわたって開催され、地元や全国から多くの人々が集った。盛り上がりが最高潮を迎えた、最終日のGALAコンサートをレポートしよう。
連日大盛況のフェスティバルを締めくくったのは、生誕150周年を祝う「ラフマニノフGALA」。日本を代表するピアニスト、辻󠄀井伸行と清水和音がソリストとして登場し、ラフマニノフの『ピアノ協奏曲第2番』を清水が、『第3番』を辻井が演奏するという贅沢なプログラムが組まれた。
会場となったのは、ギリシャに現存する古代の野外音楽堂を模して造られた3,000人収容の野外大ホール「河口湖ステラシアター」。すり鉢型の客席はオーディエンスでびっしりと埋め尽くされ、時を遡ったかのような空間が期待と熱気に包まれる。
公演に先立ってステージに姿を現した辻󠄀井は、まずは軽快で温かいトークで人々を惹きつけた。今回清水が演奏する『ピアノ協奏曲第2番』は、『交響曲第1番』で失敗をしたラフマニノフの人生を変えた作品。辻󠄀井が2009年に優勝した「ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクール」で演奏した作品であり、自分自身と重なる部分があるように感じると語る。
実はフェスティバルの前週まで、辻󠄀井はヨーロッパ公演を行っていた。ロンドンのロイヤル・アルバート・ホールでは「BBCプロムス」に出演。ラフマニノフ『ピアノ協奏曲第3番』を披露し、7,000人以上の聴衆からスタンディングオベーションを受けている。
「『第3番』は音数が非常に多く、技術的にも表現力が問われる作品です。45分程度と長く、ほぼ休みがなく弾き続けるので体力勝負の曲。大好きな曲なので、演奏できて嬉しいです」
人気のピアノ協奏曲だけでなく、この日のプログラムはラフマニノフ三昧。
前半は、清水によるピアノソロ『6つの歌より 第4曲「美しいひとよ、私のために歌わないで」』で幕を開けた。プーシキンの詩による歌曲の、ワイルドによるピアノアレンジ版だ。続く『ヴォカリーズ』もワイルド編のピアノソロ版。清水が奏でる、哀愁に満ちながら流麗な音が聴き手の胸にひたひたと迫ってくる。
2曲のピアノソロの後には、ウィーンを拠点とするロッセン・ゲルゴフが指揮する東京フィルハーモニー交響楽団が登場。映画やフィギュアスケートの音楽にも使われてきた名曲中の名曲であり、清水の“おはこ”ともいえる『ピアノ協奏曲第2番』の演奏が始まった。
教会の鐘を彷彿とさせるメランコリックなピアノの響きに、たちまち会場中が惹き込まれていく。オーケストラとピアノの絶妙な絡み合いや随所に散りばめられた華やかな超絶技巧、圧巻のカデンツァ。美しいピアニッシモから力強く重い音までを巧みに鳴らす清水の技術と表現力で、第1楽章から第3楽章を通してラフマニノフが苦悩から希望の光をみつけるまでの壮大なドラマを見ているようだ。
アンコールにはショパン『ポロネーズ第6番「英雄」』で応え、会場は大きな喝采と拍手に包まれた。
後半は、辻󠄀井のピアノソロ、ラフマニノフ『鐘』から。フィギュアスケートの浅田真央がその管弦楽編集版を使用したことでも知られる前奏曲だ。
重々しい鐘の音にはじまり、遠くから徐々に近づいてくる鐘の音。その重厚な響きと美しい旋律を、まさにピアノと一体となった辻󠄀井が奏で、描いていく。
その感動冷めやらぬ会場に、再び大きな興奮をもたらしたのは『ピアノ協奏曲第3番』。この作品が完成した当時、ほとんど弾けるピアニストがいなかったとさえいわれる超絶技巧、そして、より複雑で緻密なオーケストラとの対話。磨き抜かれた技術と表現力で、辻󠄀井は会場を魅了していく。第3楽章が歓喜に満ちた音で力強く締めくくられると、一瞬の間も置かずに割れんばかりの拍手と「ブラボー」の声、そしてスタンディングオベーションが!聴き手たちもそれぞれが精一杯の表現で、その演奏を称賛した。
アンコールで披露したのは、『カプースチン8つの演奏会用練習曲より第1番「前奏曲」』。ラテンやジャズをふんだんに取り入れた速いテンポで進む演奏に、大きな歓声が上がった。
2023年の「富士山河口湖ピアノフェスティバル」は、コロナ禍の制約が取り払われてから初めての開催。演奏者もオーディエンスも心おきなく楽しみ、表現できる歓びにあふれていた。
文/ 福田素子
photo/ Tomoko Hidaki
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