Web音遊人(みゅーじん)

スティーヴン・ハフ

情感豊かな詩情あふれる演奏で感動をもたらす/スティーヴン・ハフ ピアノ・リサイタル

英国出身の世界的なピアニスト、スティーヴン・ハフは、ピアニストとしての卓越したキャリアに加え、作曲家、編曲家、研究者、作家としても高く評価され、2001年にマッカーサー賞(ジーニアス賞)、2022年には英王室から騎士(ナイト)の称号を授与されている偉才。「ヤマハCFXの多彩な音色と響きは、いつも私にインスピレーションを与え、音楽への旅に誘ってくれる」と語る彼が2023年に引き続き来日し、2024年7月2日に大阪のザ・フェニックスホールでのリサイタルでは、魅力的なプログラムをヤマハのコンサートグランドピアノCFXで披露した。

リストとショパンのロ短調の傑作ソナタを軸にした洗練されたプログラム

2023年6月にトッパンホールで開催されたリサイタルでは、モンポウ、ショパン、ドビュッシー、リストの作品に自作曲を加えたプログラムで聴衆を魅了したスティーヴン・ハフ。リサイタルのプログラム、アルバムの曲目やタイトルには、いつも彼なりの詩的なコンセプトがある。今回のリサイタルでは、同時期に生まれたロマン派の偉大な作曲家、リストとショパンのロ短調の傑作ソナタを軸に、フランスの女性作曲家セシル・シャミナードの珠玉の小品を散りばめた、彼ならではの粋で洗練されたプログラムを聴かせてくれた。

シャミナード『秋-6つの演奏会用練習曲』『オートルフォア-6つのユーモラスな小品』のしなやかな抒情あふれる演奏で幕を開けたリサイタル。続くリスト『ピアノ・ソナタ ロ短調』では、作品全体を俯瞰する知的なアプローチで、すべての音符を明晰にコントロールしつつ色彩豊かに歌わせ、壮大なドラマを構築していく。多彩なタッチと絶妙なペダリングから生み出されるCFXの煌めくような音色は、まさに絶品。ささやくような最弱音の美しさ、鳴らし切った最強音の奥深い響き、ダイナミクスの幅広さも驚異的だった。

後半は、シャミナード『主題と変奏』『森の精』のみずみずしい演奏で始まり、そのままショパン『ピアノ・ソナタ第3番』につなげた。繊細さと強靭さを併せ持つピアニズムで緻密な和声をポリフォニックに読み解き、幻想的なハーモニーのなかに随所に現れる美しい旋律を浮き彫りにし、自然なルバートで詩情あふれる演奏を繰り広げていく。圧巻は第4楽章のフィナーレ。当代随一のヴィルトゥオーゾぶりを発揮し、聴衆を感動の渦に巻き込んだ。

軽やかな足取りで颯爽とカーテンコールに応え、アンコールの1曲目は、ノルウェーの作曲家、クリスティアン・シンデイングの『春のささやき』。演奏する喜びがあふれ出すような輝きに満ちた演奏を楽しませてくれた。さらに大きな拍手に包まれて、ショパン『ノクターン第2番』。清々しい余韻を残してリサイタルを締めくくった。

スティーヴン・ハフ

イマジネーション豊かな世界が広がるCFXの音色

ショパンのノクターン全集、ワルツ全集、ドビュッシー没後100周年のアニヴァーサリー・アルバムなど、近年9枚ものアルバムをCFXで録音しているスティーヴン・ハフ。2022年3月、ロンドンのクィーンエリザベスホールで開催されたCFXのニューモデルのお披露目のコンサートでは、ゲルゲイ・マダラシュ指揮、フィルハーモニア管弦楽団と、ラフマニノフ『パガニーニの主題による狂詩曲』を、鮮やかなテクニックと繊細な情感にあふれた演奏で披露し、大きな反響を呼んだ。

「CFXの開発部門の皆さんに会うたびに、楽器をさらに良くしたいという姿勢を感じ、とてもうれしく思います。私がピアノに求めるのはまず透明感。そしてオーケストラのようなサウンド。CFXが持つ多彩な響きと多様な音の質感から、いつも多くのインスピレーションを得て、あれこれ試してみたくなります。楽器と語り合うことも、聴衆に語ることもできる、そんなピアノです。ピアノが自分の声になり、イマジネーション豊かな世界が広がるのです。ピアノと一緒に歌おうとするとき、皮肉なことに音は弾いた瞬間に減衰していきます。でも、CFXのハンマーが弦を叩き、音が消えていくとき、そこに魔法が生まれるのです。それが、CFXの魅力です」
こう語るスティーヴン・ハフとCFXとの今後の旅が、私たちにさらにどのような世界を見せてくれるのだろう。次回の来日公演が早くも楽しみだ。

スティーヴン・ハフ

photo/ 武藤章

本ウェブサイト上に掲載されている文章・画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

facebook

twitter

特集

今月の音遊人

今月の音遊人:反田恭平さん「半音進行が使われている曲にハマります」

16538views

ジャズとデュオの新たな関係性を考えるvol.4

音楽ライターの眼

ジャズとデュオの新たな関係性を考えるvol.5

4087views

Disklavier™ ENSPIRE(ディスクラビア エンスパイア)- Web音遊人

楽器探訪 Anothertake

自宅で一流アーティストのライブが楽しめる自動演奏ピアノ「ディスクラビア エンスパイア」

58527views

これからアコースティックギターを始める際のギターの選び方や準備について

楽器のあれこれQ&A

これからアコースティックギターを始める際のギターの選び方や準備について

17301views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:和洋折衷のユニット竜馬四重奏がアルトヴェノーヴァのレッスンを初体験!

5413views

オトノ仕事人

音楽フェスのブッキングや制作をディレクションする/イベントディレクターの仕事

13371views

人が集まり発信する交流の場として、地域活性化の原動力に/いわき芸術文化交流館アリオス

ホール自慢を聞きましょう

おでかけ?たんけん?ホール独自のプランで人々の厚い信頼を獲得/いわき芸術文化交流館アリオス

8592views

Kitaraあ・ら・かると

こどもと楽しむMusicナビ

子どもも大人も楽しめるコンサート&イベントが盛りだくさん。ピクニック気分で出かけよう!/Kitaraあ・ら・かると

6259views

浜松市楽器博物館

楽器博物館探訪

世界中の珍しい楽器が一堂に集まった「浜松市楽器博物館」

31415views

われら音遊人ー021Hアンサンブル

われら音遊人

われら音遊人:元クラスメイトだけで結成。あのころも今も、同じ思いを共有!

5752views

サクソフォン、そろそろ「テイク・ファイブ」に挑戦しようか、なんて思ってはいるのですが

パイドパイパー・ダイアリー

サクソフォンをはじめて10年、目標の「テイク・ファイブ」は近いか、遠いのか……。

8414views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

10371views

おとなの楽器練習記:岩崎洵奈

おとなの楽器練習記

【動画公開中】将来を嘱望される実力派ピアニスト、岩崎洵奈がアルトサクソフォンに初挑戦!

11811views

小泉文夫記念資料室

楽器博物館探訪

世界の民族楽器を触って鳴らせる「小泉文夫記念資料室」

23461views

音楽ライターの眼

演奏もお喋りも満載!清塚信也が初の生配信ライブ/清塚信也Xタイム online LIVE

5071views

オトノ仕事人

プラスマイナス0.05ヘルツまで調整する熟練の技/音叉を作る仕事

31761views

われら音遊人

われら音遊人:路上イベントで演奏を楽しみ地域活性にも貢献

3508views

サイレントブラス

楽器探訪 Anothertake

“練習”の枠を超え人とつながる楽しさを「サイレントブラス」

4597views

札幌コンサートホールKitara - Web音遊人

ホール自慢を聞きましょう

あたたかみのあるデザインと音響を両立した、北海道を代表する音楽の殿堂/札幌コンサートホールKitara 大ホール

18291views

山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

クラス分けもまた楽しみ、レッスン通いスタート

4939views

これからアコースティックギターを始める際のギターの選び方や準備について

楽器のあれこれQ&A

これからアコースティックギターを始める際のギターの選び方や準備について

17301views

こどもと楽しむMusicナビ

1DAYフェスであなたもオルガン博士に/サントリーホールでオルガンZANMAI!

3296views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

10371views