Web音遊人(みゅーじん)

今月の音遊人:西村由紀江さん「誰かに寄り添い、心の救いになる。音楽には“力”があります」

2021年、デビュー35周年を迎えるピアニスト・作曲家の西村由紀江さん。たくさんの美しい音楽を作り奏でている西村さんに、音楽の“原点”や、現在の在り方の根底にあるものをうかがいました。

Q1.これまでの人生の中で一番多く聴いた曲は何ですか?

物心ついたときに母がレコードで聴かせてくれた『サウンド・オブ・ミュージック』のメインテーマです。レコードのジャケットに描かれたマリアの姿を見て色々な想像をしながら曲を聴くのが本当に楽しい時間で、この曲のおかげで私は音楽に目覚めました。このミュージカルの舞台がザルツブルクというのを知り、子どもながらに“いつか行く”と決意したほどです。そしてそれは、大学卒業のときに叶えられました。そのころは、自分の音楽の方向性に悩んでいたタイミングだったということもあり、「モーツァルテウム音楽院の夏期講習を受けて、徹底的にクラシックを学んでみよう」と、オーディションを受けたのです。そして約1か月、そこでクラシック漬けの日々を過ごしました。この講習には世界各地から音楽家が集まるのですが、それこそ“音遊人”だらけでしたね。そして、イタリアから来たある学生のものすごく自由な解釈のバッハを聴いて、私自身も「“クラシック”とか“ポップス”とか音楽のジャンルについて難しく考える必要はないんだ、自分のやりたい音楽をやっていこう」と気づくことができました。『サウンド・オブ・ミュージック』は音楽人生の始まりであり、今の活動にも直結するものでもあります。楽曲はもちろん、きっかけをくれた母にも感謝しています。

Q2.西村さんにとって「音」や「音楽」とは?

音楽には“力”がある。最近は特にそう感じることが多くなってきました。
東日本大震災で被災されたご家庭にピアノを届ける活動をしているのですが、「ピアノが届き、そこに音楽が溢れることで、震災後はじめて日常が戻ったことを感じました」というお声をたくさんいただいたのです。それから、私が2、3小節弾いただけで、それまで全くピアノに興味がなかった女性の目から涙がこぼれ落ちたということもありました。その方は、娘さんの前で泣かないようにずっと気を張っていたそうなのですが、ピアノの音を聴いたことで心がときほぐれたのでしょう。
また、ある小学校でコンサートをしたときのこと。その学校には不登校の女の子がいて、長いこと学校に来られなかったようなのですが、その日は“コンサートなら”と登校してくれて。しかもそれをきっかけに、学校に通ってくれるようになったのです。彼女とはもう20年近く年賀状などのやりとりをしているのですが、どんどん活発になっていって、今ではもうお母さんになっているんですよ。音楽が誰かに寄り添い、心の救いになるということを改めて感じました。これもとても大きな“力”ですよね。

Q3.「音で遊ぶ人」と聞いてどんな人を想像しますか?

とても身近な方ですが……、バイオリニストの葉加瀬太郎さんでしょうか。彼とは同い年で、学校は違うのですが学生時代からとても仲が良いのです。特に最近は葉加瀬さんとチェリストの柏木広樹さんとトリオでの活動も行っているので、葉加瀬さんの情熱に触れる機会が増えています。彼はとにかく色々な曲を聴いていて、「今度はこういう曲やろうよ」と目を輝かせながら提案してくださるのです。音楽をやっているときは時間も何も忘れて夢中になっている感じですね。そういう姿に私も刺激を受け、“音遊人”になって、全国に音楽の楽しさを伝えていきたいと思っています。

西村由紀江〔にしむら・ゆきえ〕
桐朋学園大学に入学後すぐにアルバム『Angelique』でデビュー。美しくあたたかい作品と演奏で多くのファンを魅了し、『101回目のプロポーズ』『子ぎつねヘレン』など、ドラマや映画、CMの音楽を数多く手掛けている。全国各地での演奏活動の他、レギュラーでのラジオ出演や連載など活動の幅は多岐にわたる。ライフワークとして学校や病院でのコンサート、被災地にピアノを届ける活動「Smile Piano 500」も行っている。2021年4月、デビュー35周年、通算41枚目となる全新曲オリジナルアルバム『PIANO SWITCH 2〜PIANO LOVE COLLECTION〜』をリリース。
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