今月の音遊人
今月の音遊人:諏訪内晶子さん「音楽の素晴らしさは、人生が熟した時にそれを音で奏でられることです」
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版による楽譜の違いを知ることで、ショパンの音楽の本質を読み解く
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2015.12.24
tagged: ショパン, ヤマハミュージックメディア, 岡部玲子, ショパンの楽譜、どの版を選べばいいの?
フィギュアスケートの演技曲やCMなどで、誰もが一度は耳にしたことがあるショパンの曲。その名曲の数々は世界中で普遍的に愛され続けている。しかし肝心の楽譜に関して「絶対的に正しい一冊は存在しない」などと聞いたら、ほとんどの人が驚くに違いない。実は楽譜には校訂者や出版社の版によって細かい部分に違いがあり、ショパンはその違いが顕著だというのだ。
なぜそんなことが起こるのか?
その疑問に答え、違いを知ることでショパン作品への理解を深めるアプローチを提示しているのが『ショパンの楽譜、どの版を選べばいいの?』だ。著者は長年ショパン研究に携わっている岡部玲子。専門用語もわかりやすく解説し、読者の視点で謎解きを進める。これほど学術的で壮大なテーマにもかかわらず、推理小説のようにワクワクしながら読み進められるのが特徴だ。
謎解きは、それがなぜ生じるのかの理由を三点に絞るところから始まる。ひとつは、仏・独・英で同時出版されていたために印刷のもとになる原稿が三つ必要で、写譜されたり校正刷りを使い回したりする過程で、ショパン自身がそれらに改変を加えたこと(初版出版の経緯による違い)。次に、弟子のレッスン中に楽譜に書き込む形でショパン自身が改変したこと(レッスン中の書き込みによる違い)、そして校訂者(ピアニスト、作曲家、教育者など)が自分の解釈や演奏上の助言を加えたこと(ショパンの死後の付加と改変)。これらの原因をふまえた上で、実際に《ノクターン第二番》《バラード第一番》《プレリュード第九番》などの楽譜を例に挙げながら、違いの生じている箇所とそうなった経緯をたどり、作品に込められたショパンの意図に迫っていく。
では、それらを知った先に何があるのか。そこが本書の肝だ。研究者であると同時に演奏家でもある著者が最も伝えたかったのは「演奏者がもっと自発的に楽譜を選び、作品に向き合い、版による違いを知った上で、ショパンが表現しようとしたものを自分なりに解釈、咀嚼して演奏表現につなげてほしい」ということ。「先生の指示だから」ではなく、複数の楽譜の中から「この版で演奏したい」と選べるくらいまで意識を高めたら、より深く豊かな演奏に結びつくはず。なぜなら、音楽はひとつの正解を求める固定化されたものではないから。
「ピアノ指導者にこそ読んでほしい」と語る著者。長年にわたってショパンを研究し続けてきたのは、何より「ショパンが好きだから」。そんな強い思いのこもった本書は、新たなショパン演奏の扉を開く、画期的な書だ。
『ショパンの楽譜、どの版を選べばいいの?~エディションの違いで読み解くショパンの音楽』
著者:岡部玲子
発売元:ヤマハミュージックメディア
発売日:2015年9月17日
価格:2,000円(税抜)
詳細、ご購入はヤマハミュージックメディアの本書のページをご覧ください。
文/ 芹澤一美
photo/ 柏弘一郎
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