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今月の音遊人:石丸幹二さん「ジェシー・ノーマンのような表現者になりたい!という思いで歌の世界へ」
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【ジャズの“名盤”ってナンだ?】#043 “平穏な日常”をエンタテインメントに昇華させたジャズ・オリジネーターのワザ ~ ルイ・アームストロング『この素晴らしき世界』編
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2024.8.27
tagged: 音楽ライターの眼, ジャズの“名盤”ってナンだ?, ルイ・アームストロング, この素晴らしき世界
ロビン・ウィリアムズ主演の映画『グッドモーニング,ベトナム』を観たのは、日本で公開された1988年から1~2年後の、深夜枠のTV放映のときだったと記憶しています。
公開時に興味を示さなかったのは、ベトナム戦争を扱ったという内容になんとなく怖じ気づいていたからだと思うのですが、そろそろ寝ようかというときにたまたま合わせたチャンネルでこの映画が始まり、冒頭から引き込まれて観てしまったのでした。
この映画の重要なシーンに用いられていたのが、ルイ・アームストロングの歌う『この素晴らしき世界』でした。
それまでボクのなかでのルイ・アームストロングは、ビ・バップより前のディキシーランド・ジャズの人、すなわち“守備範囲外”という認識だったのが、この1曲によって、彼との距離が一気に縮まることになったのです。
では、身近になったルイ・アームストロングの代表作への認識はどのようにアップデートすればいいのか、考えてみましょう。
1967~68年にアメリカのスタジオ(ニューヨークとラスヴェガス)で収録された音源を用いたアルバムです。
オリジナルはLP盤で、A面6曲B面5曲の合計11曲を収録。同曲数同曲順でCD化されています。
メンバーは、ヴォーカルとトランペットがルイ・アームストロング、トランペットがジョー・ワイルダーとクラーク・テリー、トロンボーンがアービー・グリーンとJ. J.ジョンソンとタイリー・グレン、クラリネットがジョー・マレイニー、ピアノがハンク・ジョーンズとマーティ・ナポレオン、ギターがアート・ライアーソン、ベースがバディ・カトレット、ドラムスがダニー・バルセロナです。
収録曲『この素晴らしき世界』を作詞・作曲したのは、1940年代後半からレコード業界で活躍していた音楽プロデューサーのボブ・シールでした(ジョージ・デヴィッド・ワイスとの共作)。
彼は、内憂外患状態だった1960年代のアメリカの情勢を案じ、少しでも救いとなる歌を作ろうと思い立って、『この素晴らしき世界』という曲を作ったそうです。
そのデモ・テープを聴いたルイ・アームストロングがレコーディングを申し出て、レコード会社トップの反対を押し切って世に送り出した──という背景が本作にはありました。
レコード会社のトップが反対していたことがプロモーションに大きく影響し、当初のアメリカでの売れ行きは残念な結果になってしまいます。しかし、イギリスをはじめヨーロッパでは大ヒットを記録し、ジャズ・レジェンドであるルイ・アームストロングの最晩年を飾る代表作に数えられることになったのです。
歌唱と楽器演奏の“二刀流”により、場末のダンスBGMだったジャズを芸術の域にまで高めた功労者のひとりとして評価される一方で、1960年代になると、ジャンルを超越してヒット曲を生み出すルイ・アームストロングに対して“白人に媚を売る黒人”というニュアンスで使われる“アンクル・トム”という蔑称が用いられることもありました。
世紀のエンターテイナーとも称される希有な才能が嫉妬されたからであることは、いまになればわかるのではないでしょうか。
また、アフリカ系アメリカ人の公民権運動を後押しするようなプロテストソング寄りのムーヴメントがジャズ・シーンでも台頭していた1960年代に、社会批判を織り込むことなく、平穏な日常の情景を並べただけの平易な世界観を情感豊かに歌い上げたルイ・アームストロングのパフォーマーとしてのスタンスは、悟りの境地に達しているといってもいいかもしれません。
それゆえに前述の映画『グッドモーニング, ベトナム』でも強烈なインパクトを発揮し、2020年東京パラリンピック閉会式のフィナーレにおける選曲も、ルイ・アームストロングのイメージがあってこそ、だったのではないかと思っています。
ただ、そのイメージが持続しているということは、いまの世の中が、この作品が生まれたときよりも“素晴らしい世界”になってはいないことを意味しているのかもしれないのですが……。
富澤えいち〔とみざわ・えいち〕
ジャズ評論家。1960年東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる生活を続ける。2004年に著書『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)を上梓。カルチャーセンターのジャズ講座やCSラジオのパーソナリティーを担当するほか、テレビやラジオへの出演など活字以外にも活動の場を広げる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。『井上陽水FILE FROM 1969』(TOKYO FM出版)収録の2003年のインタビュー記事のように取材対象の間口も広い。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。
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文/ 富澤えいち
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