Web音遊人(みゅーじん)

スペース・ジャズ神サン・ラー主演SF映画『スペース・イズ・ザ・プレイス』2021年1月公開

伝説のスペース・ジャズ神、サン・ラーの哲学とヴィジョンを完全映像化した映画『サン・ラーのスペース・イズ・ザ・プレイス』が2021年1月、日本初劇場公開されることになった。
1972年に制作、1974年にアメリカで公開された本作。1969年6月にヨーロッパ・ツアー中に消息を絶った音楽家で思想家サン・ラーが宇宙船に乗って、黒人救済のために地球に帰還するという物語だ。“宇宙議会・銀河間領域の大使”を名乗る彼は理想的な惑星を発見、黒人たちを音楽によってその惑星に民族移住させるストーリーはアフリカの民俗文化とSFを融合させたアフロフューチャーSFの体裁を取りながら、アメリカの黒人文化を交え、ピンプ(ポン引き)ファッションもふんだんにフィーチュアされるなど、ブラクスプロイテーション・フィルム的なアプローチも取られている。

荒野で行われるサン・ラーとオーヴァーシーア(監視者)の時空を超えたカードバトル、サン・ラーの宇宙船のエネルギーの秘密を追うNASAのエージェントとの戦いなどのストーリーが絡み合い、大団円へと向かっていく。1960年代後半のサイケデリック・カルチャーからの影響や、一種“ラリった”ようなストーリーのねじれもあるものの、全82分、破綻する一歩手前で完走するのが見事だ。
(NASAのエージェントがサン・ラーを拘束するが、近所のダイナーで食事をしている間に救出されてしまうのはマヌケでしかない)

もちろんサン・ラーの音楽もひとつの軸となっている。長いシーンはないものの、随所で彼が率いるインターギャラクティック・ミス=サイエンス・ソーラー・アーケストラの演奏が収められており、1993年にはサウンドトラック・アルバムも発売されている。彼のフリーフォームなピアノとオルガン、ジューン・タイソンの女声ヴォーカルを筆頭に、音楽だけでも聴きどころが多く、本作は“音楽映画”としても楽しめる。

本作のハイライトのひとつであるサン・ラーのコンサートはオークランド・シヴィック・オーディトリアム(現カイザー・コンヴェンション・センター)の外観が使われているが、さすがに5千人以上収容の同会場ではなく、別のスタジオで撮影されたものだ。一説によると、制作者たちはマリリン・チェンバース主演のハードコア・ポルノ映画『グリーンドア』と共同で借りて撮影、使用料を折半にしたそうで、ドラムス台はそちらの映画で“別の用途”にも使われたのだという。

1970年代前半のブラック・ムービーということもあり、21世紀の日本人が見て違和感をおぼえる箇所もある。サン・ラーが救済しようとするのは黒人のみで、人種選別的な思想に基づくものだ。映画中に出てくるエッチなお姉さんたちは生き残り対象ではないのか……と少し悲しくなる。なお黄色人種への言及はまったくない。

本作はファッション面も興味深いものだ。サン・ラーの黄金のギラギラなヴィジュアルと古代エジプトをモチーフにしたかぶり物は、日本人が真似をしても絶対に似合わないゴージャスさを誇っている。“理想の惑星”で彼と対面する顔面ミラー人間は、マヤ・デレンの『午後の網目』(1943)を思い出す人もいるだろう。

自らを土星出身と語り、1993年に79歳で宇宙に旅立っていったサン・ラーだが、宇宙をテーマとする黒人アーティストは彼だけではなかった。ジョージ・クリントン率いるPファンク一家はファンカデリック『コズミック・スロップ』(1973)やパーラメント『マザーシップ・コネクション』(1975)で宇宙をイメージしている。アース・ウィンド&ファイアのヒット曲『宇宙のファンタジー』(1977)の原題は『Fantasy』で宇宙は全然関係ないが、その歌詞は“空高く飛びだっていく”ものであり、その鮮烈なラメラメのファッションは地球人離れしたものだった。ナイジェリア出身のキザイア・ジョーンズの『アフリカン・スペースクラフト』(1995)はアフリカの“宇宙船”と“スペース+クラフト=空間芸術”のダブル・ミーニングだ。音楽以外に目を向けると、映画『ブラザー・フロム・アナザー・プラネット』(1984)は地球の黒人に似たエイリアンがハーレムで何かいろいろする作品だったし、画家ジャン=ミッシェル・バスキアの作品にも宇宙(内的宇宙の場合も)をモチーフにしたものがあった。

ホモ・サピエンスの祖先がアフリカ大陸に生まれ、地球の各地へと拡がったという“アフリカ単一起源説”。近年ではこの説に反論も多くあるというが、ひとつ確かなのは、アフリカ黒人たちがさらに宇宙を目指していくということだろう。『サン・ラーのスペース・イズ・ザ・プレイス』は人類の未来を予見させる映画作品として、見なければならない。

映画『サン・ラーの スペース・イズ・ザ・プレイス』予告編

■インフォメーション

映画『サン・ラーのスペース・イズ・ザ・プレイス』

2021年1月29日(金)から全国順次公開
詳細はこちら

山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,000以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
ブログインタビューリスト

特集

秋川雅史さん「今は声を磨くことが楽しい。まだまだ成長途中で、人生を上っている段階です」

今月の音遊人

今月の音遊人:秋川雅史さん「今は声を磨くことが楽しい。まだまだ成長途中で、人生を上っている段階です」

9576views

なぜジャズのハードルは下がらないのか?vol.5

音楽ライターの眼

なぜジャズのハードルは下がらないのか?vol.5

5318views

CLP-600シリーズ

楽器探訪 Anothertake

強弱も連打も思いのままに、グランドピアノに迫る弾き心地の電子ピアノ クラビノーバ「CLP-600シリーズ」

40991views

楽器のあれこれQ&A

きっとためになる!サクソフォンの基礎力と表現力をアップする練習のコツ

13223views

おとなの楽器練習記

【動画公開中】ギタリスト木村大とピアニスト榊原大がトランペットに挑戦!

5655views

JTBロイヤルロード銀座

オトノ仕事人

日本では出逢えない海外の音楽体験ツアーを楽しんでいただく/海外への音楽旅行の企画の仕事

5333views

秋田ミルハス

ホール自慢を聞きましょう

“秋田”の魅力が満載/あきた芸術劇場ミルハス

1050views

Kitaraあ・ら・かると

こどもと楽しむMusicナビ

子どもも大人も楽しめるコンサート&イベントが盛りだくさん。ピクニック気分で出かけよう!/Kitaraあ・ら・かると

4452views

民音音楽博物館

楽器博物館探訪

16~19世紀を代表する名器の音色が生演奏で聴ける!

9318views

われら音遊人

われら音遊人:ただ今、バンド活動リハビリ中!

6208views

『チュニジアの夜』は相当に難しいが、次回のレッスンが待ち遠しい 山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

『チュニジアの夜』は相当に難しいが、次回のレッスンが待ち遠しい

4389views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

7635views

大人の楽器練習機

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:世界的ピアニスト上原彩子がチェロ1日体験レッスン

13990views

ギター文化館

楽器博物館探訪

19世紀スペインの至宝級ギターを所蔵する「ギター文化館」

11897views

“演奏経験の原点”の場に戻って、闊達なピアニシズムで魅了/小川典子ピアノ・リサイタル

音楽ライターの眼

“演奏経験の原点”の場に戻って、闊達なピアニシズムで魅了/小川典子ピアノ・リサイタル

4226views

オトノ仕事人

アーティストの個性を生かす演出で、音楽の魅力を視聴者に伝える/テレビの音楽番組をプロデュースする仕事

5713views

われら音遊人

われら音遊人:ただ今、バンド活動リハビリ中!

6208views

マーチングドラム

楽器探訪 Anothertake

これからのマーチングドラム ~楽器の進化の可能性~

8971views

ホール自慢を聞きましょう

歴史ある“不死鳥の街”から新時代の芸術文化を発信/フェニーチェ堺

5605views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

贅沢な、サクソフォン初期設定講習会

4585views

楽器のあれこれQ&A

モチベーションがアップ!ピアノを楽しく効率的に練習するコツ

37694views

こどもと楽しむMusicナビ

1DAYフェスであなたもオルガン博士に/サントリーホールでオルガンZANMAI!

1593views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

21727views