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音や音楽によるコミュニケーションの価値を信じ、未来へ継承していきたい/西本智実インタビュー
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2025.8.5
tagged: 西本智実, 西本智実プロデュース 《胡蝶の夢》~生命の森~, コンサート, インタビュー
創造的な演奏会を構築しながら、研究や教育にまたがる広範な活動にも尽力している指揮者の西本智実。現在上映中の芸術プロジェクト『《胡蝶の夢》〜生命の森〜』に加え、2025年秋から2026年春にかけては、芸術監督として脚本も手がけるバロック演奏会《音と言葉で紡ぐ 心の四季》や、音楽で時空を超える旅へといざなう総合芸術コンサート『人類の音楽史絵巻』が開催される。
近年、西本は教育の場でも精力的な活動を展開している。
「アメリカのオーケストラや海外の日本人学校も、公演で訪れた際、私に教育の場における活動を大変熱心に用意してくださいました。ダボス会議やハーバード大学ケネディスクールのグローバルプログラムにも招かれたことで多くのことを学び、社会活動を始めました。それらの過程で自分の体験が誰かの役に立つならと、教育の場に積極的に取り組むことで、社会をより良くする活動に従事するきっかけを与えていただきました。
自分自身の専門性を活かし、かつて私自身が音や音楽の中で不思議に感じていたこと、あるいは多くの専門家が関わる総合芸術としての舞台制作がどのようなチームプレイで成り立っているのか──そうした子どもたちからの問いかけに応え、彼らが自分自身で音や音楽を用いて難局を乗り越える力を身につけるための一歩となるようにと──この活動はとても大切な使命だと感じています。
私が実施するプログラムの中では、研究者と連携し、日常生活にある身近な素材も使いながら、音による振動の実験も行います。音による振動によって幾何学的な模様が現れ、聴こえない音の存在にも気づくことができます。自然の法則の美しさに触れた瞬間、子どもたちからは声があがります。それぞれが唯一無二のかけがえのない存在であることを、音や音楽を通して分かち合うことができます。音楽から予測する力や感受性が育まれ、プログラム実施後には演奏にも大きな変化が生まれます。子どもたちは常に、そうした可能性を秘めているのです」
西本は、日本の国宝寺院や世界遺産、16世紀に日本に入ってきた西洋音楽の演奏も重ねてきた。
「私にとって、サン ピエトロ大聖堂は、人類の叡智が結集された総合芸術の場でもあります。365日、毎時間異なる自然光が差し込み、ミケランジェロやベルニーニの彫刻が生き生きと息づいているような技術と自然の調和に毎回感動します。
様々なディテールや様式を理解するには、歴史的背景の把握も不可欠です。音楽が学問領域を横断し、分野と分野とをなめらかにつなぐ“蝶番”のような存在であることを確信しています」
2025年6月からヤマハミュージック 横浜みなとみらい 1F Music Canvasで上映されている『《胡蝶の夢》〜生命の森〜』は、映像・立体音響(ヤマハの立体音響技術AFC:アクティブフィールドコントロール)・自動演奏楽器(弦楽器、ピアノ、ドラムセット)を融合させた、西本ならではの多面的な芸術プロジェクトである。
「場内にある楽器には触れることができますので、その振動から、聴覚だけでなく全ての器官で音を感じる、特別な体験ができるでしょう。時間帯によって外の光も変わり、感じられるものも変化すると思うので、いろいろな時間帯に立ち寄っていただきたいです」
制作・演奏活動も精力的に展開しており、10月には、谷崎潤一郎『細雪』の舞台である芦屋にて、芸術監督として脚本も手がける朗読入りバロック演奏会《音と言葉で紡ぐ 心の四季》を開催する。日本を代表する女優 佐久間良子(映画『細雪』〈1983年、市川崑監督〉で次女・蒔岡幸子役を演じた)による朗読とともに、谷崎文学を想起させる世界観が演出される。
「大正から昭和にかけて、激動の時代を生きた人々の記憶、ちょうど私の祖父母の世代です。大正時代には生活の中で異文化が交差し、新たな様式が生まれました。今回の舞台ではバロック音楽を中心に、お箏も取り入れています。八橋検校の『六段の調』は、私の中でパラフレーズとして再構築し、西洋弦楽器との融合も試みます」
2026年3月22日には、脚本と指揮を手がける総合芸術コンサート『人類の音楽史絵巻』を開催。現存する世界最古の楽曲といわれる『セイキロスの墓碑銘(スコリオン)』を起点に、紀元前約2世紀頃から現代社会へとつながる「人類の音楽の歴史」を小学生から楽しめる全4章でたどる。

西本智実プロデュース Music Canvas Show『《胡蝶の夢》~生命の森~』
創造的な演奏会の構築、研究や教育にまたがる広範な活動。その原動力は、音楽の力を信じる揺るぎない信念にある。
「テクノロジーや情報が急速に進展する現代において、心がそれに追いつけないこともあります。音楽は、懐かしさを呼び覚ますだけでなく、未来を構想し、想像力を耕し、生きる力を与えてくれます。それこそが、音楽の持つ最大の魅力です」
西本はこれまで、ダボス会議やアメリカ ホワイトハウスでの会議、さらにはローマ教皇との謁見など、国際的な場で世界の課題解決に向けて議論する機会に数多く招かれている。
「こうした機会を通じて、今まさに私たちが第四次産業革命の只中にいることを強く実感しています。人工知能の進化よっての恩恵は驚くべきものがあると思います。
音や音楽によるコミュニケーションは、人と人を結ぶ文化の根幹です。こうした時代において、音を媒介としたコミュニケーションは、異なる文化背景を持つ人々が互いの意図を共有し合うための、極めて重要な手段だと考えています。何よりその価値を信じています。国際連携をしながら未来へと継承していく活動を続けています」
そう語る西本の探究心は、今もなお尽きることがない。

上映時間 11:50、13:50、15:50、17:50 各回約6分間
開場:ヤマハミュージック 横浜みなとみらい 1F Music Canvas(エクスペリエンスゾーン)
詳細はこちら
日時:2025年10月4日(土)14:00開演(13:30開場)
会場:ルネサンスクラシックス芦屋ルナ・ホール(兵庫県)
料金(税込):SS席11,000 円 S席8,800 円
詳細はこちら
日時:2026年3月22日(日)15:00開演(14:00開場)
会場:ソニックシティ・大ホール(埼玉県)
料金(税込):S席12,000円 A席10,000円 B席8000円 車椅子席2,000円
詳細はこちら
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文/ 音遊人編集部
photo/ 塩澤秀樹(1枚目)
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