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千住明

自動演奏ピアノ「ディスクラビア」が生みだしたメモリアル・コラボレーション/千住明 活動40周年記念 ガラ・コンサート2025

2025年9月28日、東京オペラシティ コンサートホールで開催された千住明の活動40周年を記念するガラ・コンサート。ラインアップは、千住が40年の長きにわたって生み出してきたCM音楽や映画、テレビドラマ・ドキュメンタリーの劇伴、オペラ作品、そして芸能界に新風を吹き込んだポップスのオーケストラアレンジ版による楽曲演奏と、実に多岐にわたる構成だ。トータル3時間を超える内容だったが、そのすべての作品において千住自らがタクト(指揮棒)を持ち、SENJU LABとGrand Philharmonic TOKYOという精鋭の音楽家たちを擁する二つの楽団混成による大オーケストラ「SENJU LAB Grand Philharmonic」を鮮やかに率いた。

多才ぶりと奥行きを感じさせる前半プログラム

高揚感と華やぎに包まれクラシックな正装で登場した千住がステージに登場。一曲目の愛・地球博 三井・東芝館『グランオデッセイ』メインテーマ(2005)のファンファーレ的な響きでキックオフ。演奏曲目も幅広いだけにゲスト出演者の顔ぶれも多士済々だ。

1988年の映画『りぼん RE-BORN』のサントラ音楽の一曲に新たに命を吹き込んだヴォカリーズ風の楽曲(千住は活動40周年の記念として2025年に『RE-BORN』と題されたアルバムをリリースし、その中にも納められている)をソプラノ小林沙羅が神秘的に歌い上げたのを皮切りに、『機動戦士Vガンダム』から『交響組曲第二番 Thousand Nests』(1993)、『鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST』から同名タイトルの楽曲(2009)とアニメ音楽から2作品を披露。
その間に実妹で、良き共演者でもあるバイオリニストの千住真理子との札幌/東京の二拠点シンクロ演奏が挟まれたのも興味深かった。曲目は『FANTASIA』と題され、明氏が1987年、89年にリリースしたCM曲やアルバムの中の楽曲をスペシャルなアレンジで演奏。真理子氏は札幌のスタジオからのスクリーン越しによるビデオ参加だったが、東京会場のオケとの一糸乱れぬ完璧なシンクロ演奏を聴かせた。

千住明

続いて、2007年に千住がプロデュースを手掛けた中森明菜のアルバム『艶歌』のテーマを尺八の藤原道山と共に演奏。そして、同年のNHK大河ドラマ『風林火山』のテーマをはじめ、ドキュメンタリー番組のテーマ音楽や付随音楽の演奏を通して、情緒あふれる幽玄な世界や劇伴の真骨頂ともいえるスケール感を披露。千住のクリエイター、プロデューサーとしての“奥行き”の深さを感じさせる内容だった。

技術の結晶が生みだしたメモリアル・コラボレーション

前半の最後を飾ったのは、ピアニスト・作曲家の故羽田健太郎氏によるピアノ協奏曲「宿命」第一楽章の演奏。ヤマハの自動演奏ピアノ「ディスクラビア」によって再現する羽田の演奏とSENJU LAB Grand Philharmonicとの“メモリアル・コラボレーション”が実現した。オーケストラの生演奏と、AI技術を用いて再現される自動演奏ピアノとのコンチェルトが演奏されるのは世界初だという。大型スクリーンには演奏と同期する羽田の映像が映し出され、サプライズ的な試みに会場は感動に包まれた。

「ヤマハのエンジニアの自動演奏装置にかける技術と、楽曲のデジタルアーカイブにおける日本の誇るエンジニアたちの技術の結晶」という演奏前の千住のコメントに、技術者たちに対する敬意が込められていた。「生前、自らの作品しか演奏しないと宣言していた羽田がこの曲を一週間で練習し、世に出してくれた」という思い出深いエピソードも交え、一瞬、感慨に浸る様子も印象的だったが、“シンフォニック・ラプソディ”と称されるにふさわしいスケールの大きいドラマティックな作品が羽田のタッチそのままの演奏で音響空間いっぱいに甦り、時を超えて生演奏が繰り広げられているかのような臨場感が会場を魅了した。

社会の歩みを映し出す数々の楽曲たち

後半のプログラムは、2014年に発表されたオペラ『滝の白糸』(ソプラノ独唱は小林沙羅)を皮切りに、1998年のテレビドラマ『聖者の行進』、そして東日本大震災がきっかけで創作された『坂道のうた』がカウンターテナーの藤木大地によって歌われた。日本の歴史に軌跡を残す出来事や時代の空気感を思い起こさせる往年の楽曲によって、40年の活動が、いかに社会の歩みと共にしてきたかを感じさせるワンシーンだった。

この後、シンガーソングライターの辛島美登里とエンターテイナーで歌手のグッチ裕三が続いて登場。辛島は彼女の代名詞ともいえる『サイレント・イヴ』を、千住編曲による抒情的なオーケストラ伴奏をバックに熱唱。切ない女心を歌い上げた。一方、グッチ裕三はピンクの煌びやかなジャケットでエンターテイナーらしさを存分に漂わせながら飄々と登場。バッハのト長調メヌエットのテーマをもとに創作された楽曲『A Lover’s Concerto』で空間をあたたかく包み込んだ。グッチは高校生時代から千住の憧れの存在だったというエピソードも会場を沸かせた。

客席がほのぼのとしたところで、ゲスト出演者全員がステージに揃い、『いのち、ありがとう』(大阪・関西万博「PASONA NATUREVERSE」のテーマソング)を熱唱。ジャンルを超えた多彩なアーティストたちが心を合わせ、生きていることの歓びを高らかに歌い上げた。

千住明

コンサートのフィナーレは、自身が「最も旬な作品」と語るTBSドラマ『VIVANT』から、『Father’s Land』と『VIVANT メインテーマ』。千住の錬金術師的なオーケストレーションの巧みさが引き立つ楽曲2作品の魅力を、オーケストラは段階的(階段状)に高潮してゆくドラマティックな表現とともにスケール感あふれる演奏で披露。前者では、オーケストラの中でピアノの力強い響きがコンチェルトを奏でるかのように勇壮に響きわたり、後者ではピアノとトランペットの絶妙な絡みが悲壮感とともに雄弁にダイナミズムを歌い上げ、千住の楽器の用い方の巧みさと職人芸の妙が音の波によって伝わってくるようだった。

全曲演奏後、興奮冷めやらぬファンの声援に応え、千住は「振り返ると、音楽業界においてジャンルの壁を打ち破ってきた自負があります。これからの40年もつねに一線でいたいと思っています」と力強く宣言していたのが印象的だった。

photo/ Kenji Agata

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