今月の音遊人
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今月の音遊人:葉加瀬太郎さん「音楽は自分にとって《究極のひまつぶし》。それは、この世の中でいちばん面白いことだから」
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2016.10.3
独特の熱気と愛情がこもったバイオリンの音色と陽気なキャラクターで、多くの音楽ファンを魅了している葉加瀬太郎さん。2016年はソロデビュー20周年を迎え、さらに新しい領域へのチャレンジを惜しまない。その熱い心に宿るのは。
好きな作曲家については15歳のときから浮気をしていません。即答でブラームス。特に室内楽曲は選び難いほど素晴らしいのですが、どうしても1曲を選ぶとしたら『クラリネット五重奏曲』ですね。出会ってから30年以上ですが、今でも自宅で聴くことが多いですし、レコードやCDはどれも買ってしまうほどマニア化しています。きっかけは高校1年生から2年生の頃、憧れていた女性の先輩がいて、彼女がクラリネットを吹いていたことです。
ブラームスもクラリネットと出会って五重奏曲を含む名作をいくつか書きましたし、僕自身もあの音色がたまらなく好き。いろいろな演奏を聴いていても、同じ楽譜のはずなのに生まれる音楽はどれも違っており、ブラームスほど引き出しがいのある作曲家はいませんね。
実は38歳のときに思い立って、3曲あるブラームスのバイオリン・ソナタをコンサートで弾いています。音楽家としての人生を送っているのに、いちばん好きな作曲家へ取り組まないなんてうそだろうと思い、そこからのチャレンジです。実際に弾き込んでみると、やはり奥深いし難しいですね。あと10年ほどで60歳になりますが、そのときに3曲のCDを出すというのが目標です。
ひとことで表現するなら「究極のひまつぶし」。暮らしの中でいろいろな楽しみはありますけれど、何もすることがないときには楽器を手にして音楽をします。それは、この世の中でいちばん面白いことだから。
子どもの頃から楽器の練習が大嫌いでしたけれど、上手になるためにはやらなくてはいけないこともわかっていますし、僕は若干Mっ気が強いので「いやだなあ、でもやらなくちゃ」という状況は嫌いじゃありませんでした。だからこそ、音楽家として今までやってこられたと思いますし、楽器と一緒にいることが好きなのでしょうね。気がついたらバイオリンと暮らしていたという感覚ですから、人生から楽器がいなくなることも想像できないのです。
それでも家族とバカンスへ行くときには楽器を置いていき、子供たちとひたすら遊ぶのですが、帰宅して楽器ケースを開けるときの怖さったらないわけですよ。元へ戻すだけでも3日くらいかかるということは知っていますし、弾いてみると「ああ、このポジションがうまく弾けない」といったことばかり。その繰り返しですけれど、それでも「楽しい」という感情が勝っているのです。
小学生のとき、今でも自分にとって神様のような存在であるイツァーク・パールマンのコンサートへ行きました。初めて本物を生で観て、演奏を聴いたらその素晴らしさにびっくり。アンコールではジョークも交えてクライスラーなどの小品を次々に弾いてくれ、僕たちを楽しませることも知っているわけです。終演後、いっしょに聴きに行ったバイオリンの仲間たちと舞台裏へ行ったら、楽屋に呼び込んでくれてみんなにサインをしてくれて、誰もがファンにならざるを得ませんよね。
音で遊ぶ人、というとギタリストのパット・メセニーやアントニオ・カルロス・ジョビン、エンニオ・モリコーネなども思い浮かびますね。みんな僕が大好きな音楽家たちで、音楽が丸い形をしているのです。そうした音楽が自分と共にあったからこそ「楽しい」ということを忘れずにすんだのかな。
演奏することは「仕事」ではなく「遊び」だと思ってきましたから、今まで辞めたいと思ったこともありません。でも、そういう気持ちを持続できたのは、ブラームスであったり坂本龍一さんであったり、素晴らしい音楽に出会えたからでしょう。
葉加瀬太郎〔はかせ・たろう〕
バイオリニスト。1968年大阪府生まれ。1990年、KRYZLER & KOMPANYのバイオリニストとしてデビュー。セリーヌ・ディオンとの共演で世界的存在となる。1996年の解散後ソロ活動開始。2002年、自身が音楽総監督を務めるレーベル“HATS”を設立。2013年、自身初のワールドツアー、2014年には、47都道府県をまわるコンサートツアーを成功させた。デビュー25周年の節目の年となる2015年春、KRYZLER & KOMPANYを再結成。同年、デビュー25周年を記念したアルバム『DELUXE〜Best Duets〜』をリリース。2016年、ソロデビュー20周年を迎え、3年ぶりにフルオリジナルアルバム『JOY OF LIFE』をリリース。オリコン週間総合チャート9位にランクイン。そのアルバムを引っさげ、9月15日東京公演を皮切りに50公演を数える全国ツアーがスタートした。
葉加瀬太郎オフィシャルサイト http://hats.jp/