Web音遊人(みゅーじん)

大江千里インタビュー Web音遊人

音楽人生第2章!ニューヨークでジャズピアニストに転身した大江千里、4作目のニューアルバム/大江千里インタビュー

ポップスのシンガー・ソングライターとして名を馳せながら、50歳を過ぎてジャズピアニストに転身した大江千里。世間には驚きの余韻が残っているかもしれないが、2016年9月7日に発売された4作目のアルバム『answer july』は、大江にとって初のボーカルアルバムだ。聴けば、彼がいかに本場ニューヨークでジャズメンとしての地歩を固めているかがわかるだろう。多彩なアプローチから音を紡ぐ作曲家としての進化、絶妙なタイム感や間合いなど奏者として磨き上げたセンス、そして大御所から若手まで培ったジャズの人脈までが、この作品に詰まっている。

「オーガニックで、ポエティックで、どこかかわいらしい絵本のような世界観を表現したかったんです。シンプルな言葉でとつとつと物語が始まって、ページをめくっていくような感覚の作品だと思います」
大江がこう語る今作のアイコンとして迎えたのは、ベテラン歌手、シーラ・ジョーダンだ。80代後半とは思えないチャーミングで艶のある歌声で、アルバムの扉をそっと開く。大江がジャズを学んだニュースクール ジャズピアノ科の講師や後輩たちの協力も仰ぎ、作詞にも大御所、ジョン・ヘンドリックスらが名を連ねた豪華なボーカルアルバムは、人生の酸いも甘いもかみ分けた大人にこそ味わい深く響く。それでいて全編、愛嬌に満ちている。決して一筋縄では行かなかったジャズへの道のりを笑って語る大江の人柄ようだ。

「アントニオ・カルロス・ジョビン、クリス・コナー、トニー・ベネット。中学生の頃から中古レコード屋で買いあさっていたジャズアルバムは、別世界に連れて行ってもらっているという感覚でしたね。ジャズ雑誌を読み、教則本も買って勉強もしたけれど、壁にぶち当たって。それでも、ポップスでデビューしてからもアルバムに2、3曲はジャジーなものを入れていた。いつかは、本場のニューヨークで学校に入ってゼロからやってみたいと思っていましたね」

大江千里インタビュー Web音遊人

一念発起したのが、47歳の時。ブラッド・メルドー、ロバート・グラスパーら近年のスターを輩出しているニューヨークの名門、ニュースクールを受験し、合格通知が来たのだ。「ポップスをやり尽くしてはいなかったけど、人生の限られた時間をどう使うかと考えた時、第2章をやれるかもしれないと思った。合格は自信になったし、そもそもジャズの勉強もある程度していて、ポップスの即興も得意。そんな鼻っ柱は、入学して全員でパッと音を出した時、いとも簡単に打ち砕かれましたね。あ、僕一人が全然違うところにいるな、と」
それからは、愚直に努力を積み重ねる日々。コードの重ね方を学ぼうと、若い学生が鍵盤を押さえる写真を撮影し、自宅で分析する。「翌日、そのコードを授業でやらされた。でも、せっかく覚えたことが出てこない」。それでも、ひたむきに練習を続けると、今度は手が腱鞘炎に。「努力してもかなわないことがあるんだ」と自覚した。20歳の学生の成長の速さを横目に絶望も感じた。「先生に、開校以来のダメ生徒だ、とも言われたこともありましたね」

それでも、徐々に道は開けていく。「2年時に受けた進級審査は、相当な模擬試験を積み重ねて合格。同じ頃、J-POPをやっているビッグバンドに誘われて外で弾き始めたりして、オーディションでも選ばれるようになった」
ニュースクールは4年半かけて卒業。その間にレーベル立ち上げなどニューヨークでのプロ活動の準備を整え、アルバム『Boys Mature Slow』でデビューを果たした。

今では、「ポップスの世界からジャズに行こうとした人を私は何人も見ているけど、あなたが今、スムーズに行っているということは、ジャズに愛されているからだ」と認められるほど。今作のために大江が、シーラ・ジョーダンを口説きに行ったときに授かったありがたい言葉だ。
「アメリカでは大江千里、誰それ?ってほとんど人のが知らないと思う。でも、ニューヨークで早く、あーあの人でしょって言われるようになりたい。このアルバムで得た勢いを止めずに、更にジャズのラジオステーションなどのオンエアにも力を入れていきたいと思います。」

人生は、ほろ苦い。でも、最高じゃない?大江のそんな思いが反映されたアルバムを存分に味わってほしい。


TINY SNOW (LONG VERSION) /SENRI OE featuring Sheila Jordan Sequence 10 1

 

■アルバムインフォメーション

『answer july』
answer july 大江千里 - Web音遊人
発売元:ヴィレッジレコーズ
発売日:2016年9月7日
価格:通常盤3,000円/初回限定盤4,500円(税込)
詳細はこちら

■ライブインフォメーション

SENRI OE “Answer July” ~Jazz Song Book~
公演の詳細はこちら

 

特集

今月の音遊人

今月の音遊人:渡辺香津美さん「ギターに対しては、いつも新鮮な気持ちでいたい 」

5224views

音楽ライターの眼

連載48[ジャズ事始め]“アジア”から“江戸”へと回遊を始めた21世紀初頭の日本のジャズ

1613views

練習用のバイオリンとして進化する機能と、守り続けるデザイン

楽器探訪 Anothertake

進化する機能と、守り続けるデザイン

5166views

大人のピアニカ

楽器のあれこれQ&A

「大人のピアニカ」の“大人”な特徴を教えて!

3118views

おとなの楽器練習記

【動画公開中】注目の若手ピアニスト小林愛実がチェロのレッスンに挑戦!

9718views

JTBロイヤルロード銀座

オトノ仕事人

日本では出逢えない海外の音楽体験ツアーを楽しんでいただく/海外への音楽旅行の企画の仕事

7002views

アクトシティ浜松 中ホール

ホール自慢を聞きましょう

生活の中に音楽がある町、浜松市民の音楽拠点となる音楽ホール/アクトシティ浜松 中ホール

14533views

こどもと楽しむMusicナビ

クラシックコンサートにバレエ、人形劇、演劇……好きな演目で劇場デビューする夏休み!/『日生劇場ファミリーフェスティヴァル』

6777views

武蔵野音楽大学楽器博物館

楽器博物館探訪

専門家の解説と楽器の音色が楽しめるガイドツアー

8464views

われら音遊人:バンド経験ゼロの主婦が集合 家庭を守り、ステージではじける!

われら音遊人

われら音遊人:バンド経験ゼロの主婦が集合 家庭を守り、ステージではじける!

8736views

サクソフォン、そろそろ「テイク・ファイブ」に挑戦しようか、なんて思ってはいるのですが

パイドパイパー・ダイアリー

サクソフォンをはじめて10年、目標の「テイク・ファイブ」は近いか、遠いのか……。

8211views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

30143views

ぱんだウインドオーケストラの精鋭たちがバイオリンの体験レッスンに挑戦!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】ぱんだウインドオーケストラの精鋭たちがバイオリンの体験レッスンに挑戦!

13397views

民音音楽博物館

楽器博物館探訪

16~19世紀を代表する名器の音色が生演奏で聴ける!

11345views

音楽ライターの眼

連載21[ジャズ事始め]空前のジャズ・ブームの陰で“新しい発見”を求める同志が出逢っていた

2205views

調律師 曽我紀之

オトノ仕事人

演奏者が望むことを的確に捉え、ピアノを最高のコンディションに整える/コンサートチューナーの仕事

3553views

上海ブラスバンド日本支部

われら音遊人

われら音遊人:上海で生まれた縁が続く大家族のようなブラスバンド

2308views

REVSTAR

楽器探訪 Anothertake

いまの時代に鳴るギターを目指し、音もデザインも進化したエレキギターREVSTAR

6509views

荘銀タクト鶴岡

ホール自慢を聞きましょう

ステージと客席の一体感と、自然で明快な音が味わえるホール/荘銀タクト鶴岡(鶴岡市文化会館)

11752views

パイドパイパー・ダイアリー Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

楽器は人前で演奏してこそ、上達していくものなのだろう

8157views

ヴェノーヴァ

楽器のあれこれQ&A

気軽に始められる新しい管楽器 Venova™(ヴェノーヴァ)の魅力

2170views

東京交響楽団&サントリーホール「こども定期演奏会」

こどもと楽しむMusicナビ

子ども向けだからといって音楽に妥協は一切しません!/東京交響楽団&サントリーホール「こども定期演奏会」

10790views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

30143views