Web音遊人(みゅーじん)

マイク1本から吟味して求められる音に近づける/レコーディングエンジニアの仕事(前編)

マイク1本から吟味して求められる音に近づける/レコーディングエンジニアの仕事(前編)

レコードおよびCDの制作にはさまざまな専門職が携わっている。なかでも、録音に必要な器材のセッティングや音量調整などを行い、ディレクターが意図する音を収録するのがレコーディングエンジニアの仕事だ。レコード制作の現場でどのような作業が行われるのか、レコーディングエンジニア(以下エンジニア)であり、クラシックを主に扱うレコードレーベル「オクタヴィア・レコード」代表取締役社長の江崎友淑(ともよし)さんにお話を伺った。

レコーディングにはスタジオ録音のほか、ホールでお客さんを入れずに演奏して録音をするセッション録音、コンサートでの演奏を録音するライブ録音などの方法がある。クラシックの場合は、近年、コンサートでの録音を音源として用いるのが主となっている。江崎さんは国内外のクラシック演奏を中心に、年間40~50枚のレコードを制作する。
「レコーディングエンジニアの仕事は、映画で言うとカメラマンに例えられます。監督が撮りたい映像を撮るために、カメラなどの器材を操作する。同じようにエンジニアはディレクターがほしい音を、電気的な技術を駆使して収録します」

電気的な技術とは、マイクやコードなどの録音器材のセッティング、録音後の音源のバランス調整などを指す。ホールでの録音を例にとれば、どのマイクを使うのか、マイクの本数、どこにマイクをセットするのか、さらにはケーブルのつなぎ方などが重要な要素となる。マイクの種類や位置によって、演奏の雰囲気の伝わり方は変わってくるのだ。
「オーケストラの最前列で聴いているような音がいいのか、ホールの真ん中で聴いている感じがいいのか。あるいは硬い音か、まるみのある音かなど、ディレクターのイメージを把握して、その音に近づけるようにします」

2012年に作ったオクタヴィア・レコードのスタジオ(トップ写真)は、かつてチェコスロバキア(当時)で音楽を学んでいたときの仲間が設計してくれた。ここでバランス調整などの作業を行う。最終段階では指揮者や奏者がここで音を聴き、その要望を聞きながら調整をすることもある。

2012年に作ったオクタヴィア・レコードのスタジオ(トップ写真)は、かつてチェコスロバキア(当時)で音楽を学んでいたときの仲間が設計してくれた。ここでバランス調整などの作業を行う。最終段階では指揮者や奏者がここで音を聴き、その要望を聞きながら調整をすることもある。

コンサート録音の場合、通常、ゲネプロ(本番前の最終リハーサル)1回、本番2回を収録するほか、お客さんが帰った後に30分~1時間、ディレクターが必要と判断した箇所だけを演奏して録音するパッチアップ(追加録音)が行われる。こうして録音した全音源を素に、必要な部分をつないで1曲に仕上げるのが編集作業となる。編集を専門に行う編集マンもいるが、江崎さんは編集もエンジニアの仕事として捉え、自身で行っている。
「編集がいちばん大変。10分程度の曲で50か所つなぐということもありますし、テンポの調整も行います。ひとつの曲としてきれいにつなげるのが編集の腕の見せどころです」

1曲につなげたら、全体の音量のバランスを調整する。コンサートホールに鳴り響いたオーケストラの膨大な音を、スピーカー2個で聴くところまでまとめる。それは多くの音を“捨てる”ことであり、「何を残してまとめるのかがむずかしい」ところだ。
「エンジニアはいわゆる職人ですから、指示を出すディレクターに対して忠実でなければなりません。その人の理想の音を、技術的な側面から理解することを大事にしています」

江崎さんのレコード制作者としてのキャリアは、実はディレクターからスタートしている。チェコスロバキア(当時)でトランペットを学び、オーケストラへの入団が決まった矢先に不慮の事故に遭い、演奏者を断念。縁あって入社したテレビ制作会社で番組制作と作詞家のマネジメントを担当するなか、仕事先のレコード会社からクラシックの専門的な知識を買われ、制作を担ってほしいと請われたのだ。
「演奏できなくなったことを思い出すのはつらいと思ったのですが、社長から『自分が演奏することだけが音楽じゃない。ものを作って喜んでもらうのも(音楽の)仕事』と言われて納得できたんです」
その後、録音技術についても学び、ディレクター、エンジニアとして、数々のレコーディングに立ち会い、レコードを作ってきた。その数はこれまでに2000枚にも及ぶ。

続きをみる

 

特集

今月の音遊人

今月の音遊人:藤田真央さん「底辺にある和音の上に内声が乗り、そこにポーンとひとつの音を出す。その響きの融合が理想の音です」

17152views

J.S.バッハ:ブランデンブルク協奏曲全曲演奏会

音楽ライターの眼

バッハ生誕333年、名手25人が秀逸な響きで333の客席を包んだ/J.S.バッハ:ブランデンブルク協奏曲全曲演奏会

10559views

赤ラベルが再現!ヤマハギター50周年記念モデル

楽器探訪 Anothertake

赤ラベルが再現!ヤマハギター50周年記念モデル

12912views

楽器のあれこれQ&A

講師がアドバイス!フルート初心者が知っておきたい5つのポイント

22058views

おとなの楽器練習記

【動画公開中】注目の若手ピアニスト小林愛実がチェロのレッスンに挑戦!

11270views

ヤマハ株式会社 神島由幸さん

オトノ仕事人

楽器になる樹木と最前線で向き合い、職人の元へ届ける/楽器用木材調達の仕事

512views

秋田ミルハス

ホール自慢を聞きましょう

“秋田”の魅力が満載/あきた芸術劇場ミルハス

7823views

こどもと楽しむMusicナビ

1DAYフェスであなたもオルガン博士に/サントリーホールでオルガンZANMAI!

4152views

浜松市楽器博物館

楽器博物館探訪

見るだけでなく、楽器の音を聴くこともできる!

15552views

われら音遊人

われら音遊人:オリジナルは30曲以上 大人に向けて奏でるフォークロックバンド

5487views

山口正介さん Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

サクソフォン教室の新しいクラスメイト、勝手に募集中!

5285views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

11810views

おとなの楽器練習記

【動画公開中】ギタリスト木村大とピアニスト榊原大がトランペットに挑戦!

8466views

ギター文化館

楽器博物館探訪

19世紀スペインの至宝級ギターを所蔵する「ギター文化館」

16829views

なぜジャズのハードルは下がらないのか?vol.5

音楽ライターの眼

なぜジャズのハードルは下がらないのか?vol.5

7004views

オトノ仕事人

リスナーとの絆を大切にする番組作り/クラシック専門のインターネットラジオを制作・発信する仕事

6726views

みどりの森保育園ママさんブラス

われら音遊人

われら音遊人:子育て中のママさんたちの 音楽活動を応援!

7932views

ピアニカ

楽器探訪 Anothertake

ピアニカを進化させる「クリップ」が誕生

20586views

水戸市民会館

ホール自慢を聞きましょう

茨城県最大の2,000席を有するホールを備えた、人と文化の交流拠点が誕生/水戸市民会館 グロービスホール(大ホール)

11490views

山口正介 - Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

この感覚を体験すると「音楽がやみつきになる」

9390views

楽器のあれこれQ&A

ピアノ講師がアドバイス!練習の悩みを解決して、上達しよう

5873views

東京文化会館

こどもと楽しむMusicナビ

はじめの一歩。大人気の体験型プログラムで子どもと音楽を楽しもう/東京文化会館『ミュージック・ワークショップ』

8746views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

34999views