Web音遊人(みゅーじん)

気鋭の指揮者とピアニストが語り合い、演奏する。 没後100年、ドビュッシーの魅力を今に/飯森範親、實川風インタビュー

気鋭の指揮者とピアニストが語り合い、演奏する。没後100年、ドビュッシーの魅力を今に/飯森範親、實川風インタビュー

『月の光』や『亜麻色の髪の乙女』などの曲が日本でもポピュラーなフランスの作曲家ドビュッシー。2018年には没後100年を迎える(命日1918年3月25日)。そこで、フランス印象派を代表するこの作家について、視点を変えて捉えてみようというコンサートが2018年2月に開催される。
ナビゲーターを務めるのは指揮者の飯森範親。美術に造詣の深い飯森がドビュッシーの音楽を絵画と絡めて、視覚的要素からも魅力を掘り下げていく。当日、ドビュッシーの作品をピアノ演奏するのは、近年、活躍が目覚ましい實川風だ。二人は實川が高校生のときに顔を合わせていたという。

飯森:バイオリニストの鈴木舞さんの演奏会で、伴奏者として来てくれたんだったよね。
實川:はい。高校3年生のときです。確か制服を着ていたのではないかと。
飯森:すごいピアニストがいると實川君のお噂は聞いていたのだけれど、たしかあの時、パガニーニを演奏したんだよね。パガニーニの曲はむずかしいのに、實川君はバイオリンとの掛け合いを相手の音を聴きながらしっかりやっていた。すごく上手だったのを覚えていて、「君は上手いなぁ」って言ったよね。
實川:覚えています。ですから、今回の舞台でご一緒できてとても光栄です。指揮者の方の感じていることを生の言葉で聞ける機会はなかなかありませんから、とても楽しみです。

ドビュッシーに対して二人は、「視覚的イメージを刺激される“色彩的”な作曲家」であるという認識を共通して持っている。

實川:ドビュッシーはベートーヴェンやショパンとは違う時代の作曲家。人間の感覚をフルに刺激するような音楽に魅力を感じています。それにドビュッシーのピアノ曲はオーケストレーションもできるし、反対にオーケストラの曲をピアノで弾いても陳腐にならない。曲の色彩やイメージをピアノでもオーケストラでも表現できるんですね。
飯森:おっしゃるとおりです。ドビュッシーの音楽って好きな人は多くいらっしゃるけれど、一方でなかなか理解されにくい。感覚的で独特な部分があるからなんですね。彼はフランスの印象派やバルビゾン派の画家たちの影響もおそらく受けているので、そういった絵を観ながらドビュッシーの音楽を聴いていただくと、より彼の音楽を理解するいいヒントになるんじゃないかなと思っています。

気鋭の指揮者とピアニストが語り合い、演奏する。 没後100年、ドビュッシーの魅力を今に/飯森範親、實川風インタビュー

山形交響楽団音楽監督を始め、東京交響楽団正指揮者、日本センチュリー交響楽団首席指揮者、ドイツ・ヴュルテンベルク・フィルハーモニー管弦楽団首席客演指揮者など、国内外で活躍する飯森にとって、ドビュッシーの音楽には特別の思い入れがある。

飯森:僕にとっては、フランス人指揮者の故ジャン・フルネ先生に感謝の気持ちを込めたコンサートでもあります。桐朋学園大学指揮科の学生時代は、先生方に全く認めてもらえず胃潰瘍になるくらい悩んでいました。そこで、「楽譜にうそをつかない、楽譜をとにかく読もう」と4年間で200曲を暗譜。そんなときにジャン・フルネ先生が特別授業で来られて、僕は、ドビュッシーの『海』と『牧神の午後』を振りました。『海』を終えたときに先生が「エクセラン!」と手を叩いてくださった。『牧神の午後』でも同じで、「彼はフランス人の我々よりもフランス音楽に対する感性があるかもしれない」とおっしゃってくれたんです。非常に厳しい指揮者として知られるジャン・フルネ先生の言葉に、僕は救われました。先生がいなければ今の僕はないくらい。ドビュッシー、そしてフランス音楽について語れることは、きっと先生への恩返しになるのではと思っています。

實川:今、こんなに活躍されている飯森さんにもそんな経験がおありなんですね。僕も学生のときに、ピアニストのダン・タイ・ソンから「とても素晴らしく弾けているけれど、これからは自分の言葉でしゃべっていかなければならない」と言われ、そのことをすごく深く考えるようになりました。それまでは先生から薦められた曲を弾いていましたが、自分で選んで考えて弾くようになりましたから。演奏する意味、自分には何が向いているのか、何を弾きたいのか……。そして今、演奏するときに大切にしているのが、その作曲者が生きて戻ってきたら「そう弾いてほしかったんだよ」と言ってくれるように弾くことなんです。
飯森:ダン・タイ・ソンのその言葉はかなり重い。それを受け止めたからこそ、實川さんの今があるんですね。僕の音楽の原点はフランス音楽にあります。ドイツのオーケストラをずっと振っていますし、ハイドンの交響曲全集にも取り組んでいます。将来的には日本人の演奏でハイドンは素晴らしい、バッハは素晴らしいと言われるようになりたい。でも、フランス音楽は全く違う感性を引き出してくれるもの。今回のコンサートのように、原点に立ち返ることも時々していきたいと思っています。

指揮者・飯森範親とピアニスト・實川風。ドビュッシーに対する思いから二人の音楽観にも触れられる、魅力あふれるコンサートになりそうだ。

■ 飯森範親と辿るドビュッシーの芸術~實川風(ピアノ)を迎えて~

日時:2018年2月23日(金)13:00開演(12:30開場)
会場:ヤマハホール(東京都中央区銀座7-9-14)
出演:飯森範親(ナビゲーター)、實川風(ピアノ)
料金:4,000円(税込/全席指定)
曲目:ドビュッシー/ベルガマスク組曲より『前奏曲』『月の光』、2つのアラベスク より 第1番 ホ長調ほか
※後半は、管弦楽曲『海』『牧神の午後への前奏曲』を取り上げ、美術やバレエなど、ドビュッシーとさまざまな芸術分野とのつながりについて解説します。
詳細はこちら

 

特集

今月の音遊人

今月の音遊人:松居慶子さん「音楽は生きとし生けるものにとって栄養のようなもの」

5719views

音楽ライターの眼

クリーデンス・クリアウォーター・リバイバル、“本物の”『ライヴ・アット・ロイヤル・アルバート・ホール』が半世紀を経て初公式リリース

1714views

【楽器探訪 Another Take】ベルの彫刻デザインとマウスピースも一新

楽器探訪 Anothertake

ベルの彫刻デザインとマウスピースも一新

9079views

楽器のあれこれQ&A

ドの音が出ない!?リコーダーを上手に吹くためのアドバイスとお手入れ方法

175989views

おとなの 楽器練習記 須藤千晴さん

おとなの楽器練習記

【動画公開中】国内外で演奏活動を展開するピアニスト須藤千晴が初めてのギターに挑戦!

7507views

一瀬忍

オトノ仕事人

ピアノとピアニストの絆を築く、アーティストリレーションの仕事

3133views

ザ・シンフォニーホール

ホール自慢を聞きましょう

歴史と伝統、風格を受け継ぐクラシック音楽専用ホール/ザ・シンフォニーホール

23004views

ズーラシアン・フィル・ハーモニー

こどもと楽しむMusicナビ

スーパープレイヤーの動物たちが繰り広げるステージに親子で夢中!/ズーラシアンブラス

13367views

民音音楽博物館

楽器博物館探訪

16~19世紀を代表する名器の音色が生演奏で聴ける!

11000views

われら音遊人:Kakky(カッキー)

われら音遊人

われら音遊人:オカリナの豊かな表現力で聴いている人たちを笑顔に!

7889views

山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

すべては、あの日の「無料体験レッスン」から始まった

5179views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

24751views

大人の楽器練習記:クラシック・サクソフォン界の若き偉才、上野耕平がチェロの体験レッスンに挑戦

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:クラシック・サクソフォン界の若き偉才、上野耕平がチェロの体験レッスンに挑戦

11151views

浜松市楽器博物館

楽器博物館探訪

世界中の珍しい楽器が一堂に集まった「浜松市楽器博物館」

29792views

音楽ライターの眼

連載32[ジャズ事始め]渡辺貞夫ら先輩たちから受けた“愛のムチ”と佐藤允彦の決意まで

2562views

JTBロイヤルロード銀座

オトノ仕事人

日本では出逢えない海外の音楽体験ツアーを楽しんでいただく/海外への音楽旅行の企画の仕事

6744views

われら音遊人:「非日常」の充実感が 活動の原動力!

われら音遊人

われら音遊人:「非日常」の充実感が活動の原動力!

7790views

“音を使って音楽を作る”音楽の冒険を「ELC-02」で

楽器探訪 Anothertake

音楽を楽しむ気持ちに届ける「ELC-02」のデザインと機能

8333views

久留米シティプラザ - Web音遊人

ホール自慢を聞きましょう

世界的なマエストロが音響を絶賛!久留米の新たな文化発信施設/久留米シティプラザ ザ・グランドホール

18697views

山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

大人の音楽レッスン、わたし、これでも10年つづけています!

6917views

購入前に知っておきたい!電子ピアノを選ぶときのポイントとおすすめ

楽器のあれこれQ&A

購入前に知っておきたい!電子ピアノを選ぶときのポイントとおすすめ機種

26714views

こどもと楽しむMusicナビ

親子で参加!“アートで話そう”をテーマにしたオーケストラコンサート&ワークショップ/第16回 子どもたちと芸術家の出あう街

5206views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

9638views