今月の音遊人
今月の音遊人:富貴晴美さん「“音で遊ぶ人”たちに囲まれたおかげで型にはまることのない音作りができているのです」
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初共演にして、火花散るようにエキサイティングな一夜/樫本大進&キリル・ゲルシュタイン プレミアム・コンサート
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2018.8.9
tagged: ピアノ, バイオリン, ヤマハホール, 樫本大進, キリル・ゲルシュタイン
世界最高峰のオーケストラ、ベルリン・フィルの第一コンサート・マスターとして、またソリストとしても大活躍している、樫本大進。今回ヤマハホールで開催されたのは、「古くからの友人で、世界中に名を轟かせているスター・ピアニスト」と樫本が絶賛する知性派ピアニスト、キリル・ゲルシュタインとの“プレミアム”なコンサート。樫本からの希望で、初共演が実現したという。この日は東京や京都、浜松など7カ所で開かれた二人のデュオ・リサイタルの最終を飾る日。息の合ったデュオでありながら、同時に音楽的な出会いが、火花散るようにエキサイティングな一夜になった。
この夜のヤマハホールは333席が完全に満員。熱心な“大進ファン”が大勢詰めかけて、熱気が会場にあふれた。二人が選んだプログラムは、「ぼくたち二人が拠点にしている、ドイツとオーストリアの作品を中心に」(樫本)組み立てられた。
最初は王道のベートーヴェン「バイオリン・ソナタ第6番イ長調Op.30-1」。出だしから気合いが入った緊迫感あふれる演奏。バイオリンの音色がクリアーにホール全体に響き渡り、ピアノも、力強い響きが印象的だ。第2楽章は優雅で美しい緩徐楽章。第3楽章は軽やかに息の合ったデュオが繰り広げられた。
続くブラームス「バイオリン・ソナタ第2番イ長調Op.100」は内面を掘り下げたより深い説得力あふれる演奏で、二人の音色も力強く響く。とくに第3楽章は骨太の激しい、迫力に満ちた演奏となった。
休憩後のモーツァルト「バイオリン・ソナタ変ロ長調K.378」は前半の2曲とは全く異なったアプローチ。ピアノのゲルシュタインは、前の2曲とは別人のような軽やかなタッチでやさしい音色を響かせる。彼の実力と柔軟さを見せつけられた演奏となった。バイオリンもピアノに触発され、闊達に優雅な旋律を奏でていく。優美さが際立つ第2楽章を経て、躍動に満ちた第3楽章で締めくくられた。
最後のR・シュトラウス「バイオリン・ソナタ変ホ長調Op.18」はこの夜の白眉。のちのオペラや管弦楽を思わせる旋律が散りばめられた華やかで、技巧的な曲だ。バイオリンは色彩に満ちた旋律を情熱的に奏で、ピアノと官能的に絡み合う。そして第2楽章は夢見るように流麗な旋律で、バイオリンがよく歌う。最後の第3楽章はR・シュトラウスらしい華麗な旋律と躍動感にあふれた楽章。バイオリンは切れ口鋭く、熱情的で力強く、スケール感を感じさせる演奏。明らかに円熟への道を進んでいる樫本大進の飛躍を印象づける、感動的なコンサートとなった。
鳴りやまない拍手に応えて、興味深いアンコールが2曲奏でられた。シューマンと彼を慕うブラームスの合作になる「F.A.Eのソナタ」から、シューマン作曲の第2楽章「インテルメッツォ」と、ブラームス作曲の第3楽章「スケルッツォ」。知性派二人ならではの考えぬかれたアンコールだった。
石戸谷結子〔いしとや・ゆいこ〕
音楽ジャーナリスト。1946年、青森県生まれ。早稲田大学卒業。雑誌「音楽の友」の編集を経て、85年からフリーランスで活動。音楽評論の執筆や講演のほか、NHK文化センター等でオペラ講座も担当。著書に「石戸谷結子のおしゃべりオペラ」「マエストロに乾杯」「オペラ入門」「ひとりでも行けるオペラ極楽ツアー」など多数。
文/ 石戸谷結子
photo/ Ayumi Kakamu
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