Web音遊人(みゅーじん)

宮本笑里

今月の音遊人:宮本笑里さん「あの一音目を聴いただけで、救われた気持ちになりました」

2017年にデビュー10周年を迎えたバイオリニストの宮本笑里さん。ジャンルの垣根を越えてバイオリンの魅力を発信し続けてきた宮本さんですが、2018年には自身の原点ともいえるクラシックの名曲を収録したアルバムをリリース。今回のインタビューでは、バイオリニストになる決心を支えてくれた大切な一曲や、音楽から受ける刺激など、10年のキャリアを経た今の宮本さんだからこそ語れるお話をうかがいました。

Q1.これまでの人生の中で、一番多く聴いた曲は何ですか?

やはりバイオリニストのCDは、学生の頃、通学の時に必ず聴いていました。なかでもいろいろな思い出があって忘れられず、ずっと聴いているのは、クリスチャン・フェラスのシベリウス『バイオリン・コンチェルト』で、特に第1楽章ですね。

私は中学生の時、ドイツのインターナショナルスクールに通っていました。その時期にバイオリニストになる覚悟を決めたのですが、他の人たちに比べて、バイオリンを始めるのも、バイオリニストを目指したのも遅かったので、不安もたくさんありました。それでも、演奏している時は、自分を精一杯表現できて幸せを感じましたし、常に心を支えてくれていたのがバイオリンでした。

当時、“頑張りたいけど不安”という複雑な心境だった私は、このクリスチャン・フェラスの『バイオリン・コンチェルト』の一音目を聴いただけで、救われたような、悩みが全部吹き飛んでしまったような気持ちになりました。一音だけでその演奏に引き込まれてしまうというのは、なかなかない経験でしたし、だからこそ今の歳になっても頭から離れない、私にとってキラキラした音色なんだと思います。

その音を聴いたからこそ、自分が目指したい音もより明確になりました。「こういう音を出したい、でもどうやったら出せるんだろう?」という大きな刺激をもらいましたから。たぶんあの演奏を聴かなかったら、違った音色の出し方をしていたかもしれないですね。

宮本笑里

Q2.宮本さんにとって「音」や「音楽」とは?

音楽には国境もないし、言葉がなくても伝わるものですし、そもそもジャンルに分けて括らなくても、楽しめるものであれば、それでいいのではないかなと思っています。

国によって、本当にいろいろな音楽がありますよね。声に出さない音楽もあれば、何かを叩くだけとか、土を踏んでいるだけとか。そういったものもすべて音ですし、人の心を豊かにしてくれるのではないでしょうか。もちろん私にとっても、音楽は常に心に栄養と刺激を与えてくれるものだと思っています。

日常の中で聴く音も好きで、水や波の音などは落ち着きますよね。以前、ひとり旅をしたいなと思い立ち、石垣島などに行って、海辺で波の音を聴いて癒されたりしていました。今は家族で鎌倉の海に行くことが多いですね。

Q3.「音で遊ぶ人」と聞いてどんな人をイメージしますか?

「音遊人」という言葉をみると、「人」の字の印象がすごく強いですね。やはり人間が音を楽しむことって、すごく大事なのではないでしょうか。いろいろな音楽を聴くことによって、新しいアイデアが生まれるかもしれないし、コンサートとかライヴは、ものすごいパワーをもらえたりします。私自身もお客様にとってそういう存在になれたらいいなと思いますし、いろいろな方のコンサートに行くと、いつの間にか元気をもらって 「また明日も頑張ろう」って思えますから。ある意味、音楽自体がパワースポットなのかなと感じています。

そして、そのパワーを出しているのが「人」であるから、アーティストは皆「音遊人」なんでしょうね。他の方たちと共演させていただくと、やはりご本人が楽しんでいるから輝いているのが、とても伝わってきます。それによってその場で聴いている人も楽しくなるんだなって。

あと、子どもも「音遊人」かもしれないですよね。うちの子も音楽が流れると、すぐに身体を動かしてダンスをしたり歌ったりするんです。大人になるとちょっと恥ずかしい気持ちになるけれど、子どもは誰に気を遣うでもなく、自然に踊り始めることができますから。驚くくらい、スイッチが変わりますよね(笑)。

宮本笑里〔みやもと・えみり〕
バイオリニスト。14歳の時、ドイツ学生音楽コンクールデュッセルドルフ第1位入賞。フジテレビ系ドラマ『のだめカンタービレ』オーケストラメンバーとしての出演や、サッポロビール「ヱビス〈ザ・ホップ〉」のCMに、父である元オーボエ奏者、宮本文昭と共演するなど、デビュー前からメディアで活躍。 2007年『smile』でアルバムデビュー。2008年TBS系テレビ『THE世界遺産』や、2009年NHK大河ドラマ『天地人』など、テレビや映画などのテーマ曲も多数担当。2018年には、初の全曲クラシック名曲集『classique』をリリース。 使用楽器はDOMENICO MONTAGNANA 1720~30をNPO法人イエロー・エンジェルより貸与されている。

 

特集

今月の音遊人

今月の音遊人:木嶋真優さん「私は“人”よりも“音楽”を信用しているかもしれません」

8632views

音楽ライターの眼

連載34[ジャズ事始め]自分だからこそ表現できるジャズをやるしかないと気づいた佐藤允彦が渡米するまで

3035views

v

楽器探訪 Anothertake

弾く人にとっての理想の音を徹底的に追究したサイレントバイオリン™

7745views

楽器のあれこれQ&A

ピアノ講師がアドバイス!練習の悩みを解決して、上達しよう

5818views

【動画公開中】沖縄民謡アーティスト上間綾乃がバイオリンに挑戦!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】沖縄民謡アーティスト上間綾乃がバイオリンに挑戦!

10432views

ステージマネージャーの仕事 - Web音遊人

オトノ仕事人

ステージマネージャーひと筋に、楽員とともにハーモニーを奏で続ける/オーケストラのステージマネージャーの仕事(後編)

19032views

ザ・シンフォニーホール

ホール自慢を聞きましょう

歴史と伝統、風格を受け継ぐクラシック音楽専用ホール/ザ・シンフォニーホール

30067views

こどもと楽しむMusicナビ

クラシックコンサートにバレエ、人形劇、演劇……好きな演目で劇場デビューする夏休み!/『日生劇場ファミリーフェスティヴァル』

8042views

上野学園大学 楽器展示室

楽器博物館探訪

日本に一台しかない初期のピアノ、タンゲンテンフリューゲルを所有する「上野学園 楽器展示室」

21703views

われら音遊人 リコーダー・アンサンブル

われら音遊人

われら音遊人:お茶を楽しむ主婦仲間が 音楽を愛するリコーダー仲間に

9174views

山口正介 - Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

この感覚を体験すると「音楽がやみつきになる」

9350views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

34871views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:注目の若手サクソフォン奏者 住谷美帆がバイオリンに挑戦!

10617views

民音音楽博物館

楽器博物館探訪

歴史的価値の高い鍵盤楽器が並ぶ「民音音楽博物館」

27300views

ベルリン・フィル内に室内合奏団を生んだ、シューベルトの《八重奏曲》を聴く

音楽ライターの眼

ベルリン・フィル内に室内合奏団を生んだ、シューベルトの《八重奏曲》を聴く

7359views

オトノ仕事人

音楽をやりたい子どもたちの力になりたい/地域音楽コーディネーターの仕事

11616views

練馬だいこんず

われら音遊人

われら音遊人:好きな音楽を通じて人のためになることをしたい

6865views

楽器探訪 Anothertake

改めて考える エレクトーンってどんな楽器?

142994views

人が集まり発信する交流の場として、地域活性化の原動力に/いわき芸術文化交流館アリオス

ホール自慢を聞きましょう

おでかけ?たんけん?ホール独自のプランで人々の厚い信頼を獲得/いわき芸術文化交流館アリオス

10284views

山口正介 - Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

この感覚を体験すると「音楽がやみつきになる」

9350views

楽器のあれこれQ&A

いまさら聞けない!?エレクトーン初心者が知っておきたいこと

32030views

東京文化会館

こどもと楽しむMusicナビ

はじめの一歩。大人気の体験型プログラムで子どもと音楽を楽しもう/東京文化会館『ミュージック・ワークショップ』

8690views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

28117views