今月の音遊人
今月の音遊人:古澤巌さん「ジャンルを問わず、父が聴かせてくれた音楽が今僕の血肉になっています」
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弦の名手6人が織りなす濃密な音の世界/伊藤亮太郎と名手たちによる弦楽アンサンブルの夕べ Vol.2
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2019.10.18
NHK交響楽団コンサートマスターの伊藤亮太郎を中心に、国際的に活躍する弦楽器の名手6名が紡ぎだすアンサンブルの夕べ。2018年6月に行われたコンサートが好評を博し、今回は第2弾となる。メンバーは前回同様、伊藤のほか、バイオリンの横溝耕一、ビオラの柳瀬省太と大島亮、チェロの横坂源と辻󠄀本玲。
幕開けはシューベルトの弦楽三重奏曲第1番。シューベルトが19歳で手掛けた作品で、第2楽章途中までで未完となっている。今回演奏された第1楽章は、優しい会話のようなかけ合いが印象的な、繊細かつ甘美な小品だ。伊藤、柳瀬、横坂の音色は絶妙に重なり合い、連符でもまったく乱れることはない。落ち着いた演奏が織りなす心地よいアンサンブルは、会場を優しく包み込んだ。
続いてブラームス作曲、弦楽五重奏曲第1番。夏の避暑地で書き上げた、民謡風ののびやかな作品だ。横坂を除く5名での演奏となる。重厚でロマンチックな第1楽章は、シューベルトにはなかった音域の広がりを印象付けた。鮮やかな転調の連続に思わず情景が浮かぶ。第2楽章は辻󠄀本のチェロが奏でる冒頭の旋律が大変美しい。緩徐楽章にスケルツォを取り入れるというやや変わった構成だが、終始集中力を絶やさず、最後は息を飲むほど繊細な弱奏で魅せた。第3楽章は随所に散りばめられた複雑な対位法をしっかり聴かせ、エネルギッシュに盛り上げてプログラム前半を締めくくった。
休憩明けは、チャイコフスキーの弦楽六重奏曲ニ短調「フィレンツェの思い出」がメロディックに響きだす。第1楽章は流れるような主題の受け渡しが心地良く、全員のトレモロで結ばれるラストは目が離せないほどの迫力だ。第2楽章は、伊藤の奏でる第1バイオリンの美しい旋律が甘く柔らかに歌う。ピッチカートのアルペジオに乗せてやや民謡風に始まる第3楽章は、どこかバレエ音楽のような雰囲気を漂わせ、特にチェロのピッチカートの受け渡しが見事。終楽章は丁寧な主題運びで少しずつ高揚していき、なかでも全員がユニゾンで奏でる強奏は絶妙な緊張感であった。柳瀬と大島のビオラが内声をしっかり支え、響きに安定感をもたらしている点も好印象。
プログラム終了後、伊藤がマイクを取った。この6名でのアンサンブルは、初合わせの段階から毎回が刺激的で楽しく、それぞれの成長を互いに感じ合えるのだという。第3弾開催への意欲をのぞかせると、会場からは期待を込めて大きな拍手が送られた。アンコールは、R.シュトラウスの弦楽六重奏のためのカプリッチョ。しっとりと歌い上げつつ、時には力強いトレモロの響きがホールを満たし、最後まで濃密な音の世界を楽しませてくれた。再びこのメンバーの演奏を聴ける日が今から楽しみである。
小田実結子〔おだ・みゆこ〕
作曲家・編曲家。武蔵野音楽大学作曲学科卒業及び、同大学院修士課程作曲専攻修了。教育活動の傍ら、雑誌取材や楽曲紹介といった執筆、クラシック音楽の創作を行う。奏楽堂日本歌曲コンクールをはじめ、作曲コンクールにおける入賞歴多数。
小田実結子オフィシャルサイト
文/ 小田実結子
photo/ Ayumi Kakamu
tagged: バイオリン, チェロ, 伊藤亮太郎, ビオラ
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