Web音遊人(みゅーじん)

2020年代にブルースを受け継ぐ男。ジョー・ルイス・ウォーカーが『ブルース・カミン・オン』を発表

ジョー・ルイス・ウォーカーがニュー・アルバム『ブルース・カミン・オン』を2020年6月に海外で発表した。

1949年、サンフランシスコ生まれ。シカゴやニューオリンズでブルースの王道を体得してきたジョーの5年ぶりとなる新作は、彼のギターとヴォーカルをたっぷりフィーチュアした、ライヴ感あふれるアルバムだ。1970年代に得たアイディアを膨らませて完成させたタイトル曲「ブルース・カミン・オン」を筆頭に、半世紀におよぶジョーのブルース人生を全12曲に集約している。

さらに本作を魅力的にしているのは、曲ごとに参加するオールスター・ゲスト陣だ。ヨーマ・コウコネン(ジェファーソン・エアプレイン)、アルバート・リー(エリック・クラプトン・バンド)、ミッチ・ライダー(デトロイト・ホイールズ)、ジェシー・ジョンソン(ザ・タイム)、ワディ・ワクテル(キース・リチャーズ&ジ・エクスペンシヴ・ワイノーズ)らベテラン勢に加えて、ケヴ・モやエリック・ゲイルズという現代を代表するブルース・プレイヤー、そしてサム・クックの娘カーラ・クックが2曲で見事なヴォーカルを披露している。

そんなキャラの濃い面々を前にしながらも、声高に自己主張するジョーのギターとヴォーカルが鮮烈なインパクトを持っている。

前作『エヴリボディ・ウォンツ・ア・ピース』(2015)発表前から着手していたという本作。貧困やホームレス問題をテーマにした「フィード・ザ・プア」(ヨーマ・コウコネン参加。当初はこの曲をアルバム・タイトルにするつもりだったという)のようなソウルフル・ブルースからジョーとエリック・ゲイルズのリード・ギターが絡み合う「ブルース・カミン・オン」、モータウン風味のある「カム・バック・ホーム」(ゲストのミッチ・ライダーはモータウンと同じデトロイト出身だ)など、多彩なサウンドで魅了してくれる。ワディ・ワクテルが参加するのはボビー・ラッシュの「ボウレゲッド・ウーマン、ノック・ニード・マン」だ。

いずれのゲストもジョーが「ブルースで知られている人ではないかも知れないけど、ブルースをやれる人ばかり」と語るとおり、トラディショナルなブルースにこだわることなく、彼らならではのブルースを表現している。ヨーマやミッチは1960年代からの旧知の友人であり、呼吸の合ったプレイを聴くことが出来るのも楽しい。

20世紀を彩ったブルースの偉人たちの多くは亡くなってしまったが、その魂を21世紀に受け継いでいくアルバムが『ブルース・カミン・オン』だといえる。

興味深いのは、本作がアメリカの“クレオパトラ・レコーズ”からリリースされていることだ。“クレオパトラ”といえば、インダストリアル・ミュージック系、ホークウィンドを中心とするスペース・ロック系、豪華なラインアップによるトリビュート・アルバムの数々でロック・リスナーに知られているレーベルだが、2015年にブルース部門“クレオパトラ・ブルース”を設立。ジュニア・ウェルズが遺した音源やパパ・チャビー、ランス・ロペス、エリック・ゲイルズら現代ギター・スリンガー達、B.B.キングの愛嬢シャーリー・キングらを擁するなど、ブルース・ファンからも注目を集めている。ジョーはその看板ブルースマンの1人として、『ブルース・カミン・オン』を世界に解き放ったのである。

2020年、新型コロナウイルスの影響でツアーが中止、自宅待機を余儀なくされているジョーだが、世界が平常に戻ったとき、何を置いても「日本でプレイしたい!」そうだ。

「俺はサンフランシスコのフィルモアのあたりで育ったけど、すぐ近くに世界最大の日本人街があった。子供の頃から日本には親しみがあったんだ」

彼が初めて日本を訪れたのは、記念すべき第1回ジャパン・ブルース・カーニバルだった。

「よく覚えているよ。ジョニー・アダムスとアール・キングと一緒だったんだ。一番最近日本でプレイしたのも同じカーニバルで、ソロモン・バークと一緒だったんだ」(2010年)

70歳にして、ギラギラとした艶気を放ち続けるギターは健在だ。2020年、ジョー・ルイス・ウォーカーの“ブルースがやって来る=Blues Coming On”!

■インフォメーション

『Blues Coming On』

※日本盤も近日発売予定。
詳細はこちら

山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,000以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
ブログインタビューリスト

特集

今月の音遊人

今月の音遊人:松居慶子さん「音楽は生きとし生けるものにとって栄養のようなもの」

5892views

音楽ライターの眼

世界初演、サクソフォン最前線/須川展也&田中靖人 サクソフォンデュオ・コンサート~ピアニスト、小柳美奈子と共に~

3054views

楽器探訪 Anothertake

奏者の思いどおりに音色が変化する、豊かな表現力を持ったグランドピアノ「C3X espressivo(エスプレッシーヴォ)」

8885views

楽器のメンテナンス

楽器のあれこれQ&A

大切に長く使うために、屋外で楽器を使うときに気をつけることは?

52472views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:独特の世界観を表現する姉妹のピアノ連弾ボーカルユニットKitriがフルートに挑戦!

4539views

江藤裕平

オトノ仕事人

音楽ゲームの要となるリズムノーツをつくる専門家/『太鼓の達人』の譜面制作の仕事

8453views

人が集まり発信する交流の場として、地域活性化の原動力に/いわき芸術文化交流館アリオス

ホール自慢を聞きましょう

おでかけ?たんけん?ホール独自のプランで人々の厚い信頼を獲得/いわき芸術文化交流館アリオス

7594views

こどもと楽しむMusicナビ

サービス精神いっぱいの手作りフェスティバル/日本フィル 春休みオーケストラ探検「みる・きく・さわる オーケストラ!」

9215views

上野学園大学 楽器展示室

楽器博物館探訪

日本に一台しかない初期のピアノ、タンゲンテンフリューゲルを所有する「上野学園 楽器展示室」

19516views

上海ブラスバンド日本支部

われら音遊人

われら音遊人:上海で生まれた縁が続く大家族のようなブラスバンド

2173views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

音楽知識ゼロ&50代半ばからスタートしたサクソフォンのレッスン

7785views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

9944views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:和洋折衷のユニット竜馬四重奏がアルトヴェノーヴァのレッスンを初体験!

4712views

武蔵野音楽大学楽器博物館

楽器博物館探訪

専門家の解説と楽器の音色が楽しめるガイドツアー

8390views

音楽ライターの眼

ブラッド・メルドーの『アフター・バッハ』は“無の境地”に至るショートカットなのかもしれない

5731views

一瀬忍

オトノ仕事人

ピアノとピアニストの絆を築く、アーティストリレーションの仕事

3519views

ギグリーマン

われら音遊人

われら音遊人:誰もが聴いたことがあるヒット曲でライブに来たすべての人を笑顔に

2069views

楽器探訪 Anothertake

人気トランペッターのエリック・ミヤシロがヤマハとタッグを組んだ、トランペットのシグネチャーモデル「YTR-8330EM」

4549views

しらかわホール

ホール自慢を聞きましょう

豊潤な響きと贅沢な空間が多くの人を魅了する/三井住友海上しらかわホール

13595views

パイドパイパー・ダイアリー Vol.3

パイドパイパー・ダイアリー

人生の最大の謎について、わたしも教室で考えた

5183views

これからアコースティックギターを始める際のギターの選び方や準備について

楽器のあれこれQ&A

これからアコースティックギターを始める際のギターの選び方や準備について

17095views

こどもと楽しむMusicナビ

1DAYフェスであなたもオルガン博士に/サントリーホールでオルガンZANMAI!

3056views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

25128views