今月の音遊人
今月の音遊人:村松崇継さん「音・音楽は親友、そしてピアノは人生をともに歩む相棒なのかもしれません」
3337views
フラメンコ・プログレを代表するカルメンの3作品が2020年リマスター&紙ジャケット仕様CDで復刻
この記事は3分で読めます
5235views
2020.11.10
1970年代にフラメンコとプログレッシヴ・ロックを融合させたサウンドで人気を博したバンド、その名もカルメンのアルバム3作が紙ジャケット仕様、2020年リマスター盤で再発され、新たな注目を浴びている。
1970年、ギタリストのデヴィッド・クラーク・アレンと妹アンジェラを中心にロサンゼルスで結成。「イエスの繊細さとミュージシャンシップとレッド・ツェッペリンのパワーにフラメンコを加えた」とデヴィッドが語る音楽性とフラメンコのステップをフィーチュアしたライヴは地元で人気を博したが、あまりに斬新なスタイルゆえに各レコード会社は二の足を踏む。それでデヴィッドは「アメリカよりイギリスの方が新しいアイディアに対してオープンだ!」と、渡英を決意した。
彼らにとって転機となったのは、トニー・ヴィスコンティとの出会いだった。デヴィッド・ボウイやTレックス、シン・リジィなどの作品を手がけた名プロデューサーとして知られるヴィスコンティだが、バンドの演奏を聴いて「はたして自分にプロデュース出来るのか?」と苦悩したが、結局首を縦に振った。
1973年に発表されたファースト・アルバム『宇宙の血と砂 / Fandangos In Space』はフラメンコとプログレッシヴ・ロックが妥協することなくぶつかり合う大胆なクロスオーヴァー作品であり、その独創性あふれるサウンドは今日聴いてもスリリングだ。特に3部構成の『ブレーリアス』とタイトル曲『宇宙の血と砂』はロックと実験性のマリアージュの成功例として、2年後に発表されるクイーンの『ボヘミアン・ラプソディ』に比するものである。ちなみにカルメンはクイーンと同じPR担当(トニー・ブレインズビー)を雇っていたことで面識があったが、カルメンが影響を与えたのでは? という可能性についてデヴィッドはやんわりと否定。「当時は誰もが音楽の境界線を拡げようとしていた。たまたま似た方向に向かっただけ」と語っている。
『宇宙の血と砂』を聴いて魅了されたのがデヴィッド・ボウイだった。彼は自分がプロデュースするTVスペシャル『1980フロアー・ショウ』にゲストとしてカルメンを起用。この番組でのライヴはバンド唯一の映像であり、現在ではデヴィッドのYouTubeチャンネルで見ることが出来る。2曲のみの出演だったが曲の良さ、演奏力の高さ、曲中のフラメンコ・ダンスと、バンドの魅力を捉えた内容だ。
セールス的に成功したわけではない『宇宙の血と砂』だが、時代を超えて聴き継がれ、2015年には米“ローリング・ストーン”誌の“プログレッシヴ・ロック名盤50選”の一枚にピックアップされている。
バンドは間を置くことなく、再びヴィスコンティをプロデューサーに迎えて1974年にセカンド・アルバム『舞姫〜スペインの恋物語 / Dancing On A Cold Wind』を発表する。エッジを増した『私のセヴィーリャ / Viva Mi Sevilla』やアナログ盤B面すべてを使った組曲『回想(スペインの恋物語) / Remembrances』など起伏に富んだ作品で、アレンジやハーモニーも入り組んでいるが、驚くことに大半の曲はスタジオで書いたもので、ほとんど一発録りだったという。
1975年初めにはジェスロ・タルの北米ツアーのサポートとして同行するなど、成功への階段を上りつつあったかと思えたカルメンだが、アルバムの売れ行きは伸び悩み、長期のツアーでの経費もかさむなど、金銭的には火の車だった。そのせいでザ・ローリング・ストーンズのツアー・サポートの話はなくなり、ヴィスコンティと離れることを余儀なくされるなど、さまざまな苦難に見舞われることになる。だが彼らは1975年、3作目のアルバム『ジプシーの涙 / The Gypsies』を発表。ツアー直後にスタジオ入りして、よりロックなノリを重視しているが、ドラマーのポール・フェントンが落馬して脚を骨折したため、バスドラムが入っていない曲もある。本作はアメリカ原盤で発売されたが、やはりセールスは振るわず、バンドは解散した。
デヴィッドは現在でもロンドンを拠点に音楽活動を続けており、より自分のチカーノ(メキシコ系アメリカ人)のルーツに根差した作品を発表している。アンジェラは音楽から身を退き、ロサンゼルスで主婦をやっている。ドラマーのポールは1999年、“ミッキー・フィンズ・Tレックス”の一員として来日した。デヴィッドはカルメン時代をこう思い出す。
「若さ、タイミング、正しいメンバー、運……マジックな時代だった。デヴィッド・ボウイやクイーンのロジャー・テイラーと親しくなって、マーク・ボランがラリって椅子から転がり落ちるのも見た。今でも、当時の作品が日本で再発されている。苦労もしたけど、当時を思い出すと今でも笑みがこぼれるよ」
『宇宙の血と砂』
発売元:マーキー/ベル・アンティーク
価格:3,143円(税抜)
『舞姫〜スペインの恋物語』
発売元:マーキー/ベル・アンティーク
価格:3,143円(税抜)
『ジプシーの涙』
発売元:マーキー/ベル・アンティーク
価格:3,143円(税抜)
日本公式レーベル・サイト
デヴィッド・クラーク・アレン公式サイト
山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,000以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
ブログ/インタビューリスト